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サタヴァ、ヤトル、クガヤの三名は、薬草を採集し旅をしているところである。
日が落ちて来たので、一行は森の中で開けたところを野営の場所とした。
食事中、サタヴァは話し始めた。
「今日、森の散策中に知り合いに会った」
「こんな場所で良く知り合いに会えるよなあ」クガヤが干し肉を齧りながら言う。
「誰に会ったんですか?」ヤトルはスープをすすりながら聞いてきた。
「そいつはなあ…以前二人に初めて会った頃に一度話したことはあるんだが…
わからない言葉があれば意味を教えてくれていた奴なんだ。」
「ふーん…そいつは、こんな辺鄙なところで何をしてたんだ?」
「俺に話があって来たそうだ。
奴は呼んでもいないのに、突然空中から姿をあらわすんだ。
…人の姿はしていたが、人ではないかもしれん。
本人の説明によると、『自分は芸の道をゆく者の手助けをしたり、加護を与える存在だ』とか言ってたな。」
「それって…加護霊っていうやつか…!」
ここ帝国には加護霊と呼ばれている、様々な現世利益を叶える存在がいるとされている。
もちろん信仰の対象は女神様だが、加護霊はもっと身近な存在だ。
加護霊は複数いる。願いの種類により、加護を与える霊はそれぞれ異なるとされる。
もちろんその姿は通常の人間は見ることはないので、
加護霊と会う話など、普通は与太話とされる。
だが、ヤトルとクガヤはサタヴァの話を信じたようだ。
「えーっそうなんですか!すごいじゃないですか!」
「サタヴァなんか芸やるんだっけ?」
「俺は特に芸はしていないつもりなんだが、先方からみると、しているように見えるらしい。
俺の言動は奴にとっては、面白い見世物らしいのだ。
そんなことはこちらの知ったことではないが。
以前奴は、俺の行動に色々口出ししてきていた。
そのことに文句を言ったら、来なくなっていたんだがな。
まあ言葉以外のことでは、別段こちらに良いことがあるわけではない。
加護だのなんだのという神秘的な力は、大げさな言われかただと思う。」
「はあ、その加護霊ぽい人の説明とやらを聞いたけど、なんのことやらさっぱりだ。
で、そいつはいったい何の用だったんだ?」
「ここ最近の俺達の行動について、くれぐれも注意してほしいと言っていた。気をつけてもらわねば困ると。
なんでもそれは十二、十五、十八という数字に関係することらしい。」
「なんだそれ。ぜんぜんわからない話ですね。
クガヤさんわかりますか?」
「…三の倍数かな?」
三人は押し黙った。
サタヴァが言う。
「それはなんというか、例えばヤトルんちの子供がだな、まだ小さいんだよな。
危ないものとか、怖いものとかから、遠ざけようと思うだろ?」
「そりゃあまあ、気をつけますよ。親なら。
つか、周り中でそういうものに触れないように気をつけますね。」
「あとはその、大人っぽい物事とかな…」
「例えば?」
「その、なんか色々と」
「なんですか?」
「はっきり言え!」
「…それが、それらをはっきり言ってはいけないということが、先程の数に関係するらしいんだ。」
「あおーん、ますますわからんじゃないか!」
クガヤは丸い頭をバリバリとかいた。
「はっきり言ってもらえないとストレスが溜まってしんでしまう!」
「ともあれ、俺達の言動がだな、周りの目に触れる時に、注意したほうがいいという話だったんだ。」
「そしてそれは三の倍数とやらに関係があると。
はい、わかりません。
こういう難しい話を挟んできてほしくないです、本当に。」
「俺らの行動なんか、誰が気にするっていうんだよう。誰も見てないじゃんか大体」
「まあ俺もそう思う」サタヴァは続ける。
「誰も俺達のことは気にしていないだろうし、見てもいないだろうとは思うさ。
ただ、俺は時折感じるんだ。ごく少数の僅かな者がこちらを見ている気配や視線を」
三人が黙って静かになったので、あたりを吹く風の音がはっきり聴こえた。
夜風がそっと草の間を抜けていく。
クガヤとヤトルは、息を潜め、目を凝らしながら闇の中を見つめた。
「誰も居ないぞ!」しばらくしてクガヤが言った。「誰も見ていない!」
「絶対、だーれも見てないし気にしてません!」ヤトルも言いきった。
「こんな場所にそんな気配は全くありませんって。
少なくとも僕には、そんな気配や視線、わからないですよ。しかもこんな夜中」
「それが時折こちらを見る気配を感じるんだ」
「わからん、わからん!そんな漠然とした話はわからんわ!
だいたいサタヴァ、お前がはっきり言わず、ぼんやりとしか言わないのが悪いんだ!
物事を相手に伝える時は、状態だとか、場所だとか、誰がするのだとか、詳しく言うだろ?
相手にわかって欲しいなら、まず最初にはっきり言うべきことだぞ。
店の看板出すときでも、大きい字で目立つように書くぞ、そのへんは。
俺は商人だけども、商品を売るときには、そういう表記や説明をしないと、なかなか売れないもんだぞ?
看板と言うか、この場合、タイトルと言いかえてみるけど。
ぜんっぜん言えてないじゃんか!」
「だ、だから」サタヴァはボソボソ言う。
「はっきり言うとなんか色々とまずくて…"茫漠と"言うしかない」
「だからそのへんがダメだって。
なんか俺らって今定住してなくて、あちこち行ってるじゃん。
"彷徨える"って感じだよな。
この状態ではまずいだろ、せめて場所くらいはっきり言おうよな?
いざというときに助けも来ないぞ?困るだろ!」
「そうそう!あと、誰が~とか、何がどうなのか~、みたいな状態の説明なども、
ちゃんと言うようにしてくださいよ。」
「何が…?」
「“なにか“」
三人は黙り込んだ。
自分達が何を話しているのか、もはやわからなくなったのだ。
だが、これはただの始まりに過ぎなかったのだ…
日が落ちて来たので、一行は森の中で開けたところを野営の場所とした。
食事中、サタヴァは話し始めた。
「今日、森の散策中に知り合いに会った」
「こんな場所で良く知り合いに会えるよなあ」クガヤが干し肉を齧りながら言う。
「誰に会ったんですか?」ヤトルはスープをすすりながら聞いてきた。
「そいつはなあ…以前二人に初めて会った頃に一度話したことはあるんだが…
わからない言葉があれば意味を教えてくれていた奴なんだ。」
「ふーん…そいつは、こんな辺鄙なところで何をしてたんだ?」
「俺に話があって来たそうだ。
奴は呼んでもいないのに、突然空中から姿をあらわすんだ。
…人の姿はしていたが、人ではないかもしれん。
本人の説明によると、『自分は芸の道をゆく者の手助けをしたり、加護を与える存在だ』とか言ってたな。」
「それって…加護霊っていうやつか…!」
ここ帝国には加護霊と呼ばれている、様々な現世利益を叶える存在がいるとされている。
もちろん信仰の対象は女神様だが、加護霊はもっと身近な存在だ。
加護霊は複数いる。願いの種類により、加護を与える霊はそれぞれ異なるとされる。
もちろんその姿は通常の人間は見ることはないので、
加護霊と会う話など、普通は与太話とされる。
だが、ヤトルとクガヤはサタヴァの話を信じたようだ。
「えーっそうなんですか!すごいじゃないですか!」
「サタヴァなんか芸やるんだっけ?」
「俺は特に芸はしていないつもりなんだが、先方からみると、しているように見えるらしい。
俺の言動は奴にとっては、面白い見世物らしいのだ。
そんなことはこちらの知ったことではないが。
以前奴は、俺の行動に色々口出ししてきていた。
そのことに文句を言ったら、来なくなっていたんだがな。
まあ言葉以外のことでは、別段こちらに良いことがあるわけではない。
加護だのなんだのという神秘的な力は、大げさな言われかただと思う。」
「はあ、その加護霊ぽい人の説明とやらを聞いたけど、なんのことやらさっぱりだ。
で、そいつはいったい何の用だったんだ?」
「ここ最近の俺達の行動について、くれぐれも注意してほしいと言っていた。気をつけてもらわねば困ると。
なんでもそれは十二、十五、十八という数字に関係することらしい。」
「なんだそれ。ぜんぜんわからない話ですね。
クガヤさんわかりますか?」
「…三の倍数かな?」
三人は押し黙った。
サタヴァが言う。
「それはなんというか、例えばヤトルんちの子供がだな、まだ小さいんだよな。
危ないものとか、怖いものとかから、遠ざけようと思うだろ?」
「そりゃあまあ、気をつけますよ。親なら。
つか、周り中でそういうものに触れないように気をつけますね。」
「あとはその、大人っぽい物事とかな…」
「例えば?」
「その、なんか色々と」
「なんですか?」
「はっきり言え!」
「…それが、それらをはっきり言ってはいけないということが、先程の数に関係するらしいんだ。」
「あおーん、ますますわからんじゃないか!」
クガヤは丸い頭をバリバリとかいた。
「はっきり言ってもらえないとストレスが溜まってしんでしまう!」
「ともあれ、俺達の言動がだな、周りの目に触れる時に、注意したほうがいいという話だったんだ。」
「そしてそれは三の倍数とやらに関係があると。
はい、わかりません。
こういう難しい話を挟んできてほしくないです、本当に。」
「俺らの行動なんか、誰が気にするっていうんだよう。誰も見てないじゃんか大体」
「まあ俺もそう思う」サタヴァは続ける。
「誰も俺達のことは気にしていないだろうし、見てもいないだろうとは思うさ。
ただ、俺は時折感じるんだ。ごく少数の僅かな者がこちらを見ている気配や視線を」
三人が黙って静かになったので、あたりを吹く風の音がはっきり聴こえた。
夜風がそっと草の間を抜けていく。
クガヤとヤトルは、息を潜め、目を凝らしながら闇の中を見つめた。
「誰も居ないぞ!」しばらくしてクガヤが言った。「誰も見ていない!」
「絶対、だーれも見てないし気にしてません!」ヤトルも言いきった。
「こんな場所にそんな気配は全くありませんって。
少なくとも僕には、そんな気配や視線、わからないですよ。しかもこんな夜中」
「それが時折こちらを見る気配を感じるんだ」
「わからん、わからん!そんな漠然とした話はわからんわ!
だいたいサタヴァ、お前がはっきり言わず、ぼんやりとしか言わないのが悪いんだ!
物事を相手に伝える時は、状態だとか、場所だとか、誰がするのだとか、詳しく言うだろ?
相手にわかって欲しいなら、まず最初にはっきり言うべきことだぞ。
店の看板出すときでも、大きい字で目立つように書くぞ、そのへんは。
俺は商人だけども、商品を売るときには、そういう表記や説明をしないと、なかなか売れないもんだぞ?
看板と言うか、この場合、タイトルと言いかえてみるけど。
ぜんっぜん言えてないじゃんか!」
「だ、だから」サタヴァはボソボソ言う。
「はっきり言うとなんか色々とまずくて…"茫漠と"言うしかない」
「だからそのへんがダメだって。
なんか俺らって今定住してなくて、あちこち行ってるじゃん。
"彷徨える"って感じだよな。
この状態ではまずいだろ、せめて場所くらいはっきり言おうよな?
いざというときに助けも来ないぞ?困るだろ!」
「そうそう!あと、誰が~とか、何がどうなのか~、みたいな状態の説明なども、
ちゃんと言うようにしてくださいよ。」
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「“なにか“」
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だが、これはただの始まりに過ぎなかったのだ…
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