うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華

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第1章 幼少期編

第8話 神託の子

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 俺は前に母親と来た時と、同じ応接室に通された。今日は特に母親本人からの口頭説明もなく、書類の提出だけなので、受付カウンターでお使いも終わりだとおもっていたけど、俺だけでもVIP待遇してくれるみたいだ。お茶まで出してくれた。

「さてと、まずはすまなかったな。うちの冒険者が迷惑をかけた」

「いえ、先程も言いましたが、特に被害を受けた訳ではないので大丈夫です」

 半分、自分で首を突っ込んだしね。敢えて説明はしないけど。

「そうか、良かった。あんな奴でも、この支部の中堅の中では頭一つ抜けている奴でな。
 ナイフまで抜いたんだ。お前がごねたら、何らかの処分を考えないといけないところだった。今回は数日間の強制労働くらいで勘弁してやろう」

 支部長は安心したのか、そう言いながらお茶をすする。ごねてもウースに恨まれるだけで、良い事なさそうだからね。

「それにしても、ウースはああ見えて、もうすぐレベル30に達するんだが、それを赤子の手を捻るようにあしらうとは、噂の神託の子と言うのは凄いんだな」

「いえ、それ程でも・・・えっ! 何故それを・・・」

「ほう、やっぱりそうか」

 あ、俺カマをかけられた? やっちゃった?

「4~5年前だったか、ちょっと話題になっていてな。
 神殿関係者から直接情報は流れないが、そこで働く一般人の口までは完全に蓋はできないもんだ。
 魔王とか世界の危機とか、物騒なワードも出てきていたし、ギルドとしても調査をしていたんだが、断片的な情報しか手に入らなかった。そして、そのまま忘れていたんだが、さっき【鑑定】がレジストされた時に、その話を思い出してカマをかけさせてもらった」

 冒険者上がりで、強さだけで支部長になったのかと思っていたら、とんでもない。中々の切れ者だった。でも、それを知ってどうするんだろう。

「ふふっ、その顔はどうする気だと思ってるな?」

 おおう、この人、伊達に100年以上生きてないな。俺の考えている事なんて手に取るようにわかるのか!?

「別にどうもしないさ。ギルドとしては調査も終わってるし、上に報告するつもりもない。そもそも神殿を敵に回したくもないからな。これは俺個人の興味の問題だ」

 どこまでが本音か俺には分からないが、そう言う事にしておこう。

「それで、お前が神託の子で間違いないんだろ?」

「・・・確かに俺は生まれてすぐに、運命の女神様から神託を授かりました。ただ、それだけです。それ以上でも、それ以下でもありません」

「そうか、まあ今はそれでもいいさ。俺もちょっと興味があっただけだ。
 でも、将来的に冒険者になるんだったら、この支部で登録しろよ? お前なら間違いなくすぐ高ランクになれる。この支部出身ってだけで俺の鼻も高いってもんだ」

 まあ、旅に出る前には冒険者登録はするつもりだし、家から一番近いここで登録する事になるだろう。

「ええ、いつか冒険者登録はしたいと思っていますので、その際はよろしくお願いします」

「ああ、いつでも来いよ。特別扱いしてやる。それと、まだ5歳なら仕方ないかも知れないが、顔に出やすい性格みたいだから気を付けな」

 俺、そんなに顔に出やすいかな? 5歳と言っても前世から合計すると20年以上は生きてるんだけどな。まあ、気をつける事にしよう。

 考えている事が顔に出ないように、出ないように、出ないように。【ポーカーフェイス】みたいなスキルってないのかな? 

《【ポーカーフェイス】のスキルを習得しました》

 あ、はい。ありがとうございます。【スキル早熟】スキルが一晩どころか、一瞬でやってくれました。でも【ポーカーフェイス】してても、俺自身がカマをかけられていたら意味ないな。そこは気を付けるか、他のスキルを身に付けるしかないか。

「さて、話が脱線しすぎてすまなかったな。ここに来た本来の用事だが・・・」

「あ、すみません。こちらが母からの報告書になります」

 そう言いながら、俺は【収納】スキルで報告書を取り出す。

「ほう、手ぶらだったからまさかとは思ったが、やはり【収納】スキルまで持っているのか」

 あ、これまたやらかした? と思いつつも【ポーカーフェイス】に仕事をしてもらう。まだレベル1だから、動揺を完全に隠し切れているかは分からない。無いよりマシだろうけど、早めにレベル上げないとな。

《従魔ポチが取得した経験値の一部を獲得しました。
 レベルが上がりました。
 レベルが上がりました。
 レベルが122になりました。
 【ポーカーフェイス】のレベルが5に上がりました》

 あ、はい。ご都合主義バンザイ。空気を読めるポチ大好き。と言うか、一気に複数レベル上がったのは生まれた直後以来だ。スキルレベルも一気に5とか、ポチは一体何と闘っているんだ・・・。

「まあ、今更【収納】スキルくらいじゃ驚かないさ。大商人と呼ばれるような奴は大体持っているし、珍しくもない」

 そんな俺の心配を他所に、話は進んでいく。

 そうは言っても、俺は商人じゃないし、【収納】はスキルランクがスーパーレアだから珍しいでしょ。とツッコミたいが、話が拗れるだけなのでやめておく。

 まあ、支部長にとって【収納】スキルは珍しく無いのかも知れないが、俺のはレベル10だから、容量の上限もメチャ高いし、時間もほぼ止まっている。それを知ったら流石に驚くだろう。いや、言わないけどね。

 因みに、レベル10でも完全停止ではないが、レベルが上がる度に、時間経過が10分の1になるからほぼ止まってるも同然だ。レベル1だと外と同じ、レベル10になると10年経っても【収納】の中は1秒も経過しないのだ。

「兎に角、書類を見せて貰ってもいいかな?」

「あ、はい、ご確認下さい」

 俺は母親の書類を手渡す。これではじめてのお使いコンプリートかな。

「うむ、これは間違いなくサーシャ殿のサインだ。確かに受け取ったぞ。後は受付カウンターに行って受領証を受け取って帰ってくれ。受付には話が通してある」

「はい。ありがとうございました」

 こうして、俺のはじめてのお使いは、いくつかのアクシデントがありつつも、何とか完了したのであった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


「帰ったか・・・」

 支部長のアルフは支部長室で自分専用の事務机に座り、そう呟く。

「前は母親の影に隠れていたので、よく分からなかったが、直接対面して初めて分かる、奥底に言い知れぬ力を感じたな」

 そう言いながら、お茶を口に付けるがティーカップが皿に当たりカタカタと音を立てる。

「むっ? 俺が、震えているのか・・・。確かにアイツは現時点でも俺が足元にも及ばない程の力を感じた。
 それを導くのも、我々大人の役目、そう言う事ですな、・・・シーラ様」

 そう言いながら窓側に顔を向ける。そこには一人のエルフが立っていた。

「ええ、彼は将来冒険者になり、世界を旅したいと思っているようです。
 それまでにしっかりと自分で考え、正しい道を歩めるよう導いて行くのが、我々の使命です。
 先程も、故意に冒険者に絡まれている節もありましたからね。危なっかしい子です。ふふっ」

 シーラはそう言って笑い、更に言葉を続ける。

「貴方が5年前の神託について、色々と調べていたのは知っていました。興味があったのでしょう?
優秀な貴方の事です。いつか真実に辿り着くと思いましたので、先にこちら側に引き込ませて頂きました。但し、ギルド内に報告する事は控えて下さいよ?」

 シーラは先程の笑顔と打って変わり、厳しい眼差しでアルフを見つめる。

「ええ、そもそもこれはギルド支部長としてではなく、元Aランク冒険者として俺個人で貴方から受けた依頼と考えている。守秘義務は守りますよ」

「彼は近い将来、ここに来る事になると思いますので、その時はよろしくお願いしますね」

 こうして、二人の密談は終わったのだった。シーラが最後に「明日にでも・・・」と呟いていたのはアルフには聞こえていなかった。
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