不運なプリンスの闘い~未来の天皇は家族の危機に立ち向かう~

オーガスト

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本編

第6話 お互いの想い

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 智久と明子が外出してしばらく経った頃。

 残された佐喜子と理仁は俯いたまま沈黙していた。先に沈黙を破ったのは佐喜子だった。

 「あ、あのさ...理仁君はさ...この国が嫌になったり、皇族辞めたいとかって思った事ある?」

 「ないよ。どうしてそう思うの?」

 「あのね...誠子さまが倒れたニュースを見てた時、コメント欄に凄い酷い言葉がたくさん書かれてたの...どうしてこんな陰湿な事ばっかり言えるんだろうって...私だったらこんな人達の為に自由のない生活なんて受け入れられないかもって思っちゃったんだ...」

 「まあ、それは極一部だしね。大半の皇室に関心がない層があんな頭のおかしな人達を見たら皆ドン引きして関わろうとも思わないでしょ」

 「うん...そう、だよね」

 「僕は別にそんなものは気にしないよ。何回か両親や姉の公務に同行した事はあるけど出会った方々は皆温かく迎えて下さったしね。ごく一部の残念な人達の為にそう言った人たちとの交流を疎かにするようなことはしたくないんだ。」

 そう答えた後、理仁は少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 「もし僕が『皇室辞めたい』って言ったらどうするつもりだったの?」

 「辞めても生活ができるよう支えるつもりだったよ。例えば今教職課程履修してるから教員免許取って地元で教師になれば福利厚生も整ってるから2人、場合によっては3人でも生活...」

 そこまで言って佐喜子は自分が何を口走っているのか理解した。そして羞恥で顔を真っ赤にし、両手で覆った。

 「ごめん!今の忘れて~!」

 その様子を見た理仁は口を大きく開いて笑った。

 「あははっ!そうか、もし皇室を辞めたいって思ったら君が支えてくれるつもりだったのか...ありがとう、佐喜子ちゃん。ちょっと安心した。僕は1人じゃない。改めてそう思えただけでも良かった」

 滅多に見せない彼の笑い声に少し胸がドキリとした佐喜子。

 「うん。私は味方だよ。私だけじゃなく明子ちゃんも智久君も、多分これまで通った学校の子達も味方なんじゃないかな。」

 「そうだね。皆僕を温かく見守って下さった。彼らの為にも僕は皇室ここでの役割を果たしたいと思う。」

 (そしてその隣に君がいてくれれば、凄く心強いと思う)

 そう言いかけたが、理仁は辞めた。皇室で生きるという事は自由も権利も全て国家に捧げて国民の為に義務しかない未来を歩んでいくということを意味している。

 かつて伯母の皇后はその重圧に苛まれ、時子内親王を産んで間もなく精神疾患を患い今もなお回復の途上にある。

 祖母の上皇后も初の平民妃として色々と苦労を重ねていた。

 そして母も長年のバッシングに心を痛め胃腸の痛い日々を送っている。

 皇室に嫁いだ女性たちの苦しみを間近で見て来た理仁は出会ってから間もない彼女に惹かれつつ葛藤を抱いていた。

 母や祖母、伯母と同じ様な苦しみを佐喜子にも味合わせてしまうかもしれない。その時に伯父や祖父、父の様に相手を守ったり、時に正しく導くことができるのだろうか。

 そんなことを思うと自分が抱いた佐喜子への想いを口にすることを躊躇ためらってしまった。

 一方でそんな彼の胸中を知る由もない佐喜子は純粋に彼の覚悟に胸を打たれていた。

 同時に自分がどれだけ悪し様に罵られようとも挫けず自分の役割を果たそうとする彼の覚悟を内心で見くびっていた自分自身を恥じた。

 (馬鹿みたい...自分が不快に思ったからって相手も同じかもしれないと決めつけて彼を助けるにでもなったつもりになってた...)

 そう思いながら彼女は改めて理仁を支えたいという気持ちを胸の高鳴りと共に抱くのであった。

 ◇◇◇

 しばらく経って智久と明子が帰宅してきた。

 「ただいま~!おっさん、佐喜子ちゃん!」

 明子が笑顔で2人に声を掛ける。

 「お帰り、明子ちゃん」

 「明子、お帰り」

 2人共そう明子に声を掛ける。後ろから買い物袋を手に持った智久が入ってきた。

 「ただいま。2人共おにぎりとチキン買って来たぞ。」

 そう言って智久は2人に買い物袋を渡した。

 「ありがとう、智久君」

 「智久、ありがとう」

 2人はそれぞれお礼を言う。

 「さてと...そろそろ夜も暗いしそれ食ったらお開きにするか」

 「そうだね。」

 「今日は楽しかったよ。ありがとう。」

 「いいってことよ。また集まろーぜ!」

 そう言って智久は笑顔を見せる。

 理仁と佐喜子も顔を見合わせて笑い合った。

 ◇◇◇

 チキンとおにぎりを食べてから理仁と佐喜子はそれぞれ家を出た。週刊誌に付けられているリスクを考慮しつつ女性1人では夜道も危ないだろうということで佐喜子は智久と明子と共に学生寮に、理仁は護衛と共にセカンドハウスへと向かう事となった。

 「じゃ、またね3人共」

 「「「またね(な)~」」」

 こうして理仁は束の間の休息を終えた。

 ◇◇◇

 佐喜子の暮らす学生寮に向かう道中、明子はニヤニヤとしながら彼女に話しかける。

 「で、どうだったのよ?せっかくの2人きりでしょ?何か盛り上がったり交際に発展したりとかしなかったわけ?」

 「そんな風にはならなかったよ…ただ、理仁君って本当に未来の天皇なんだなって思った。他人の私でさえ不快感を覚えたネットの書き込みにも動じないし...改めて理仁君の力になれたらなって思ったよ」

 真剣な表情の佐喜子に明子も珍しく真面目な表情になる。

 「そうだね。でも、アイツ結構1人で抱え込みやすい性格してるからさ...私やトモ君も一緒に力になるよ。『3人寄れば文殊の知恵』って言うしね!」

 そう言って明子は佐喜子の肩を抱いた。智久も声を掛ける。

 「ああ。3人で理仁を守ろう。俺達なりのやり方で」

 「「そうだね」」

 そう言って3人は重責を担う友人を支える事を決意するだった。
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