不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第一章

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爺が何かを抱えて戻ってきた。それは何かビンのようなものだった。
「お前ら、これを一杯ずつやる。」

なんとそれは、爺がギズモンド卿から現役時代に直接頂いた酒であった。

「これはいざという時にしかわしは飲まないんじゃ。

お前らに特別分けてやるから、ありがたく飲むといいぞ。」

一同はまさか爺の秘蔵の酒が出てくると思っていなかったため、
目が点になりながらも礼を言った。

一人クガヤだけは、
(何だ酒か…もっといいものを期待したじゃないか!)という目が隠しきれてなかったが。

爺は続けた。「そう言えば、刃こぼれがどうのと言っていたな。

ここでは修理できる者がおらんのだが、ここの森に鍛冶屋がおったぞ。そんなに近くでもないがな。

まあ、居たのは随分昔で、今は別の場所にいるのだという話もあるな。
もし会えるようなら行ってみるといい。」

爺はまた思わせぶりに言葉を切った。
「ところで、仙女がいる泉が森にあるという噂もある。

こちらも、はっきり場所はわからんが。

怪しげな術使いらしいから、道中気をつけろ。」

一同は爺に礼を言った。

これより以後、しばらくして、討伐軍周辺に出どころ不明な妙な噂がいつの間にやら流れることとなった。

それは、謎の諜報部隊が存在しているだとか、

決戦のための別動隊が存在しているという噂であった。

これらの噂がまことしやかに流れることになり、

ギズモンドや参謀レベラを困惑させたが、

戦の緊張状態が長く続くことによる精神的なストレスのせいで、
一種都合のいい希望のある話が好まれている状態なのだろうと、

その時点ではそう分析されることとなった。

一同が出立の準備をしているとき、
クガヤが実は話に出てた鍛冶屋には覚えがあると言い出した。

クガヤの家は、最初から商人だったわけではなく、
祖父の代までは物づくりの職人であったという。

ただ融通がどうしても効かない部分があり、金勘定を後回しにしたつけがまわり、

一時期ひどく金に苦労したらしく、
父の代からは商売をやる方へ切り替えたということだった。 

「以前からの職人の付き合いがあるため、うちの親の店は金物を商品としてよく扱うんだ」とクガヤ。

自分の小さいころは、まだ祖父が現役で職人やってて、爺の話にあがった鍛冶屋にはたぶん会ったことがある。

このあたりに他に鍛冶屋がいるとは聞いたことがないから、おそらく同じ人だろう、とクガヤは言う。

「でも、どこに鍛冶屋が移動したかは俺は知らない。

場所が変わったことも、今初めて知ったくらいだ。

ただ、以前の場所は知ってる。移動先の手がかりがそこにあるかもしれない。

そうでなくても、時々は戻って来てるんじゃないかと思う。

なんせ、設備が一度に引越できるような代物じゃないからなあ。

住む場所、作る場所、受付場所なんかを別にしてみました、てなことかもしれないからな。」

一同は、じゃ、まずはそこによってみようかという話になった。

サタヴァの剣の刃こぼれがみんな気になっていたのだ。

これまで装備が無くてもまあ大丈夫だろうと思っていたのだが、
鳥の襲撃の後は、使える武器がないと不安だという雰囲気になっていたのだ。

まあ鍛冶屋の昔あったという場所に向かいつつ、薬草があるようならついでに探しておこう、

以前の場所も移動で片付けられてて全くわからなければすぐ帰ろう、という話になった。

クガヤが言うには、

今回、行くには遠いので行かないが、

森を抜けたところに、飛び島のようになっている場所があり、

そこは、二人の歌う巫女がいたという伝説がある、
人が出入りしない隠されたような場所なんだと。

行くためには小舟なんか使わないと行けない。水際なので魔物が恐ろしく皆行きたがらないため、人の出入りがなくなっているのだと。

ヤトルは、
「うわ~そんなものがあるんだ!世間は広いんだなあ。」と驚いた。

「魔物のことさえなければ、家族とか連れて、色々見て回りたいところですよね。」と話した。

「俺がガキだったころは、あのへんにも出入りする連中がいるという話だったが、
今は誰一人いないらしい。

恐ろしい目に会って全滅したという噂もあるから、行くには相当準備してないと難しいと思う。」とクガヤ。

「そんなに危いところなら、家族連れてなんて行きたくないです!」ヤトルは身震いした。

「もちろん、家族連れてなくても行きたくないです!
今回もうっかり行かないように、注意して注意して、避けて行きましょうよ。」

「かなり遠いし小舟使うから、間違えて行ったりなんかしないから、大丈夫。」クガヤは言った。

一同は森に向かった。
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