苦水に蛍

あーさん。

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月夜の夜光虫

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アキとの始まりはまるで雷が落ちたようなものだった。
私は夜の散歩が好きで、よく夜の九時を過ぎてから家の周りをうろつく。
夜風は不思議と私の例えようも無い孤独を紛らわせてくれる。
公園に咲いた花の匂い。
近所の犬の鳴き声。
流れる川の水面の色。
雲の中にひっそりと身を隠す月。
その全てが私の生きる源であり、私が生きていると自覚させてくれる唯一の時間だった。
スーっと少し冷たさを持った風が私の頬を掠める。
昼間は暖かいのに夜は別の季節のように冷え込む。
「もう帰るか…」
私はゆっくりした足取りで家路に向かう階段を登った。
そこからはこの辺では一番綺麗な夜景が視界いっぱいに映る。
「…?」
先ほど横切った公園のベンチに誰か倒れている。
とても華奢で触れば壊れてしまいそうだ。
私より一個上か同い年といったところだろうか。
私は少しヒヤリとした。
外灯に照らされた彼女の顔は夜光虫のように美しい。
まるで蛍が最後の力を振り絞り、美しい少女に化けたようだ。
見てはいけない、と私の中の本質が酷く訴える。
でも私の熱を持った感情が止まる筈がない。
私の中の欲が身体の奥で暴れ狂う。
私はしばらくそこから動けなかった。
息が苦しい。心臓が痛い。
熱くなった身体の奥がズクズクと疼き始める。
「ハッ…ハッ…」
見開いた瞳から涙が溢れ落ちた。
長く綺麗なまつ毛が少し動く度、私の気持ちは加速する。
身体の奥から湧き上がった汚い私の感情。
「彼女は…私のものだ…」
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