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第1章 南海の覇者
第6話 初陣
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ホイアンに戻ると、福源陛下に銀100貫とバタヴィアのコーヒーを献上した
コーヒーは天竺から持ち込まれることもあったそうだが、量は多くないので喜んでもらえた
献上のどさくさに紛れて、太郎右衛門が山地の土地を開発する許可をもらっていた
山地などもらって何をやるのかと思っていたら、コーヒーと茶の栽培を始めるそうだ
たしかに、コーヒーは美味いがたまには煎茶も飲みたいもんな
気持ちはよくわかる
「違うぞ」
「うひょ!? 顔色を読んで話掛けるな!」
俺はそんなに複雑な感情を顔で表現できているのか…
「茶とコーヒーは交易に使うんだ」
「交易に?」
「今南蛮では『紅茶』という発酵させた茶が流行の兆しを見せてるそうだ。
広南国のあたりは茶の木の原産地だからな。今栽培しているものに加えて、大掛かりに人手をかけてやる
オランダ人の言う『大規模農園』というやつだ」
何を言っているのかさっぱりわからん
まあ、ともかく太郎右衛門が積極的にやるのだからおそらく儲かるのだろう
「それと、砕いた豆を煮た出し殻を濾す布もあればいいな。あの煮だした粉は口に当たると不愉快だ」
「それは確かに…いいかもしれんな」
「まずはホイアン、そしてフエでコーヒーを流行らそう。
そのためには、まずは栽培を成功させんとな」
ガレオン船が一隻、とりあえず半年後には進水できそうだった
船大工達ももともと技術はあったとはいえ、よく応えてくれたものだと思う
オランダのスペックス総督に話をつけて、オランダのカルバリン砲を20門とセーカー砲を50門注文した
ガレオン一隻につきカルバリン砲4門とセーカー砲10門
軍船の武装としてはオランダ・イスパニアに比べると貧弱だが、華僑のジャンク船相手なら十分戦えるだろう
以前にポルトガルから青銅製のカルバリン砲の製法は伝わっているそうなので、あとは銅鉱石を仕入れれば国内生産も夢じゃない
未来は明るいな
武器の支払いは交易払いで、払い終えた分だけ持ち帰ることができる契約になった
先渡しはしてくれなかったな
まあ、当然か
弾丸は陸戦仕様の半分の大きさの物を使用する
半カルバリン砲と半セーカー砲というらしい
砲弾が軽い分、命中精度と威力は落ちるが、遠くまで飛ばす事ができるため射程が伸びる
どのみち、船戦の主力は白兵戦だ
広南人からも戦闘員を募り、知政殿にお願いして剣の扱いに長けた者を教練役にしている
彼らもあと半年ほどすれば刀・鉄砲の扱いに長けてくるだろう
鉄砲といえば火縄の代わりに火打ち石を使う火打石式の鉄砲も10丁ほど購入した
火縄式と比べて引き金を引いてから発砲までに時間差があるので命中精度が悪かったが、どのみち足場の悪い船戦なんだから、多少の水しぶきなら問題なく使えるという利点はありがたい
早速キリシタン鉄砲鍛冶に渡して、複製を作れるか試してもらっている
戦闘要員の育成とガレオン一隻分の武器の調達、あとはぷらんてーしょんとやらの経費で前回の1500貫がほぼスッカラカンになってしまった
また交易に出かけなければ…
「若!積み荷の準備ができましたぞ」
「よし!明日出航するぞ!」
一番儲かるのはやはり日本行きの船便だが、日本行きは春にならないと風が吹かない
広南周辺は一年中春から夏のような温暖な気候だが、今は季節的には冬で日本交易はできない
だが、その間角屋丸を遊ばせておくのももったいないので、農園の立ち上げに忙しい太郎右衛門を置いて、その他の乗組員はオランダ領の中継ぎ貿易を行うことにした
ゼーランディアまで行って彼らが琉球を通じて得た明や日本の産物を請け負い、そこからホイアンへ戻る
一旦ホイアンに戻ったら、買い付けた産物と共に広南のクローブやコショウ、シナモンといった香辛料を積み込んでバタヴィアに行く
広南の産物を売るだけじゃなく、廻船業としてタイオワン・バタヴィア間の航路を請け負うことでオランダ自身の船が沈没する危険を一部角屋艦隊が負担するわけだ
もちろん、タイオワン・バタヴィア間はオランダ自身の船も航行しているが、定期便として廻船が増えるのは彼らにしても利があるらしい
操船役の逸平やグエンにも後輩に教える役目を与えた
周にも5人ほど見習いに付けたんだが、無口なので言葉で教えるということがない
すでに5人中2人は心が折れて操帆員へ転向願いが出ていた
最終的に5隻の艦隊になるんだから、操船要因はもっと増やさないといけないんだが…
日本から戻って僅か1か月の休息で、角屋丸は再びゼーランディアを目指して出航した
「おお、七郎兵衛。いいところに帰って来たな」
バタヴィアから帰港すると、そう言って太郎右衛門が港まで迎えに来てくれた
「農場で初収穫した『紅茶』だ。まあ、新たに栽培したものではなく、元々あった茶の木から取った葉で試しに作ってみたんだがな」
そういうと一杯差し出してくれた
ズズーッ
香りがいいな。これはこれで美味い。だが俺はお茶なら煎茶の方がいいな…
「やっぱり気に入らんか…」
「だから顔で全てを読み取るな。会話をしろ会話を」
「いや、俺も好みとしては煎茶が好きだからな」
なんだ…どうにも太郎右衛門と話していると困惑することが多いな
「砂糖を入れて飲むといい。渋さがマシになる。
だが、いずれにせよもう少し工夫が必要だな」
紅茶を飲みながらあれこれ話していると、知政殿から使いが来た
大至急城へ来いとのことだった
知政殿配下の日本兵100名と共に王都フエを目指す
「陛下。お呼びにより参じました」
太郎右衛門と知政殿の3人で福源陛下の御前に伺候する
「おお、ニシムラ。それにカドヤにヤマダも来てくれたか。
北の鄭壯が御林軍2000で持ってソン川を渡り、我が方の長城に対して攻撃の構えを見せておると前線から報せが入った
その方らは阮有益に従い、各々防衛に当たってくれぬか
詳しくは有益より説明させる」
「はは!畏まりました!」
「早速ではあるが、軍議を行う」
陛下の御前を下がり、有益将軍に従って王宮の一室に案内された
石造りで殺風景な部屋だったが、長机と背もたれのない椅子が10ほど置いてあり、既に3名の武将が席についていた
「王都フエはここ、ホイアンはここだ。わが方の国境はソン川対岸に簡易防壁を築いて第一次防衛線を引いているが、ここは既に撤退している。
敵御林軍は兵2000
対するこちらは王都守備兵を動員して兵1000
それと第一次防衛線から退却した兵500 合わせて兵1500
ソン川の内側にはわが方が堅固な長城を築いているが、ここを抜かれるとドンホイの防壁が最終防衛線だ。
だが、ソン川内側の第二次防衛線で敵を食い止める
ヤマダ率いる日本兵100名は我が軍と共に明日王都フエを出撃する」
「承知仕りました」
「ニシムラはクメールとの交渉を頼みたい。北の安南に向き合っている間、こちらに攻め込まぬようにな。
費えはいくら使ってもかまわん」
「かしこまりました」
「カドヤは船に買い求めたカルバリン砲を乗せて第二次防衛線まで運んでもらいたい。
既に長城には4門の大砲を設置してあるが、火力が増えるに越したことはないからな
期限は四日後、我らが到着するまでにだ」
「お任せ下され!」
「ただし、安南にも海軍はある。ジャンクタイプで大砲の装備はないはずだが、奴らも大砲は交易で手に入れているはずだから油断はできぬと思え
以上!出撃準備だ!」
「「「応!!」」」
それぞれの支度の為、場の全員が一斉に動き出す
俄かに王宮内は活気づいた
俺と太郎右衛門は早馬でホイアンを目指す
ホイアンからソン川までは船なら1日で着くとはいえ、大砲・鉄砲・火矢・火薬の準備を考えれば猶予はない
「利左衛門!鄭氏安南から敵が進軍しているそうだ!
俺たちは明後日までにソン川までカルバリン砲2門を届ける!出撃準備を急げ!」
「はは!」
ホイアンに戻り、出撃準備を全員に指示する
訓練中ではあるが白兵要員は連れて行く
船戦をするには戦闘員が足りない
他にセーカー砲も全て積み込ませた
文字通り、総力戦だ
「では、武運を祈るぞ」
「太郎右衛門こそ、クメールに屍を晒すなよ」
「ははっ。クメール宮廷にも伝手はあるからな。正直今回は俺が一番楽な役目だ」
そう言うと太郎右衛門は笑顔で南へ旅立った
出撃準備はあわただしく進み、翌日早朝にホイアンの港を出航した
俺にとっては初陣だ。
この年で初陣とは一昔前なら考えられなかったが、日本は泰平の世になって三十年を数える
武者震いが止まらなかった
「若、落ち着きなされ。まずは船戦の仕様をご覧に入れましょう」
「頼もしいぞ、利左衛門」
利左衛門は倭寇討伐にも駆り出された船戦の巧者という噂だ
実戦経験のない俺は、まずは利左衛門から戦の仕様を学ばねばならんな
逸平・周・グエン・宗助が戦慣れした古強者の気を漂わせて操船にかかる
宗助は俺と同じく船戦は初陣のはずなんだが…
―――同じ頃
鄭氏安南の港町ハイフォンから3隻のジャンク船が出港準備を整え終わっていた
頭領が配下に号令する
「これより、阮氏のドンホイを衝く!ソン川長城の裏から兵を回して敵の防衛網を引き裂く!
総員出撃だ!」
「「「オオー!」」」
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