76 / 89
最終章
76
しおりを挟む
目が覚めたときお父さんがもういなかったので、僕は一人で草原を進んでいる。
お父さんはたぶん狩りをしているのだろう。
僕も、自分でできるだけ獲物を穫れるようにならなくちゃ。動きは下手っぴいだけども。
ノソノソ動いていると、目の端に鳥のようなものが映る。獲物かな?
そっと近づいたが、普通の鳥じゃなかった。
体は鳥なんだけど細長い尻尾がついてる。あれ、どこかで見たような…?
鳥は言った。「おいっ、蛇だろうがなんだろうが、舐めんじゃねえぞ!」そして息を吐いた。
「お前なんて怖くないやい!石にしてやる!」
鳥の息が頭にかかる。でもなんともない。少しくすぐったい。
「…あ、あれ?息、うまくかからなかった?」鳥は再度息を吐いた。
「ねえ、君、何してるの?」僕は興味を惹かれて鳥に話しかけてしまった。
「…嘘だろ?石にならない!」鳥は後ずさった。「ママ!息をかけても、石にならない蛇がいるよ!」
母鳥とやらがあらわれる。どうやら僕の相手をしたのは成長途中の子鳥で、一人で生き抜く訓練の最中らしかった。
「そんなことないでしょ。ちゃんと相手にかかってなかったんじゃない?…この蛇なの?」
母鳥は僕をちらと見たが、ひどく驚いた様子だった。
「あ、ああた!一体全体、そんな格好で何してるの?」そして僕のことを上から下までジロジロと見るのだった。
「他の子たちはみんな巣立ったようだけども、ああたはなんでそんな姿になったの?」
「ママ、こいつのこと知ってるの?」子鳥は首をかしげた。
「お前ももっと小さい頃には、この子とは会ってるはずだけど。
まあ、以前あった時は違う姿だったから、わからないのも無理はないわねえ…
世の中にはね、成長すると姿を変える生き物がいるのよ。それを、変態っていう。
この子は変態するタイプだったのねえ。」
「変態!」子鳥はいった。「母さんの知り合いのお前、変態!」
「…なんだとお!」僕は腹がたった。「誰が変態だ、誰が!」
この子鳥たちには、散々馬鹿だのどうだのと言われ放題だからだ。
さらには変態とまで言われる始末。
あ、あれ?…馬鹿にされたの、いつだっけ?
「その姿、でもまさか…あーっ、まさか!」母鳥は悲鳴をあげた。
「私をお母さんって間違えてたああた…
も、もしかして私の尻尾を、自分の成長するべき姿だと勘違いしたんじゃないでしょうねー!」
母鳥は尻尾を振ってみせた。細長い尻尾で鱗がついている。
「これを蛇と勘違いする生き物がいるんだけど…本当はただの飾りなの。
蛇を警戒する生物、多いから、蛇に似せた尻尾にしてる。
どこかへ行ってほしい生物が来たら、これを見せて追い払うのよ。
もちろん本当の蛇なんかついてやしない。
これ、擬態っていうのよ。」
母鳥はハアとため息をついた。「ああた、母と思ってる私と、同じ姿に成長しようとして、そんな姿になった…?
しかも頭じゃなくて尻尾の方をまねてしまうとか…
どういう判断してるのかしら?
成長しても、お馬鹿なのは変わらなかったのねえ…。」
母鳥は感慨深そうに語った。
「私達はもう行くけど、今からでも変えられるんなら、変えたほうがいいと思うわよ。
その姿、間違ってるから。」
母鳥と子鳥はトコトコと去って行った。
僕はそれを見送った。情報が多くて頭の中がごちゃごちゃしてる。
この姿が間違ってる、そう言われたことが、何やら真実のように思われて来た。
でもまだ頭は混乱したままだ。
僕は呆然としたまま平原に佇み、しばらくそこから動けなくなってしまった。
ガリッと胸が痛くなる。最近この痛みが、しょっちゅうある。
何かの病気じゃないだろうなあ…
ガリッガリッ。普段より痛い。
まるで、鋭い爪でも立てられているかのようだ。
そして僕の頭に、声が聞こえて来たのだ。
「…ヴァ!起きろ!目を覚ませ!」
知ってる声だ、と頭のどこかで思う。
この声は猫ちゃんだ!
猫ちゃん、僕のふところに入れたまんまだった。
出してほしくてずっと引っ掻いてたんだな。
それで胸のあたりが痛かったんだ。
僕はやっと得心がいった。
そしてふところから猫ちゃんを取り出そうとして、手が無いことに気づいた。
手…?
お父さんはたぶん狩りをしているのだろう。
僕も、自分でできるだけ獲物を穫れるようにならなくちゃ。動きは下手っぴいだけども。
ノソノソ動いていると、目の端に鳥のようなものが映る。獲物かな?
そっと近づいたが、普通の鳥じゃなかった。
体は鳥なんだけど細長い尻尾がついてる。あれ、どこかで見たような…?
鳥は言った。「おいっ、蛇だろうがなんだろうが、舐めんじゃねえぞ!」そして息を吐いた。
「お前なんて怖くないやい!石にしてやる!」
鳥の息が頭にかかる。でもなんともない。少しくすぐったい。
「…あ、あれ?息、うまくかからなかった?」鳥は再度息を吐いた。
「ねえ、君、何してるの?」僕は興味を惹かれて鳥に話しかけてしまった。
「…嘘だろ?石にならない!」鳥は後ずさった。「ママ!息をかけても、石にならない蛇がいるよ!」
母鳥とやらがあらわれる。どうやら僕の相手をしたのは成長途中の子鳥で、一人で生き抜く訓練の最中らしかった。
「そんなことないでしょ。ちゃんと相手にかかってなかったんじゃない?…この蛇なの?」
母鳥は僕をちらと見たが、ひどく驚いた様子だった。
「あ、ああた!一体全体、そんな格好で何してるの?」そして僕のことを上から下までジロジロと見るのだった。
「他の子たちはみんな巣立ったようだけども、ああたはなんでそんな姿になったの?」
「ママ、こいつのこと知ってるの?」子鳥は首をかしげた。
「お前ももっと小さい頃には、この子とは会ってるはずだけど。
まあ、以前あった時は違う姿だったから、わからないのも無理はないわねえ…
世の中にはね、成長すると姿を変える生き物がいるのよ。それを、変態っていう。
この子は変態するタイプだったのねえ。」
「変態!」子鳥はいった。「母さんの知り合いのお前、変態!」
「…なんだとお!」僕は腹がたった。「誰が変態だ、誰が!」
この子鳥たちには、散々馬鹿だのどうだのと言われ放題だからだ。
さらには変態とまで言われる始末。
あ、あれ?…馬鹿にされたの、いつだっけ?
「その姿、でもまさか…あーっ、まさか!」母鳥は悲鳴をあげた。
「私をお母さんって間違えてたああた…
も、もしかして私の尻尾を、自分の成長するべき姿だと勘違いしたんじゃないでしょうねー!」
母鳥は尻尾を振ってみせた。細長い尻尾で鱗がついている。
「これを蛇と勘違いする生き物がいるんだけど…本当はただの飾りなの。
蛇を警戒する生物、多いから、蛇に似せた尻尾にしてる。
どこかへ行ってほしい生物が来たら、これを見せて追い払うのよ。
もちろん本当の蛇なんかついてやしない。
これ、擬態っていうのよ。」
母鳥はハアとため息をついた。「ああた、母と思ってる私と、同じ姿に成長しようとして、そんな姿になった…?
しかも頭じゃなくて尻尾の方をまねてしまうとか…
どういう判断してるのかしら?
成長しても、お馬鹿なのは変わらなかったのねえ…。」
母鳥は感慨深そうに語った。
「私達はもう行くけど、今からでも変えられるんなら、変えたほうがいいと思うわよ。
その姿、間違ってるから。」
母鳥と子鳥はトコトコと去って行った。
僕はそれを見送った。情報が多くて頭の中がごちゃごちゃしてる。
この姿が間違ってる、そう言われたことが、何やら真実のように思われて来た。
でもまだ頭は混乱したままだ。
僕は呆然としたまま平原に佇み、しばらくそこから動けなくなってしまった。
ガリッと胸が痛くなる。最近この痛みが、しょっちゅうある。
何かの病気じゃないだろうなあ…
ガリッガリッ。普段より痛い。
まるで、鋭い爪でも立てられているかのようだ。
そして僕の頭に、声が聞こえて来たのだ。
「…ヴァ!起きろ!目を覚ませ!」
知ってる声だ、と頭のどこかで思う。
この声は猫ちゃんだ!
猫ちゃん、僕のふところに入れたまんまだった。
出してほしくてずっと引っ掻いてたんだな。
それで胸のあたりが痛かったんだ。
僕はやっと得心がいった。
そしてふところから猫ちゃんを取り出そうとして、手が無いことに気づいた。
手…?
1
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる