うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華

文字の大きさ
10 / 159
第1章 幼少期編

第5話 はじめてのお使い

しおりを挟む
 突然だが俺は今、街の中でナイフをチラつかせた怖いお兄さん達に囲まれている。メインストリートからは離れた裏通りであり、他に歩行者も見当たらない。俺、ピンチ?


 ───どうして、こんな事になっているのかと言えば、先日俺は5歳になった。そこで両親に一人で外出する許可が欲しいと訴えたんだ。

 その時に両親から、一人で街にお使いに行って無事に帰って来れたら認めてくれると言われ、今日がその試練の日なのである。

 そして今朝、俺は某はじめてのお使いをする有名な番組のBGMを脳内で再生しつつ、家を出た。ドーレミーファッソーラシードー♪

 俺の家は街から少し外れた郊外の丘の上にある。丘の下には街が広がり、後ろは森となっている。何軒か建物が建っていて、森から魔物が溢れないか監視する役目も担っているらしい。母が結婚の際に、自身のレベルの高さを活かしつつ、家に居ながらできる仕事という事で、ここに家を建てたらしい。父は毎朝通勤が大変そうだ。

 街は人口が2万人程と、俺の知識にある中世レベルの都市としてはかなり大きな部類だ。一応、この国の中核都市の一つで、王都に次ぐ人口を有しているらしい。

 王都と言う事で分かる通り、俺の生まれたこの国は国王が治める王国である。流石に両親も政治的なことまでは5歳児に説明してはくれないので、まだよく分かってはいないが、数百年は続いている国なので政治的には安定していると思っていいのかな? 多分。分からないけど。

 隣国などの情報もまだ分からないので、魔法の勉強ばかりではなく、将来旅に出る為にも世界の情勢を含めて学んでいく必要があると思う。

 兎に角、俺は意気揚々と街へ続く下り坂を降り、街の裏門的な所の詰所を通過して街中に入った。

 詰所については、たまに両親に連れられて街に行く時に顔を覚えられているので、基本顔パスである。珍しく、と言うか初めて一人で来たのに、普通に対応してくれたのは、両親から事前に根回しがされてたのだろう。5歳児が一人でとか普通は怪しいもんね。

 さて、話は戻って俺に課せられたお使いの内容だが、母親の報告書の提出だ。

 母親は冒険者ギルド経由、領主からの依頼で森の監視を行なっているらしい。週に一度、その内容を冒険者ギルドに報告する必要があり、俺も何度か同行した事がある。今回は特に直接報告する内容も無い、との事でいつもはメイドの誰かが行う仕事を俺のお使いとされた。

 そう、前にも少し触れたが、この世界にも冒険者ギルドと言う国を跨いだ組織があるそうだ。異世界ものの小説が好きだった俺としては、将来旅に出る前には是非登録しておきたい。

 また、人口の多い都市と言う事もあり、冒険者ギルドも複数の支店? 支部? がある。俺が向かうのは裏門から一番近くにある支店だ。

 何度か母親と一緒に行ったことのある俺は方角が分かっているので、大通りを経由しないで近道をする事にした。今思えば、この選択が間違っていたんだよな。

 イヤ、結果的には良かったかも知れない。俺が細い道を抜けて、少しだけ開けた場所を通りかかった時に、言い争うような声が聞こえてきたんだ。

「おいおい、坊ちゃんと嬢ちゃんよ。俺にぶつかっておいて、タダで済まされると、本気で思ってたんか? アァ!?」

「何よ? 私達はちゃんと謝ったでしょ? そもそも、あなたの方から弟にぶつかってきたんじゃない!」

 俺が、物陰から覗き込むと、良い服を着た10歳前後の女の子と、俺より少し年上くらいの男の子が壁を背に数人の怖いお兄さんに取り囲まれていた。当たり屋?

「ゴメンで済んだら警備隊はイラネェんだよ。分かるかオイ? 良い服着てんだから、金も持ってんだろ? それで手を打ってやるから早くだしな」

 はい、当たり屋ですね。

「あ、あなた達に渡す金なんて持ってないわ! 良いからそこをどいて頂戴!」

 女の子は威勢よく対応しているが、きっとコイツらには火に油なんじゃないかな?

「うるせぇな! 良いから黙って金を出しやがれ。お前の可愛い弟がどうなっても良いのか!?」

 そう言うと、仲間の一人がナイフを取り出して男の子の方に近づいて行く。

「ひいっ。お、お姉ちゃん・・・、怖いよぉ」

 男の子はそう言うと座り込んで泣き始めてしまった。ナイフを持った男はお構いなしに更に近づく。

「や、やめて! お金は本当に持っていないの。お願い、許して・・・」

「あー、もういい。おい、お前らこの二人を捕まえて縛り上げろ。良い服着てんだ、高く売れるだろ」

 すると仲間達が包囲を縮める。女の子は後退るが、後ろは壁の為、それ以上は下がれない。

 これは多分助けてほうが良いんだよね? そう思ってからの行動は早かった。とりあえず物陰から飛び出して、男の子にナイフをチラつかせていた男に向かって飛び蹴りをかます。叫びながらとか、バレそうな事はしない。無言でダッシュ&飛び蹴りだ。

「ぐはぁっ!」

 男はズシャシャーと効果音を付けながら転がり近くの壁にぶつかって動かなくなった。

「何だ貴様!?」

 男達がそう言いながら呆けている間に、俺は男達と子供達の間に立ち塞がる。子供達と言っても俺より大きいけど。

「人身売買を宣言する悪人に名乗る名はない!」

 とりあえずカッコつけてみた。

「何だと? 貴様。お前も良い服着てるじゃないか。お友達か? お前も一緒に売り飛ばしてやらうか?」

 男がそう言うと、路地から更に数人の怖いお兄さんがナイフ片手に出てきた。

 そして、話の冒頭に戻る。はじめてのお使い、早速ハプニングです。俺、ピンチです。

「二人とも、もう大丈夫だよ?」

 とりあえず、二人を振り返らず声だけかけておく。どう見ても弟より年下の子に大丈夫って言われても安心できないよね。分かります。

「俺様を無視するなよ? 痛い目に会いたいのか?」

 さて、どうしようか。俺は確かにレベルは高いが実戦経験はまだ無い。5歳になってから母親から剣術を習い始めたが、まだ数日。しかも今は得物を持っていない。

 魔法もいっぱい覚えたけど、使った事は無い。どんな威力の魔法が発動するかも分からない。下手したらお兄さん達死んじゃう。困った。

「あ、あの、助けてくれたのはありがたいけど、貴方どう見ても5歳くらいよね? この人数をどうにか出来るとは思えないわ。私は弟を置いて行くわけにはいかないけど、さっきの身体能力を見る限り、貴方だけなら逃げられるわ。貴方だけでも逃げて頂戴!」

 そう言われても、助けに来た手前、はいそうですかって逃げる訳にもいかないよね。

「うるせえ! もう遅いんだよ!」

 そう言いながら、血の気の多い怖いお兄さんが一人向かってくる。

「いやーっ!」

 女の子が叫んでる。どうしようか、とりあえず仕方ないから【無属性魔法】の『身体強化』と『思考速度強化』を発動する。

 途端に怖いお兄さんの動きがスローモーションになった。『思考速度強化』は【無属性魔法】のレベルが低いと、無いよりはマシ程度らしいが、レベル10にもなれば世界の進むスピードがとても遅く感じる。あくまでも、思考速度が上がるだけであり、頭が良くなるわけでは無い。残念。

「おい、そいつらは売り物だから殺すなよ!」

 最初に女の子とやり取りをしていた男が何か言っているが、もう心配無用だ。スローモーションの中でも俺は『身体強化』で普段通り行動出来る。

 まずは向かってくるお兄さんを【鑑定】。・・・レベル16。一般人に毛が生えた程度だ。問題ないかな。

 殺すなと言われているのに、馬鹿なのかナイフを胸に向けて突進して来たので、とりあえず二本の指で挟んでみる。一回やってみたかったんだ。多分大丈夫な気がする。あ、止まった。

「「「「・・・えっ!?」」」」

 一瞬の間の後、敵と味方がハモった。
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...