不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

文字の大きさ
75 / 89
最終章

75

しおりを挟む
それから僕はお父さんに色々話を聞いた。

お父さんは敵を倒せと言ったけど、敵ってどんな生き物なんだろう。

生き物は食べるために獲物を穫る。
天敵となるもの、それは向こうがこちらを主に食す場合だ。
僕だってそのくらいは知っている。

ところがお父さんが言うには、その敵とやらは、僕らのような蛇は別にそれほど食べたりしないんだって。

天敵でないんじゃ、戦うことないんじゃないの?
僕がそう聞くと、お父さんは、
「生まれながらにして邪悪な生き物というのがいるのだ。そやつらは見かけたら殺さねばならん。」
なんて言うんだ。

「その生き物というのはな、人間という。彼らは自分たちをそう呼んでおる。
人間は体自体はそこまで強くないのだが、いろんな工夫をして戦うので、舐めてかかるとこちらがやられてしまう。
知恵というやつに秀でてるらしいが、おそろしく嫌らしい知恵の使い方をする連中だ。こいつらを殺せてこそ、一人前と言える。」

頭の中で眠っている部分が警鐘を鳴らすような感じがした。この話は聞いてはいけない。
「人を殺めてはいけないんだよ。そう教わったんだ。」
言いながら思った。…一体誰から?ここにはお父さんしかいないのに…

「ふーむ、頑強だの…」お父さんはじっとこちらをみながら言う。「完全ではない、か…」

お父さんは気を取り直したように言葉を続ける。「お前には、すぐにこちらの話を聞くだけの、人間に対する恨みはあると思ったが、内部に抗う固い信念のようなものを感じる。…なぜかな。
普通にそれを崩すのは難しそうだ。それでは、情に訴えることとしよう。わしがなぜ人間を憎むか、その理由を教えてやろう。」

僕の頭にある情景が浮かぶ。お父さんが考えたことを伝えてきている。

燃える炎の前に一人の男が立っていた。やや巻き毛の黒髪に黒目で髭を生やしていて、がっしりとした筋肉質の体格をしている。

男は炎の中になにかを投げ入れた。それは小さな白い蛇だった。蛇は炎の中でもがき苦しんで焼け死んだ。

「…これをどう思うか。この白蛇の子は何もこの男に悪いことはしておらぬ。ただ、そばを通っただけに過ぎぬ。この子には毒もない。小さいうちに殺すべき理由など何一つなかった。

だがこの男はただそばを通ったというだけで、産まれたてのこの子を生きたまま焼き殺すという、むごい殺し方をした。どんなにか苦しんだろう。どんなにか。」お父さんは目を閉じた。

「もちろん、わしら蛇は一度にたくさん産まれる。そのうち、多くは外敵にやられて死んでしまう。

ただ、中には生き物としてどうしても納得できぬ殺され方というものがある。そしてその多くは人間によるものなのだ。

食べるために殺す、これはわかる。わしらも食べるために殺すからな。

食べた後の骨や皮を使う、まあこれもわかる。食べられた本人には、もはや不要だからのう。

だが人間は、優れた皮がほしいというだけで殺傷することがある。こうなるとわけがわからない。

さらに殺したことに対し良心のかけらも痛まない、喜んで殺す者が大部分だ。

この手の話は、人間においては、枚挙にいとまがない。
あやつらは、生き物としての生や死への尊厳を損なうようなことばかりするような連中であると言っていいのだ。

エフィドや、お前は獣の先頭に立ち、人間をたくさん殺めてゆくがいい。

それがわしの殺された子だけでなく、多くの意味不明な理由で殺傷された生き物たちに対し報いることとなろう。

これができるようになれば、お前はただの蛇ではなくなる。魔となる。しかも超一流のだ。

お前の力をもってすれば無敵の魔王となることも可能じゃぞ。」

僕はまた胸が苦しくなってきた。
こんなことをするのはいやだ。
お父さんには悪いけど、こんなことしても無意味なような気がする。

それに動物同士でも、結構ひどい戦いになったりすることもある。人に限った話ではないのだ。

…人はまあ、そういうことするのは、確かに他と比べたら多いけど…

僕はそう考えながら、なぜそんなことを小さな自分が知っているのだろうと思った。不思議なことだ…

また、見せられた光景の男に、なんとなく見覚えがあるような気もした。
なぜそう思うんだろう。

そして自分が呼ばれているエフィドという名は、本来はその人物から呼ばれるべき名である、という考えが、なぜだか頭を離れなくなった。胸のあたりをガリッと削るような痛みがはしる。

「…ま、おいおい、わかってもらえばよい。
この話はお前に染み込むように、繰り返しするとしよう…

お前の中の人間への恨みと、このわしらの憎しみとが、良く混ざり合い一つとなるまでな…」

お父さんはそう話を締めくくるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...