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第二章
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翌日、再度おやじさんとナギ、薬草部隊の三名が泉へ向かうと、今度は仙女は小刀をナギに手渡してくれた。
ナギはほっとした顔でそれを受け取った。
「時間かけてごめんなさい。普段はここまでじっくりみないから、他の人にはすぐ元のものは返してたんだけどね。
あ、その人たちには、お礼として金や銀のキラキラ色づけた金物類はあげたりしたんだけど。」
「あれ、お礼だったのか…わしが聞いた話とはだいぶ違うな…」おやじさんはブツブツ呟いている。
「まあ、返してもらって良かったですね」ヤトルがナギに話しかけ、ナギはうなづいた。
「ナギさんはなんにも受け取ってないんだけど、お礼どうしたら良かったのかしらん?」
仙女は聞いた。
「それでは、時々ここにきて、ものを尋ねることを許して貰えないだろうか。」ナギは言う。
「自分は今のところ、この場所にいるときだけしか、周囲の人達と会話ができないんだ。
もっと様々な情報を得たい。」
それを聞いて、一同は、帝国について、その周辺の状態について、自分達のわかる範囲で話をした。
まずは帝国やその周辺の概要やら、
それから、おやじさんは自分の作成する鍛冶について、
クガヤは貨幣や物資の流通について、
ヤトルはできる作物と何をどう食べているか、などを話すのだった。
サタヴァは、薬草については、慣れてない者は見分けが難しい面があり、現物がない状態では話せないと言った。
ナギは全般的な話を聞いたとき、こう言った。
「水辺が魔物が出ると言われているので、この大陸から出ていかないのか…そうか。
自分の国にも、水辺は異界との境目だという話はあるな。
そして今はここでは、渦のあたりから魔物や幻影、幽霊などが出ると言われているんだな。
自分の世界の常識からしたら、眉唾といいたいところだが、
実際自分の乗り物が渦の近くにあることを考えると、その説明がここでは合うということなのだろうか…」
ナギは目を閉じて首をふっている。
今度は仙女に向かい話しかけた。
「しかし自分の小刀がここまで貴女の興味を引くとは思わなかったな。
物質同士の結合が強い、とか話されていたようだが…」
泉の仙女はまた何やら妙な話をしはじめた。
「…この世界は、あなたの世界と比べて、物質と物質との結合が弱いのよ。
例えば、この世界には魔法というものがあるわ。あなたは見たことがないかもしれないけれど」仙女は言う。
「魔法は見たことがないが、どこかにいけば見られるのか?」
ナギは興味深そうに言う。
「自分の世界には魔法と言われるものは存在しない扱いだったので、あるのならばぜひみたいが…」
「それがね、この世界をまとめている女神様が、人の所業に怒ってしまい、人から魔法を取り上げてしまったの。
それで今現在はこの世界でも魔法は使えなくなってるの。
まだ魔法を使えている者がごく少数いなくはないけど、心ばえのいい者とか、ご縁がある者とかに限られてるの。
だからどこかにいけば見られるという話ではないわ。」仙女は話を続ける。
「魔法は、それに使われている術式は、それを発動させることにより、特定の必要な物質を呼びよせ、発動できる状態に並べ変える。
そうするとそれらは加工されたり、変化したりなどの現象を、容易に起こすようになるの。
ここは物質同士での結びつきがゆるいため、術式でそう命じるだけで、その通りの現象がおこることがある。
それは術者の念が起爆となる。
意識が力を持ち、作用がおこる。
あなた方の世界でも実はある話なんだけども、
ここと似たようなことをやろうとしたら、随分と時間がかかる。
それは物質同士がしっかりと結びつき絡み合ってなかなか動いてくれないため、
術者の思考や念、術式などだけでは、作動することが厳しい状態なの。
結果、かなり時間が経過して術式が成功していた場合もあるのだけど、
術式を行った人がもう諦めてその場にいないというか、
中途半端に成功した部分だけがあらわれる場合もあるというか、
形となってあらわれるのがとにかく遅くてその…なんというか…
ここのようにはいかないの。
だから、あなた方の世界で、
何か作用させたい場合には、
まず材料となる物質を用意して、それをほしい状態へ加工して、反応させて、と続き、
それらは全部手作業というか、ここで言う術は使わない。
そんな感じなのよね」
「わかった部分とわからない部分とがある」ナギは言う。
「言語の理解や概念自体が異なる可能性があるから、まず何とも言えないんだが…
これらの物質同士の結合がゆるくて、人の念が物質に反応し魔法となってあらわれる話は、少し理解は可能だ。」
ナギは首をかしげながらも話を続けている。
「だが、それが女神様とかいう人物の手により、その作動がオンオフされるという話は、
これらの解説と矛盾しているように思う。」
「それは全く矛盾どころではないことなの」
泉の仙女は言う。
「念が反映されて物質を変化させているのなら、より念などが強い存在がここの世の中を統治していてもおかしくない話なのよ。
ここではそれが女神様というわけなの。
まずはそれが大前提となっているってこと。
女神様の思念により魔法が使えない状態へ持っていかれている。
ここではそれが筋の通った話となるの。大前提だもん。」
ナギは足繁く仙女の泉に通うことにしたようだった。
おやじさんも興味をそそられたらしく、行く時はつきあうという話だった。
なにせ泉のそばだと会話が通じるため、2人で意思疎通をはかりやすいということもある。
おやじさんはナギは気の済むまで自分の住まいにいてもいいと話をし、
ナギはそのうち自分のことは自分でなんとかできるようにしたいが、ひとまずは願いしたいと、恐縮しながら礼を述べた。
ナギはほっとした顔でそれを受け取った。
「時間かけてごめんなさい。普段はここまでじっくりみないから、他の人にはすぐ元のものは返してたんだけどね。
あ、その人たちには、お礼として金や銀のキラキラ色づけた金物類はあげたりしたんだけど。」
「あれ、お礼だったのか…わしが聞いた話とはだいぶ違うな…」おやじさんはブツブツ呟いている。
「まあ、返してもらって良かったですね」ヤトルがナギに話しかけ、ナギはうなづいた。
「ナギさんはなんにも受け取ってないんだけど、お礼どうしたら良かったのかしらん?」
仙女は聞いた。
「それでは、時々ここにきて、ものを尋ねることを許して貰えないだろうか。」ナギは言う。
「自分は今のところ、この場所にいるときだけしか、周囲の人達と会話ができないんだ。
もっと様々な情報を得たい。」
それを聞いて、一同は、帝国について、その周辺の状態について、自分達のわかる範囲で話をした。
まずは帝国やその周辺の概要やら、
それから、おやじさんは自分の作成する鍛冶について、
クガヤは貨幣や物資の流通について、
ヤトルはできる作物と何をどう食べているか、などを話すのだった。
サタヴァは、薬草については、慣れてない者は見分けが難しい面があり、現物がない状態では話せないと言った。
ナギは全般的な話を聞いたとき、こう言った。
「水辺が魔物が出ると言われているので、この大陸から出ていかないのか…そうか。
自分の国にも、水辺は異界との境目だという話はあるな。
そして今はここでは、渦のあたりから魔物や幻影、幽霊などが出ると言われているんだな。
自分の世界の常識からしたら、眉唾といいたいところだが、
実際自分の乗り物が渦の近くにあることを考えると、その説明がここでは合うということなのだろうか…」
ナギは目を閉じて首をふっている。
今度は仙女に向かい話しかけた。
「しかし自分の小刀がここまで貴女の興味を引くとは思わなかったな。
物質同士の結合が強い、とか話されていたようだが…」
泉の仙女はまた何やら妙な話をしはじめた。
「…この世界は、あなたの世界と比べて、物質と物質との結合が弱いのよ。
例えば、この世界には魔法というものがあるわ。あなたは見たことがないかもしれないけれど」仙女は言う。
「魔法は見たことがないが、どこかにいけば見られるのか?」
ナギは興味深そうに言う。
「自分の世界には魔法と言われるものは存在しない扱いだったので、あるのならばぜひみたいが…」
「それがね、この世界をまとめている女神様が、人の所業に怒ってしまい、人から魔法を取り上げてしまったの。
それで今現在はこの世界でも魔法は使えなくなってるの。
まだ魔法を使えている者がごく少数いなくはないけど、心ばえのいい者とか、ご縁がある者とかに限られてるの。
だからどこかにいけば見られるという話ではないわ。」仙女は話を続ける。
「魔法は、それに使われている術式は、それを発動させることにより、特定の必要な物質を呼びよせ、発動できる状態に並べ変える。
そうするとそれらは加工されたり、変化したりなどの現象を、容易に起こすようになるの。
ここは物質同士での結びつきがゆるいため、術式でそう命じるだけで、その通りの現象がおこることがある。
それは術者の念が起爆となる。
意識が力を持ち、作用がおこる。
あなた方の世界でも実はある話なんだけども、
ここと似たようなことをやろうとしたら、随分と時間がかかる。
それは物質同士がしっかりと結びつき絡み合ってなかなか動いてくれないため、
術者の思考や念、術式などだけでは、作動することが厳しい状態なの。
結果、かなり時間が経過して術式が成功していた場合もあるのだけど、
術式を行った人がもう諦めてその場にいないというか、
中途半端に成功した部分だけがあらわれる場合もあるというか、
形となってあらわれるのがとにかく遅くてその…なんというか…
ここのようにはいかないの。
だから、あなた方の世界で、
何か作用させたい場合には、
まず材料となる物質を用意して、それをほしい状態へ加工して、反応させて、と続き、
それらは全部手作業というか、ここで言う術は使わない。
そんな感じなのよね」
「わかった部分とわからない部分とがある」ナギは言う。
「言語の理解や概念自体が異なる可能性があるから、まず何とも言えないんだが…
これらの物質同士の結合がゆるくて、人の念が物質に反応し魔法となってあらわれる話は、少し理解は可能だ。」
ナギは首をかしげながらも話を続けている。
「だが、それが女神様とかいう人物の手により、その作動がオンオフされるという話は、
これらの解説と矛盾しているように思う。」
「それは全く矛盾どころではないことなの」
泉の仙女は言う。
「念が反映されて物質を変化させているのなら、より念などが強い存在がここの世の中を統治していてもおかしくない話なのよ。
ここではそれが女神様というわけなの。
まずはそれが大前提となっているってこと。
女神様の思念により魔法が使えない状態へ持っていかれている。
ここではそれが筋の通った話となるの。大前提だもん。」
ナギは足繁く仙女の泉に通うことにしたようだった。
おやじさんも興味をそそられたらしく、行く時はつきあうという話だった。
なにせ泉のそばだと会話が通じるため、2人で意思疎通をはかりやすいということもある。
おやじさんはナギは気の済むまで自分の住まいにいてもいいと話をし、
ナギはそのうち自分のことは自分でなんとかできるようにしたいが、ひとまずは願いしたいと、恐縮しながら礼を述べた。
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