不運なプリンスの闘い~未来の天皇は家族の危機に立ち向かう~

オーガスト

文字の大きさ
10 / 21
本編

第10話 姉の帰国

しおりを挟む
 英弘7(2025)年11月

 大学のキャンパスから程近い近衛このえ智久ともひさ二条にじょう明子はるこの暮らすアパートで理仁おさひと親王しんのうは普段の学友グループと過ごしていた。

 大学では誰が会話を聞いているのか分からないため、2人の暮らすアパートがたまり場となっていた。

 徳川とくがわ佐喜子さきこが理仁に話しかける。

 「理仁君、公務お疲れ様。もうすぐ誠子さまも帰国されるんだよね?」

 理仁も笑顔で返した。

 「ありがとう、佐喜子ちゃん。来週帰って来るんだ。だから空港まで出迎えに行くんだよ」

 それに智久が質問する。

 「でも、も同行するんだろ?大丈夫なのか?」

 「大丈夫だよ。思う所は色々あるけど、誠子姉さまを助けてくれたのは紛れもない事実なんだから」

 明子は感嘆とした様子で声を掛ける。

 「結構義理堅いんだね~…私だったらやっぱり会いたくないかも」

 「まあ嫌いだけどね。それでも世話になったから対面で感謝だけでも伝えたいと思ったんだ」

 理仁はそう明子に告げる。佐喜子は彼の器量の良さに敬意を抱いていた。

 相手がたとえ自身に重圧を敷いた相手であったとしても世話になった部分は素直に感謝を伝えるということはそう簡単にできる事ではないと思っているからだ。

 「そういう理仁君の律義なところ、本当にすごいなって思うよ。」

 「ありがとう。佐喜子ちゃん。」

 そう言って微笑み合う2人。その様子を智久と明子も嬉しそうに眺めている。

 理仁は佐喜子を含む学友との交流を心地良く思っていた。

 (ずっと...こんな穏やかな日々が続けばよいのにな)

 彼は心の中でそう呟いた。

 だが、理仁はいずれ皇位を継ぐという未来が待っている。そうなれば気軽に友人と会える立場ではなくなってしまう。

 また智久と明子、佐喜子も大学を卒業後、大学院に進学したり留学に行ったりしない限りは就職活動を通じて社会人となる。

 お互いのささやかな自由が終わりに近づいている事に少し切ない思いを抱いていた。

 「そういえばさ~…佐喜子ちゃんとおっさんって付き合ったりしないの?」

 明子の発言に2人の顔は一気に赤くなる。

 「は、明子ちゃん!?な、何を言い出すのよ急に!?」

 「そ、そうだよ!いきなり何だよ本当に!」

 真っ赤になって尋ねる佐喜子と理仁。明子はニヤニヤとしながら言葉を続ける。

 「2人共結構波長は合ってそうだと思うんだよね~!皇族だと結婚相手の家柄とかが障壁になることもあるみたいだけど佐喜子ちゃんのお家は徳川御三家の嫡流だし」

 「まあ家柄については文子姉さまが良くも悪くもぶち壊してくれたから大丈夫だと思うよ。」

 「そうだよ!家柄だけじゃなくちゃんと私の事好きになってもらっ…」

 理仁は高島たかしま智也ともやというを持ち出し、佐喜子は何か言おうとしたのだが再び途中で口走った内容に赤面してしまう。

 「やっぱり~!佐喜子ちゃんもおっさんの事気になってるんだ~!」

 「そうからかわないでよ明子。まあ僕も佐喜子ちゃんの事はちょっと良いかなって...」

 そこまで言って理仁も赤面する。

 2人して顔を真っ赤にして俯く姿を見た智久と明子はこう思った。

 (とっととくっ付けよこの2人)と

 ◇◇◇

 理仁が学友と過ごしてから1週間後

 成田空港にて、葛城宮かつらぎのみや維仁ゆきひと親王しんのう紗栄子さえこ、理仁と皇嗣職大夫の吉永はのプライベートジェットのタラップの下に立っていた。

 やがて、プライベートジェットのドアが開き、中から川瀬かわせ健仁たけひと誠子せいこ内親王ないしんのうが降りて来る。

 この時、理仁は初めて実の兄と直接対面する事となった。彼が物心つく頃には既に皇室を離れており、葛城宮が助けを求めるまで帰省する事が無かったからだ。

 「誠子...おかえりなさい。身体はもう良くなったのかい?」

 「誠子、顔色が良くなったわね。良かった…」

 安堵した様子で告げる葛城宮と紗栄子。2人はこの2ヶ月間彼女を忘れた日はなかった。彼女の回復した様子を見て2人共目にうれし涙を浮かべている。

 「誠子内親王殿下、殿下の御回復を皇嗣職一同揃ってお祝い申し上げます。」

 「お父さま、お母さま。おかげ様で十分回復しました。吉永大夫、ありがとうございます。また公務を再開いたしますのでまたお世話になりますね」

 吉永が声を掛けた後、3人に笑顔でそう伝える誠子。そこへ理仁も声を掛ける。

 「誠子姉さま、元気そうで良かった。ずっと心配してたんだ。俺の成年式までずっと我慢してたって聞いて...ごめん」

 理仁は少し申し訳なさそうに言う。彼は姉が自分の成年式までずっとつらい思いをしていたのを我慢していたことを聞き罪悪感を覚えていたのだ。

 「大丈夫だよ…あなたの晴れ舞台にはどうしてもお姉ちゃんの分まで参加したかったから。むしろあのタイミング倒れちゃってごめんね。成年式の後から公務も始まってたのに」

 そう言って誠子も申し訳なさそうに呟く。彼女は理仁が公務を開始し始めた時期にそばで支えられなかったことを悔やんでいた。

 「そんなことはないよ。お父さまやお母さま、それに時子姉さまも支えてくれたから。改めて多くの人々に支えられてたんだなって自覚したよ」

 理仁はそう呟く。未来の天皇は着実に周囲への感謝と謙虚な気持ちを抱き始めていた。そして彼は兄に目を向ける。

 「健仁さん...色々と思う所はありますが...誠子姉さまのことを助けてくれてありがとうございました。そのことについては感謝してます」

 そう彼にお礼を伝える。如何に強く憎む相手であったとしても、世話になったお礼は伝えるべきだと思ったからだ。

 「どういたしまして。理仁も何かあったら俺の別荘に来い。大歓迎だから」

 「いや、それは遠慮しておきます」

 理仁は一瞬で彼の提案をバッサリと切り捨てた。

 「健仁、本当にありがとう。」

 「あなたのおかげで皆助けられたわ」

 葛城宮と紗栄子はそう言って彼にお礼を言った。

 「いいよ、また何かあったら言ってね。いつでも駆け付けるから」

 そう言って笑う健仁。

 こうして、誠子の心を癒す旅は幕を閉じた。

 ◇◇◇

 誠子は公用車の後部座席に座っており、その隣には理仁もいた。

 「誠子姉さま、本当に元気になってくれてよかった」

 理仁はそう安堵した様子で声を掛ける。

 「おかげさまでね。理仁もありがとうね。私のやる予定だった公務を代わりにやってくれて。手話のスピーチ、凄く上手だったよ」

 「誠子姉さまやお母さまほどではなかったけどね」

 「でも一生懸命頑張ったのは伝わったと思うよ」

 そう言うと彼女は優しく彼を抱きしめる。

 「本当にお疲れ様。後はもう大丈夫。あなたの人生には義務しかないのだから、残り少ないささやかな自由を楽しんでね」

 彼女に抱き寄せられながら理仁は「そうだね。いっぱい楽しもうと思う」と答えた。

 そんな彼に誠子は優し気に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

幽世路のお繚

悠遊
キャラ文芸
【この世】と【あの世】  もし何処かに、二つの世界を行き来する《通り路》があったとしたら……  そしてもし、現世の人間が何かしらでそこへ足を踏み入れてしまったら── 「ここは生者が居るべき場所ではありませんよ?」  二つの世界の狭間に迷い込んだら御用心。  “幽世路の番鬼”がアナタの元へ参ります。  

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...