不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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最終章

83

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「…では、わしを殺せ」大蛇は目を閉じて言った。
「わしはもう、仇に立ち向かう術を全て失ってしまった。
わしの企ては全て無意味なものとなった。
このまま、わしの命も、無意味なものとすればいいぞ。」

大蛇は目を開き、こちらに向き直る。その眼差しからは、攻撃や術の行使の兆しはもはや見られなかった。
「お前があくまで自分を人間だと主張するのであれば、人間らしく邪な殺し方をわしに対しすればいい。
その振る舞いによって本当に人となれるかもしれないぞ。
…いや、少し余計なことを言い過ぎた。
今のは、辞世の句としては少し安っぽいな」
大蛇はなぜか自分でそのようなことを言い出した。

「これまで恨みをお前に対しのべてきたが、わしも無意味な行いをしておるのかもしれないという思いはずっと持っておった。

日々我らは産まれ、そして死んでゆく。そこにはただ、この世に生きたということしかない。
わしはお前のことを、漠然とした生しか送れないと言った。
だが、本当は、わしら生き物はみなそうなのだ。
わしもそうだ。
いつまでも死んだ子らのことを繰り言のように言うのは、わし自身の生を虚しく感じていることに文句をつけていただけなのだ。

生と死はその輪を繰り返すという。
死んだ子らはもう新たな命となっておると思う。

我らに憐れみをかけてくれ、本当に訴えたいのはそういうことであろうな。
そしてそれを訴えたい相手はお前ではない。

心の奥底にある真実の思いは、今のべたことじゃ。
だが…
自分の心の中に、その思いを打ち消す暗いものが潜んでおる。

このままでは、わしは死んでも、お前やお前の縁戚に、祟りをもたらすかもわからん。

ここですっぱりとわしを殺すが良い。
魂の痕跡が失せるほどにも。
砂地の砂や、草原の土にもならぬほどに。」

大蛇は頭をうなだれた。

「…そのつもりはない」サタヴァは答える。
「お前の命までとろうとは思わぬ。」

「なぜだ!今のお前にはわしなど簡単に殺せるであろう!
たった一撃でよい。わしを殺せ!」

「…親に向ける刃はない」

「何だと」

「父になってくれたのでは、なかったのか」

それを聞くと大蛇はなんとも言い難い表情をとった。
予想もしなかったことを言われたととれるような。

「これまで毎日の祈りの時に、死にゆく無数の生き物への祈りはしているのだ。
子蛇の死については、今後その毎日の祈りの時に加えて祈るつもりだ。その魂が報われる時まで。」

大蛇は一気に疲れたような様子になった。
そしてもう一言も口にしようとはしなくなった。
なにも術など持たぬただの獣のようになってしまった。

よろよろとその場から去り、サタヴァ達の知らぬいずこかへと、向かう様子だった。
それはまるでただの老いた獣が悄然と去って行くように見えた。

サタヴァはその様をみながら、術にかけられていた最中、父だと信じていた時の気持ちを思い出していた。

ぼんやりと思い起こす、暖かいその思い。
幼さならではの、無邪気で一心に親を思い後を追う、あの感じ。
そして手痛く苦しみを与えられる。

サタヴァは涙をぬぐった。
…まるで本物の父親に対する気持ちじゃないか。
ひたすらに向かう愛おしさと混ざり合う、癒えうることがない苦しみ。

「サタヴァ、けりはついたな。」ルクがこちらを覗き込んで言った。

「そうだな、皆のところへ帰ろう。すぐ戻ると言いながら、だいぶ日があいてしまっているような気がする。急いだほうがいい。」

「そのことだが」ルクは言う。
「実はずっとこのところ働き通しで、だいぶ疲れてしまっている。すまないがサタヴァ、転移は無理だ。我を運んでもらえないか」

「わかった。」サタヴァは炎の鳥の姿に変じた。ルクは普通の猫ではないので、炎は平気なのだ。爪でルクを持ち、その場から飛び去る。

「サタヴァ、もう自分の気持ちにはけりをつけろ。お前はもう一人前の大人だ。」

ルクの言うのが、それまでは可愛がってくれた両親から、姿が変わった後、お前は息子ではないと拒絶されたことを思い出すと、未だに嘆き苦しんでしまうことをさしているのはわかっていた。

「仮初めの父、仮初めの母に会えたではないか。動物たちはもっと早い段階で親を亡くすが、彼らは立派に生きるぞ。」

…仮初めの母とは、あの母鳥のことか。
これまた奇妙な巡り合わせだったな。
…ということは、あの子鳥は兄弟ということかな。

そこまで考えてサタヴァは突然おかしくなり、ニヤニヤしだした。

ルクはなぜサタヴァが笑い出したのかはわからなかったが、彼が笑顔を見せたことが嬉しかった。

サタヴァとルクは笑いながら、森へ向かい飛んでゆくのであった。
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