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愛のために

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夕方。
海沿いの広い砂浜で男は立ち尽くしていた。足元には太った女が倒れている。男──藤原孝則は記憶がない。ヴヴヴ。ヴヴヴ。孝則は、ズボンのポケットに、手を突っ込みスマートフォンを取り出した。メールが来ている。開くと、『その女を助けろ。スマホで救急車を呼べ』と書いてあった。
 メールの指示通り、救急車を呼んだ。そして孝則は女にケガをさせたとして逮捕された。女──彼女の和美との間に子をなしていたらしく、あと少し救急車を呼ぶのが遅かったらお腹の子も死ぬところだったらしい。
孝則は牢屋で一人、横になっていたが何かに気付いて顔をあげる。
「あれは、未来の俺からのメールだったのか。子供の命を救うためなら、罪を被る……。助かって、良かった……」
男は泣き出した。
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