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最終章
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それから僕はお父さんに色々話を聞いた。
お父さんは敵を倒せと言ったけど、敵ってどんな生き物なんだろう。
生き物は食べるために獲物を穫る。
天敵となるもの、それは向こうがこちらを主に食す場合だ。
僕だってそのくらいは知っている。
ところがお父さんが言うには、その敵とやらは、僕らのような蛇は別にそれほど食べたりしないんだって。
天敵でないんじゃ、戦うことないんじゃないの?
僕がそう聞くと、お父さんは、
「生まれながらにして邪悪な生き物というのがいるのだ。そやつらは見かけたら殺さねばならん。」
なんて言うんだ。
「その生き物というのはな、人間という。彼らは自分たちをそう呼んでおる。
人間は体自体はそこまで強くないのだが、いろんな工夫をして戦うので、舐めてかかるとこちらがやられてしまう。
知恵というやつに秀でてるらしいが、おそろしく嫌らしい知恵の使い方をする連中だ。こいつらを殺せてこそ、一人前と言える。」
頭の中で眠っている部分が警鐘を鳴らすような感じがした。この話は聞いてはいけない。
「人を殺めてはいけないんだよ。そう教わったんだ。」
言いながら思った。…一体誰から?ここにはお父さんしかいないのに…
「ふーむ、頑強だの…」お父さんはじっとこちらをみながら言う。「完全ではない、か…」
お父さんは気を取り直したように言葉を続ける。「お前には、すぐにこちらの話を聞くだけの、人間に対する恨みはあると思ったが、内部に抗う固い信念のようなものを感じる。…なぜかな。
普通にそれを崩すのは難しそうだ。それでは、情に訴えることとしよう。わしがなぜ人間を憎むか、その理由を教えてやろう。」
僕の頭にある情景が浮かぶ。お父さんが考えたことを伝えてきている。
燃える炎の前に一人の男が立っていた。やや巻き毛の黒髪に黒目で髭を生やしていて、がっしりとした筋肉質の体格をしている。
男は炎の中になにかを投げ入れた。それは小さな白い蛇だった。蛇は炎の中でもがき苦しんで焼け死んだ。
「…これをどう思うか。この白蛇の子は何もこの男に悪いことはしておらぬ。ただ、そばを通っただけに過ぎぬ。この子には毒もない。小さいうちに殺すべき理由など何一つなかった。
だがこの男はただそばを通ったというだけで、産まれたてのこの子を生きたまま焼き殺すという、むごい殺し方をした。どんなにか苦しんだろう。どんなにか。」お父さんは目を閉じた。
「もちろん、わしら蛇は一度にたくさん産まれる。そのうち、多くは外敵にやられて死んでしまう。
ただ、中には生き物としてどうしても納得できぬ殺され方というものがある。そしてその多くは人間によるものなのだ。
食べるために殺す、これはわかる。わしらも食べるために殺すからな。
食べた後の骨や皮を使う、まあこれもわかる。食べられた本人には、もはや不要だからのう。
だが人間は、優れた皮がほしいというだけで殺傷することがある。こうなるとわけがわからない。
さらに殺したことに対し良心のかけらも痛まない、喜んで殺す者が大部分だ。
この手の話は、人間においては、枚挙にいとまがない。
あやつらは、生き物としての生や死への尊厳を損なうようなことばかりするような連中であると言っていいのだ。
エフィドや、お前は獣の先頭に立ち、人間をたくさん殺めてゆくがいい。
それがわしの殺された子だけでなく、多くの意味不明な理由で殺傷された生き物たちに対し報いることとなろう。
これができるようになれば、お前はただの蛇ではなくなる。魔となる。しかも超一流のだ。
お前の力をもってすれば無敵の魔王となることも可能じゃぞ。」
僕はまた胸が苦しくなってきた。
こんなことをするのはいやだ。
お父さんには悪いけど、こんなことしても無意味なような気がする。
それに動物同士でも、結構ひどい戦いになったりすることもある。人に限った話ではないのだ。
…人はまあ、そういうことするのは、確かに他と比べたら多いけど…
僕はそう考えながら、なぜそんなことを小さな自分が知っているのだろうと思った。不思議なことだ…
また、見せられた光景の男に、なんとなく見覚えがあるような気もした。
なぜそう思うんだろう。
そして自分が呼ばれているエフィドという名は、本来はその人物から呼ばれるべき名である、という考えが、なぜだか頭を離れなくなった。胸のあたりをガリッと削るような痛みがはしる。
「…ま、おいおい、わかってもらえばよい。
この話はお前に染み込むように、繰り返しするとしよう…
お前の中の人間への恨みと、このわしらの憎しみとが、良く混ざり合い一つとなるまでな…」
お父さんはそう話を締めくくるのだった。
お父さんは敵を倒せと言ったけど、敵ってどんな生き物なんだろう。
生き物は食べるために獲物を穫る。
天敵となるもの、それは向こうがこちらを主に食す場合だ。
僕だってそのくらいは知っている。
ところがお父さんが言うには、その敵とやらは、僕らのような蛇は別にそれほど食べたりしないんだって。
天敵でないんじゃ、戦うことないんじゃないの?
僕がそう聞くと、お父さんは、
「生まれながらにして邪悪な生き物というのがいるのだ。そやつらは見かけたら殺さねばならん。」
なんて言うんだ。
「その生き物というのはな、人間という。彼らは自分たちをそう呼んでおる。
人間は体自体はそこまで強くないのだが、いろんな工夫をして戦うので、舐めてかかるとこちらがやられてしまう。
知恵というやつに秀でてるらしいが、おそろしく嫌らしい知恵の使い方をする連中だ。こいつらを殺せてこそ、一人前と言える。」
頭の中で眠っている部分が警鐘を鳴らすような感じがした。この話は聞いてはいけない。
「人を殺めてはいけないんだよ。そう教わったんだ。」
言いながら思った。…一体誰から?ここにはお父さんしかいないのに…
「ふーむ、頑強だの…」お父さんはじっとこちらをみながら言う。「完全ではない、か…」
お父さんは気を取り直したように言葉を続ける。「お前には、すぐにこちらの話を聞くだけの、人間に対する恨みはあると思ったが、内部に抗う固い信念のようなものを感じる。…なぜかな。
普通にそれを崩すのは難しそうだ。それでは、情に訴えることとしよう。わしがなぜ人間を憎むか、その理由を教えてやろう。」
僕の頭にある情景が浮かぶ。お父さんが考えたことを伝えてきている。
燃える炎の前に一人の男が立っていた。やや巻き毛の黒髪に黒目で髭を生やしていて、がっしりとした筋肉質の体格をしている。
男は炎の中になにかを投げ入れた。それは小さな白い蛇だった。蛇は炎の中でもがき苦しんで焼け死んだ。
「…これをどう思うか。この白蛇の子は何もこの男に悪いことはしておらぬ。ただ、そばを通っただけに過ぎぬ。この子には毒もない。小さいうちに殺すべき理由など何一つなかった。
だがこの男はただそばを通ったというだけで、産まれたてのこの子を生きたまま焼き殺すという、むごい殺し方をした。どんなにか苦しんだろう。どんなにか。」お父さんは目を閉じた。
「もちろん、わしら蛇は一度にたくさん産まれる。そのうち、多くは外敵にやられて死んでしまう。
ただ、中には生き物としてどうしても納得できぬ殺され方というものがある。そしてその多くは人間によるものなのだ。
食べるために殺す、これはわかる。わしらも食べるために殺すからな。
食べた後の骨や皮を使う、まあこれもわかる。食べられた本人には、もはや不要だからのう。
だが人間は、優れた皮がほしいというだけで殺傷することがある。こうなるとわけがわからない。
さらに殺したことに対し良心のかけらも痛まない、喜んで殺す者が大部分だ。
この手の話は、人間においては、枚挙にいとまがない。
あやつらは、生き物としての生や死への尊厳を損なうようなことばかりするような連中であると言っていいのだ。
エフィドや、お前は獣の先頭に立ち、人間をたくさん殺めてゆくがいい。
それがわしの殺された子だけでなく、多くの意味不明な理由で殺傷された生き物たちに対し報いることとなろう。
これができるようになれば、お前はただの蛇ではなくなる。魔となる。しかも超一流のだ。
お前の力をもってすれば無敵の魔王となることも可能じゃぞ。」
僕はまた胸が苦しくなってきた。
こんなことをするのはいやだ。
お父さんには悪いけど、こんなことしても無意味なような気がする。
それに動物同士でも、結構ひどい戦いになったりすることもある。人に限った話ではないのだ。
…人はまあ、そういうことするのは、確かに他と比べたら多いけど…
僕はそう考えながら、なぜそんなことを小さな自分が知っているのだろうと思った。不思議なことだ…
また、見せられた光景の男に、なんとなく見覚えがあるような気もした。
なぜそう思うんだろう。
そして自分が呼ばれているエフィドという名は、本来はその人物から呼ばれるべき名である、という考えが、なぜだか頭を離れなくなった。胸のあたりをガリッと削るような痛みがはしる。
「…ま、おいおい、わかってもらえばよい。
この話はお前に染み込むように、繰り返しするとしよう…
お前の中の人間への恨みと、このわしらの憎しみとが、良く混ざり合い一つとなるまでな…」
お父さんはそう話を締めくくるのだった。
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