うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華

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第3章 王都騒乱編

従話 ポチの冒険(16)

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〈大変なの! リョーマが怪我をしちゃったの! 大変なの! とても大変なの!〉

 ミルクからの【念話】を受けて、吾輩は頭の中が真っ白になって、血の気が引いていくのを感じたのだ。

 ご主人が・・・ケガ? 大変なのだ! 大変なのだ!

「殿! どうしたでござるか? 魔道具の実験は失敗でござるか?」

「【念話】は出来たのだ。理論通りなのだ!
 でも、それどころじゃないのだ! ミルクの話だとご主人がケガをしたらしいのだ! 大変なのだ!」

 ケガだけだと全く分からないのだ!

〈ミルク! ミルク!〉

〈何なのボス! コッチも大変なの!〉

 我輩の顔色も大変なのだ! きっと蒼白なのだ!

〈状況! 状況を教えるのだ!〉

〈リョーマは頭を剣で斬られて血が吹き出してるの!〉

 な、な、な! それは一大事なのだ!

「大変なのだ。ご主人の頭から血が吹き出してるそうなのだ。
 こうはしていられないのだ! 我輩隠された力を解放してすぐにでもご主人の元に向かうのだ!」

 さあ隠された力よ、どんとこいなのだ!

「殿! 焦らないで、待つでござる! そもそも、そんな都合の良い隠された力なんてある訳・・・殿ならありうるでござるか?」

「うん、ぽっちんならあるかも」

「確かに、ポチ殿ならあるかも知れんのぉ」

「いやいや、みんな冷静になるにゃ。そんなご都合展開ある訳ないにゃ!」

 ケットシーのタマの言う通り、残念ながら結局何も起きなかったのだ。無念なのだ。ここから出られないのが歯痒いのだ。


〈ボス! こっちは落ち着いたの。キズは深くて派手に出血したけど、リョーマは大丈夫そうなの。
 回復力の高さもさすがなの。寝不足が祟って眠ってるだけみたいなの。だから、もう心配は要らないの〉

 少ししたらミルクから状況報告があったのだ。良かったのだ。本当に良かったのだ。

〈ポチ殿! すまない! 私が付いていながらリョーマ様にお怪我をさせてしまった! 本来ならあの痛みは私が受けるはずだったのにっ・・・〉

 うん、アクモンはまず痛みから離れるのだ。

〈この罪、どう償えば良いのだろうか。リョーマ様にタコ殴りにされるとか、ボールの様に蹴り飛ばして貰うとか・・・。
 ああ、想像するだけで痛そうです〉

 いや、アクモンはとにかく痛みから離れるのだ。

〈大丈夫なのだ。配下の失敗は我輩の失敗でもあるのだ。我輩が責任を取るのだ〉

〈え、いや、そんな! リョーマ様にお仕置きして貰えるかと・・・〉

〈アクモン、残念ながらそれはアクモンにとってお仕置きじゃなくてご褒美なのだ〉

 そう言っておかないと、お仕置きに味をしめて進んで失敗するようになりそうなのだ。

〈はっ! 確かに・・・。待っていてくださいリョーマ様。このアクモン、必ずリョーマ様にご褒美が貰えるよう頑張ります!〉

 あー、うん。よく分からないけど、頑張ってくれなのだ。

〈それでボス。リョーマは眠ってしまってるけど、グループ【念話】には加えられるの。少し声を掛けてあげて欲しいの。
 夢の中ででもボスの声が聞こえると嬉しいと思うの!〉

 ご主人が起きていなくても、逆にケガをしているからこそ、声を掛けたいのだ。

〈ミルク、よろしくなのだ!〉

〈分かったの! ・・・繋がったの! 声を掛けてあげてなの〉

〈ご主人! 聞こえてるのだ? ポチなのだ!〉

 分かってはいたけど、ご主人から返事はないのだ。

〈ご主人! しっかりするのだ! キズは浅いのだ! もう大丈夫なのだ!
 深かったけど、もうふさがってるらしいのだ! 深いのに浅いとか哲学なのだ〉

 って、そんな事言ってる場合じゃないのだ。

 眠っているとは言え、ご主人に声が掛けられるチャンスなのだ。何か言わないと、何か言わないとなのだ!

 でも、いざとなったら何を言えば良いか、直ぐには出てこないのだ。

「む、ポチ殿、魔道具のエネルギーが切れそうじゃ。後一言くらいが限界じゃぞ」

 何てこったなのだ! この魔道具、消費が激しすぎるのだ。手持ちの大きい魔石を結構ふんだんに使ったのに、もう限界がきたのだ。

〈ご主人とお話したかったけど、時間切れなのだ。
 魔道具のエネルギー切れなの・・・だ〉

 そこまで言ったところで、魔道具は沈黙してしまったのだ。

 我輩の言葉はご主人に届いたのだ? いや、きっと眠っていても心には届いているはずなのだ。

 けど、逆に寂しくなってしまったのだ。ご主人・・・。早く会いたいのだ・・・。

「次はもっと改良して燃費も良くするのだ。ゴブ、協力して欲しいのだ!」

「ああ、任せるのじゃ。しかし、今はもう1つの魔道具じゃ。
 さあ、この無限回廊を突破するのじゃ」

 あ、すっかり忘れてたのだ。【念話】する魔道具は副産物で、こっちが本命だったのだ。

「魔道具を発動させたら、私が空間に割れ目を入れます。一気に突破しましょう」

 さすが悪魔王グリモール。役に立つのだ。

「ではいくぞい」

 ゴブはそう言うと魔道具を起動したのだ。それと同時にグリモールが動く。

 ───パリン。

 そんな音がして、空間にヒビが入ってバラバラに砕け散ったのだ。

「成功じゃ!」

 今までずっと同じ景色が続いてた道の先に扉が見えるのだ。きっとあそこがゴールなのだ。

「よし、進むのだ。みんな油断するななのだ」

 我輩たちは慎重に進むと、道の先にあった扉を開ける。簡素な木の扉だったのだ。

 扉を開けると、不思議な気配が漂っていたのだ。真っ暗な部屋の中央・・・真っ暗なのに何故か中央と感じるところに、短髪黒髪の人? が氷漬けになっていたのだ。
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