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ニンゲン×魔族
09
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「浅霧が倒れた」
富岡からそう連絡が来た。
体育で誰かが蹴ったサッカーボールが、ヨゾラの頭に当たったらしい。
真幸は授業中だったが、思わず教室を飛び出し、保健室まで走った。
打った場所にもよるが、ニンゲンの薬は効かないだろうし、うっかりでまた体調を悪くする場合だってある。
「神崎君」
廊下を走って居ると名前を呼ばれた。
廊下を走って居たため先生に注意されると思った真幸は、とりあえず止まった。
「すんません、今から歩くんで今日は勘弁したって下さい」
真幸は振り向かずに歩こうとした。
「今は授業中じゃないのかい?」
「ちょっと腹痛なって保健室に行きたいんです」
こっちは急いどるんに、と真幸は心の奥底で思った。
「そうかい。先生にはちゃんと言ってきたんだよね?」
あ……、真幸は小さく呟いた。
メッセージ貰って直ぐに飛び出して来てしまった。
「無断で出て来たらダメだろう?先生も一緒に謝ってあげるから、教室に戻りなさい」
そう言われても、急がないとならない。
ヨゾラに何も無ければいいが。
「後でちゃんと先生には謝るんで、今は見逃したって……」
真幸は渋々振り向いた。
真幸を呼び止めたのはダレルだった。
「浅霧君が心配なのだろうけど、様子は僕が見に行くように言われたんだ。古都衣先生は授業中だから」
「……腹痛い言うとるやんか」
真幸はわざとらしく腹を摩ってみた。
「見た目、元気そうだけど。廊下走るくらいだし」
ダレルは笑顔を見せた。
「トイレは逆方向」
「……様子見たら直ぐに教室戻るわ」
真幸はそのまま保健室へ早歩きで行こうとした。
「君達の仕事は勉強だ。疎かにするべきではないよ。君が居て役に立つとか、特別な事はないだろう?」
「俺は居候の身やねん。そら心配してもかまへんやろ?」
真幸としては、早くヨゾラの様子を知りたい。
ここは1階と2階の階段の踊り場。
ダレルは2階の階段の一番上だから、巻こうと思えば巻けるが。
様子を見て大丈夫なら別に問題ないし、後から先生に叱られても仕方ない。
「常磐ーっ!!」
どうしようか考えていると、2階の廊下から別の教師の怒鳴り声が聞こえた。
「お腹痛いから保健室に行くって行ったじゃん?」
笑いながらそんな声も聞こえる。
「腹痛い奴が走れるかーっ!!」
同じ言い訳をする奴が居るとは。
真幸はちょっと恥ずかしくなった。
「ダレル先生ーっ!!捕まえて下さーいっ!!」
ダレルは声のする方に体勢を変えた。
両手を広げて居るようだ。
そして、勢い良く常磐がダレルに飛び付いた、と言うか羽交い締めの様に抱き着いた。
「わーっ!捕まっちゃったー!!」
「捕まえる側かいっ!!」
と、真幸は思わず声に出し掛けた。
常磐は真幸の方を見ると、ダレルを抱き締めながら親指を立てた。
真幸は一瞬眉間に皺を寄せたが、はっと我に返り階段を飛び降りた。
「先生ーっ!!はーなーしーてーっ!!」
等と以下にもわざとらしい声が響く。
常磐に助けられるなんて屈辱だ、と思うも、今度会ったらお礼に水でも奢ってやろう、とも思ってみた。
保健室まで走ると、勢い良く扉を開けた。
ヨゾラは体操着のまま丸椅子に座らされていて、先生と共に目を丸くした。
「お前、授業中だろっ!?」
思った以上に元気そうだ。
安心は出来るが、心配は心配だ。
「ほんま大丈夫なんか?」
保健の先生はサボる生徒には慣れているのか、真幸がズカズカ入って来ても最早何も言わなかった。
ボールが当たった時に思わず羽やらシッポやら出してないかと心配だったが、杞憂で済んだのには安心したが。
「ボールが当たっただけだ。ちょっと赤くなっちまったけど痛くは無いし」
ヨゾラは前髪を掻きあげた。
おデコが赤くなってるが、腫れてはいない。
「まぁ、後ろに倒れて頭ぶったけど、タンコブ程度だ。心配する事じゃねぇし」
前髪を直しながら、そう付け足した。
「先生が迎え呼んだから、先に帰るけど、お前今日はバイトだっけ?」
「まぁ、そうやけど」
「俺の事は気にするなよ。あ、荷物持って来てくれね?」
「授業中やで、俺」
「そんでも来てくれたんだしさ。心配なら最後まで面倒みろよ」
ヨゾラはヘラっと笑った。
今の時間ならヨゾラの教室は誰も居ない。
先生に見つからなければ別に良いか、と思い真幸は溜息を吐いた。
「……しゃーないな。持って来るから大人ししとき」
「悪ぃな」
ほんまに悪い思うとるんか?と疑問には思うが、真幸は保健室を出た。
ちょっと遠回りになるが、来た方向の逆を歩く。
常磐がちょっと気になるが、上手くやるだろうと思い、そのままヨゾラの教室へ行った。
「常磐ーっ!!」
外から先生達の声が聞こえる。
また逃げ出したなら、もう少し大丈夫かな?と思いながら教室に入ると、
「真幸?」
唐島がヨゾラの席に居た。
「更衣室から制服を持って来たんだ」
「……そぉかい」
教室にズカズカ入ると、真幸はヨゾラの机の中をチェックし、横にかけてある通学用のバッグを机の上に置いた。
開いてみると、スマホや財布はそのまま入っている。
「アイツ、貴重品はロッカーに入れて鍵をかけろと言うとったに」
真幸は舌打ちをしたまま、バッグを肩に掛けた。
唐島から乱暴にヨゾラの制服を奪うと、教室を出ようとした。
「真幸も帰るの?」
声をかけられた。
「荷物を持って行くだけや」
素っ気なく答えて見た。
「俺も行くよ。様子見ておきたいし、御手洗達も心配してるから」
断っても着いて来るのは分かっている。
真幸は何も答えず教室を出た。
外では相変わらず、先生達が常磐を捕まえる為に翻弄していた。
真幸はチラッと外を見るも、再び保健室へと向かう。
軽く早足で、会話もなく保健室へ辿り着き、中へ入るとそこには楼依ではなく千皇がいた。
「神代兄さんやなんて珍し」
真幸は通りすがりにそう言った。
「そうか?」
千皇も相変わらず素っ気なく言った。
「俺もいますけどー」
ヨゾラの横にはカグヤも居た。
なんだか違和感を感じる。
こう言う時は楼依が来るはずなのに。
「大事には至ってないとは思いますが、一応病院には行ってください。復学して早々ですが」
ダレルも居た。
ダレルは真幸に目を向けると、ふっと小さく笑った。
真幸のコメカミがピクリと動く。
何の事か分からないが、余裕を見せられているようでイラっと来た。
真幸の後ろに唐島が居るのに、それについても言及しない。
「浅霧、大丈夫なのか?」
唐島は真幸を押し退けて、ヨゾラの前に来た。
「気にする程の痛みは無いよ。明日からはまた来れると思う」
「そうか、それなら安心だ。御手洗達にも伝えとくよ」
「ありがとうな。後でメッセージも送っとく」
唐島とヨゾラの会話は普通の友達との会話だ。
真幸にまとわりついていた唐島とは違う気がするのも疑いすぎかと、真幸は頭を搔く。
そして、ヨゾラに近付くと、バッグと制服を渡す。
「今日、学校終わったらバイト休んで帰るわ」
「お、真幸君の夕飯、久々だなっ!」
「あんたが帰って来ぃひんからな」
「んな事言ったってさ、俺もヨゾラも作れねぇし。千皇はたまにしか作ってくれねぇし」
「二番目兄さんが何時も作ってくれとるやろ」
「お前、何言ってんの?」
真幸とカグヤの会話に、ヨゾラが口を挟んだ。
ヨゾラを見ると、眉間に皺を寄せて困惑している表情だ。
「俺には兄さん一人だけだぞ」
「……はぁ?お前かて何言うてんねん」
「いやいや。お前は俺ん家に長く居候してんのに、夢でも見てんじゃねぇの?」
ヨゾラは眉間に皺を寄せたままだ。
カグヤに目を向けるも、ヨゾラと同じだ。
真幸の記憶が本当に夢だったんじゃないかと錯覚してしまいそうなくらいだ。
「……」
唐島が何かを呟いた。
振り向くと、顔が強ばっている。
そして、目線だけをダレルに向けた。
真幸は唐島の視線を追ってダレルを見たが、ダレルは小さく口角を上げている。
真幸の背中がゾワッとする。
「真幸君が早く帰るなら、千皇もゆっくり休める。さっさと帰ってヨゾラも休ませねぇとなー」
カグヤがそう言うと、千皇はヨゾラのバッグをヨゾラから取り上げて肩にかけた。
「神代兄さん」
ヨゾラはカグヤが立たせて保健室から出た後、その後を追う千皇の腕を真幸は掴んだ。
「姫神兄さんは……」
千皇の眉間に皺が寄る。
「……誰だ、それ……」
思いも寄らない答えだ。
「神代兄さんの後輩で、イケメンの……。おったやろ?」
「知らねぇが、面が良いなら連れて来い。ホスト一人やられて人手不足なんだ」
まさか、楼依の事まで……。
今までの事は本当に夢だったのか?
しかし、唐島の反応を見るに夢じゃない気がする。
千皇も保健室から出て行った。
「さ、君達も教室に戻ろうか」
ダレルは何もないような態度だ。
そして、保健室を出て行った。
その後ろを唐島が行き、その後で真幸が出た。
2階の階段を登り3階に行こうとした時、突然背後から口を塞がれた。
「しーっ!ちょっと静かにしようか」
耳元で聞こえた声は常磐だった。
そして、そのまま壁に隠れるように移動すると、真幸から手を離し、廊下の先を指さした。
壁に身を隠し、唐島の指先の方を見た。
考え事をしながら歩いていたせいか、体育館に向かったと思っていた唐島がダレルを睨んでいる。
「約束が違うじゃないか……」
小声だが、唐島がそう言った。
「間違えてないよ。僕は唐島君の『望み』は叶えました」
「叶っていないしっ!」
望みを叶えた?望みってなんだ?
真幸は廊下の壁を力強く握った。
「契約は無効だろう!?」
「良く思い出してごらん?君が僕に何を言ったのか。まぁ、僕は僕の願いに一歩近付けたから感謝はしていますよ。……それに」
ダレルは唐島の耳元で何かを囁いた。
その声はこちらまで聞こえない。
ダレルはニッコリ笑みを浮かべると、唐島を置いて歩き去った。
唐島は拳を握り、震わせながら立ちすくむ。
真幸は乗り出そうとしたが、常磐に止められた。
「今飛び込んだって素直には話をしないと思うよ」
コソッと常磐が言った。
「せやかて、俺の奇妙な記憶は迅人が絡んどる可能性がデカイんやで」
コソッと真幸も反論した。
「浅霧の二番目のお兄さんと姫神先輩の事だろう?」
真幸は目を丸くして常磐を見上げた。
この男はどこまで知って居るんだ?と、疑問があるが。
「あんたは覚えとるんか?」
「うーん、ぼんやりね。確か居たよねー、程度だけど」
常磐は顎に手を添えた。
「やっぱり夢やないんやな……」
複雑だが、自分一人じゃないと分かると少し安心する。
「どんな顔とかは思い出せないんだけどさ。記憶がないのは浅霧とお兄さん、神代さんだけなのか。少なくとも唐島は記憶はありそうだな。でも、どうやったんだろーね」
ダレルも魔族かも知れない。
上位魔族なら、こんな状況だって作れると思うが。
唐島が絡んだとして、何故ルシカと楼依なのかは分からない。
唐島の『望み』は、絶対ヨゾラが絡んでるはずで、もしかして手始めにルシカに手を出したなら……。
でも、唐島の『望み』は叶ってはいない様だし。
ルシカが本来の目的ではなくて、解釈の違いだったなら、それはそれで許せない。
「……記憶がないだけなら、家に帰れば二番目兄さんの痕跡はあるかも知れへん」
「そーだね……。なんかモヤるし、俺も力になったげる。おもしろそーだし」
常磐はヘラっと笑った。
真幸はイラっとしながらも、記憶がかろうじてある常磐なら、どうにかしてくれるかも、と極小な期待をとりあえず持ってみた。
富岡からそう連絡が来た。
体育で誰かが蹴ったサッカーボールが、ヨゾラの頭に当たったらしい。
真幸は授業中だったが、思わず教室を飛び出し、保健室まで走った。
打った場所にもよるが、ニンゲンの薬は効かないだろうし、うっかりでまた体調を悪くする場合だってある。
「神崎君」
廊下を走って居ると名前を呼ばれた。
廊下を走って居たため先生に注意されると思った真幸は、とりあえず止まった。
「すんません、今から歩くんで今日は勘弁したって下さい」
真幸は振り向かずに歩こうとした。
「今は授業中じゃないのかい?」
「ちょっと腹痛なって保健室に行きたいんです」
こっちは急いどるんに、と真幸は心の奥底で思った。
「そうかい。先生にはちゃんと言ってきたんだよね?」
あ……、真幸は小さく呟いた。
メッセージ貰って直ぐに飛び出して来てしまった。
「無断で出て来たらダメだろう?先生も一緒に謝ってあげるから、教室に戻りなさい」
そう言われても、急がないとならない。
ヨゾラに何も無ければいいが。
「後でちゃんと先生には謝るんで、今は見逃したって……」
真幸は渋々振り向いた。
真幸を呼び止めたのはダレルだった。
「浅霧君が心配なのだろうけど、様子は僕が見に行くように言われたんだ。古都衣先生は授業中だから」
「……腹痛い言うとるやんか」
真幸はわざとらしく腹を摩ってみた。
「見た目、元気そうだけど。廊下走るくらいだし」
ダレルは笑顔を見せた。
「トイレは逆方向」
「……様子見たら直ぐに教室戻るわ」
真幸はそのまま保健室へ早歩きで行こうとした。
「君達の仕事は勉強だ。疎かにするべきではないよ。君が居て役に立つとか、特別な事はないだろう?」
「俺は居候の身やねん。そら心配してもかまへんやろ?」
真幸としては、早くヨゾラの様子を知りたい。
ここは1階と2階の階段の踊り場。
ダレルは2階の階段の一番上だから、巻こうと思えば巻けるが。
様子を見て大丈夫なら別に問題ないし、後から先生に叱られても仕方ない。
「常磐ーっ!!」
どうしようか考えていると、2階の廊下から別の教師の怒鳴り声が聞こえた。
「お腹痛いから保健室に行くって行ったじゃん?」
笑いながらそんな声も聞こえる。
「腹痛い奴が走れるかーっ!!」
同じ言い訳をする奴が居るとは。
真幸はちょっと恥ずかしくなった。
「ダレル先生ーっ!!捕まえて下さーいっ!!」
ダレルは声のする方に体勢を変えた。
両手を広げて居るようだ。
そして、勢い良く常磐がダレルに飛び付いた、と言うか羽交い締めの様に抱き着いた。
「わーっ!捕まっちゃったー!!」
「捕まえる側かいっ!!」
と、真幸は思わず声に出し掛けた。
常磐は真幸の方を見ると、ダレルを抱き締めながら親指を立てた。
真幸は一瞬眉間に皺を寄せたが、はっと我に返り階段を飛び降りた。
「先生ーっ!!はーなーしーてーっ!!」
等と以下にもわざとらしい声が響く。
常磐に助けられるなんて屈辱だ、と思うも、今度会ったらお礼に水でも奢ってやろう、とも思ってみた。
保健室まで走ると、勢い良く扉を開けた。
ヨゾラは体操着のまま丸椅子に座らされていて、先生と共に目を丸くした。
「お前、授業中だろっ!?」
思った以上に元気そうだ。
安心は出来るが、心配は心配だ。
「ほんま大丈夫なんか?」
保健の先生はサボる生徒には慣れているのか、真幸がズカズカ入って来ても最早何も言わなかった。
ボールが当たった時に思わず羽やらシッポやら出してないかと心配だったが、杞憂で済んだのには安心したが。
「ボールが当たっただけだ。ちょっと赤くなっちまったけど痛くは無いし」
ヨゾラは前髪を掻きあげた。
おデコが赤くなってるが、腫れてはいない。
「まぁ、後ろに倒れて頭ぶったけど、タンコブ程度だ。心配する事じゃねぇし」
前髪を直しながら、そう付け足した。
「先生が迎え呼んだから、先に帰るけど、お前今日はバイトだっけ?」
「まぁ、そうやけど」
「俺の事は気にするなよ。あ、荷物持って来てくれね?」
「授業中やで、俺」
「そんでも来てくれたんだしさ。心配なら最後まで面倒みろよ」
ヨゾラはヘラっと笑った。
今の時間ならヨゾラの教室は誰も居ない。
先生に見つからなければ別に良いか、と思い真幸は溜息を吐いた。
「……しゃーないな。持って来るから大人ししとき」
「悪ぃな」
ほんまに悪い思うとるんか?と疑問には思うが、真幸は保健室を出た。
ちょっと遠回りになるが、来た方向の逆を歩く。
常磐がちょっと気になるが、上手くやるだろうと思い、そのままヨゾラの教室へ行った。
「常磐ーっ!!」
外から先生達の声が聞こえる。
また逃げ出したなら、もう少し大丈夫かな?と思いながら教室に入ると、
「真幸?」
唐島がヨゾラの席に居た。
「更衣室から制服を持って来たんだ」
「……そぉかい」
教室にズカズカ入ると、真幸はヨゾラの机の中をチェックし、横にかけてある通学用のバッグを机の上に置いた。
開いてみると、スマホや財布はそのまま入っている。
「アイツ、貴重品はロッカーに入れて鍵をかけろと言うとったに」
真幸は舌打ちをしたまま、バッグを肩に掛けた。
唐島から乱暴にヨゾラの制服を奪うと、教室を出ようとした。
「真幸も帰るの?」
声をかけられた。
「荷物を持って行くだけや」
素っ気なく答えて見た。
「俺も行くよ。様子見ておきたいし、御手洗達も心配してるから」
断っても着いて来るのは分かっている。
真幸は何も答えず教室を出た。
外では相変わらず、先生達が常磐を捕まえる為に翻弄していた。
真幸はチラッと外を見るも、再び保健室へと向かう。
軽く早足で、会話もなく保健室へ辿り着き、中へ入るとそこには楼依ではなく千皇がいた。
「神代兄さんやなんて珍し」
真幸は通りすがりにそう言った。
「そうか?」
千皇も相変わらず素っ気なく言った。
「俺もいますけどー」
ヨゾラの横にはカグヤも居た。
なんだか違和感を感じる。
こう言う時は楼依が来るはずなのに。
「大事には至ってないとは思いますが、一応病院には行ってください。復学して早々ですが」
ダレルも居た。
ダレルは真幸に目を向けると、ふっと小さく笑った。
真幸のコメカミがピクリと動く。
何の事か分からないが、余裕を見せられているようでイラっと来た。
真幸の後ろに唐島が居るのに、それについても言及しない。
「浅霧、大丈夫なのか?」
唐島は真幸を押し退けて、ヨゾラの前に来た。
「気にする程の痛みは無いよ。明日からはまた来れると思う」
「そうか、それなら安心だ。御手洗達にも伝えとくよ」
「ありがとうな。後でメッセージも送っとく」
唐島とヨゾラの会話は普通の友達との会話だ。
真幸にまとわりついていた唐島とは違う気がするのも疑いすぎかと、真幸は頭を搔く。
そして、ヨゾラに近付くと、バッグと制服を渡す。
「今日、学校終わったらバイト休んで帰るわ」
「お、真幸君の夕飯、久々だなっ!」
「あんたが帰って来ぃひんからな」
「んな事言ったってさ、俺もヨゾラも作れねぇし。千皇はたまにしか作ってくれねぇし」
「二番目兄さんが何時も作ってくれとるやろ」
「お前、何言ってんの?」
真幸とカグヤの会話に、ヨゾラが口を挟んだ。
ヨゾラを見ると、眉間に皺を寄せて困惑している表情だ。
「俺には兄さん一人だけだぞ」
「……はぁ?お前かて何言うてんねん」
「いやいや。お前は俺ん家に長く居候してんのに、夢でも見てんじゃねぇの?」
ヨゾラは眉間に皺を寄せたままだ。
カグヤに目を向けるも、ヨゾラと同じだ。
真幸の記憶が本当に夢だったんじゃないかと錯覚してしまいそうなくらいだ。
「……」
唐島が何かを呟いた。
振り向くと、顔が強ばっている。
そして、目線だけをダレルに向けた。
真幸は唐島の視線を追ってダレルを見たが、ダレルは小さく口角を上げている。
真幸の背中がゾワッとする。
「真幸君が早く帰るなら、千皇もゆっくり休める。さっさと帰ってヨゾラも休ませねぇとなー」
カグヤがそう言うと、千皇はヨゾラのバッグをヨゾラから取り上げて肩にかけた。
「神代兄さん」
ヨゾラはカグヤが立たせて保健室から出た後、その後を追う千皇の腕を真幸は掴んだ。
「姫神兄さんは……」
千皇の眉間に皺が寄る。
「……誰だ、それ……」
思いも寄らない答えだ。
「神代兄さんの後輩で、イケメンの……。おったやろ?」
「知らねぇが、面が良いなら連れて来い。ホスト一人やられて人手不足なんだ」
まさか、楼依の事まで……。
今までの事は本当に夢だったのか?
しかし、唐島の反応を見るに夢じゃない気がする。
千皇も保健室から出て行った。
「さ、君達も教室に戻ろうか」
ダレルは何もないような態度だ。
そして、保健室を出て行った。
その後ろを唐島が行き、その後で真幸が出た。
2階の階段を登り3階に行こうとした時、突然背後から口を塞がれた。
「しーっ!ちょっと静かにしようか」
耳元で聞こえた声は常磐だった。
そして、そのまま壁に隠れるように移動すると、真幸から手を離し、廊下の先を指さした。
壁に身を隠し、唐島の指先の方を見た。
考え事をしながら歩いていたせいか、体育館に向かったと思っていた唐島がダレルを睨んでいる。
「約束が違うじゃないか……」
小声だが、唐島がそう言った。
「間違えてないよ。僕は唐島君の『望み』は叶えました」
「叶っていないしっ!」
望みを叶えた?望みってなんだ?
真幸は廊下の壁を力強く握った。
「契約は無効だろう!?」
「良く思い出してごらん?君が僕に何を言ったのか。まぁ、僕は僕の願いに一歩近付けたから感謝はしていますよ。……それに」
ダレルは唐島の耳元で何かを囁いた。
その声はこちらまで聞こえない。
ダレルはニッコリ笑みを浮かべると、唐島を置いて歩き去った。
唐島は拳を握り、震わせながら立ちすくむ。
真幸は乗り出そうとしたが、常磐に止められた。
「今飛び込んだって素直には話をしないと思うよ」
コソッと常磐が言った。
「せやかて、俺の奇妙な記憶は迅人が絡んどる可能性がデカイんやで」
コソッと真幸も反論した。
「浅霧の二番目のお兄さんと姫神先輩の事だろう?」
真幸は目を丸くして常磐を見上げた。
この男はどこまで知って居るんだ?と、疑問があるが。
「あんたは覚えとるんか?」
「うーん、ぼんやりね。確か居たよねー、程度だけど」
常磐は顎に手を添えた。
「やっぱり夢やないんやな……」
複雑だが、自分一人じゃないと分かると少し安心する。
「どんな顔とかは思い出せないんだけどさ。記憶がないのは浅霧とお兄さん、神代さんだけなのか。少なくとも唐島は記憶はありそうだな。でも、どうやったんだろーね」
ダレルも魔族かも知れない。
上位魔族なら、こんな状況だって作れると思うが。
唐島が絡んだとして、何故ルシカと楼依なのかは分からない。
唐島の『望み』は、絶対ヨゾラが絡んでるはずで、もしかして手始めにルシカに手を出したなら……。
でも、唐島の『望み』は叶ってはいない様だし。
ルシカが本来の目的ではなくて、解釈の違いだったなら、それはそれで許せない。
「……記憶がないだけなら、家に帰れば二番目兄さんの痕跡はあるかも知れへん」
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