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魔族とハーフ
07
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気が付けば、泉の畔でエルドラの膝に頭を乗せていた。
少しだけ、気持ちが良い。
「気が付いたか」
少し前屈みにヨゾラの顔を覗き込みながら、エルドラが言った。
「……エルドラさん」
「何じゃ」
「同じ奴と夢で出会うって……、夢魔がイタズラしているのかな?」
「イタズラの程度による」
ルシカの話は別に変なイタズラをされているわけではなかった。
どんなシチュエーションかは分からないが、ルシカの表情を見る限りは話を聞いてくれているだけの様な気もした。
「夢の中で、優しい奴に会うんだって。魔族じゃないみたいだけどさ」
ヨゾラはゆっくり上半身を起こした。
「それを……、夢魔に見られたって、だから、……今までも夢魔がイタズラに期待を持たせてたんじゃねぇかって」
「……ふむ」
「でもな、ニンゲンにも居たんだ。夢の中で、ルシ兄に会ってる奴。……ルシ兄かは、分かんねぇけど」
「ルシ兄とは?」
「二番目の兄さん。母さんに顔が似過ぎてさ、怖い目に遭っているから気が弱いんだ」
エルドラは自分の顎に手を添え、考えた。
「魔族の事は良く分からぬ。しかし、ヨゾラは何を考えておるのじゃ?」
「……淫魔でも、無闇に精を摂らない方法。カグ兄が性による空腹がなかったニンゲンが居るって言ってた」
「なるほどの」
「俺と出会ったニンゲンは、本来の性行為は好きと言う感情をお互い持った時にする行為だって。俺には好きが分からねぇ。それが分かれば……」
ヨゾラは悔しげに俯いた。
エルドラの手がヨゾラの頭を撫でた。
「……慈愛の感情を分からぬはずはないのじゃ」
エルドラは眉を下げ、悲しげな表情を浮かべた。
「魔族と言うのは、元は天界の住人。思想の違いから、天界に負けた者達が堕ちて集まり、逆の思想を掲げた輩達なのじゃ。……魔王の祖先もまた然り」
「……」
ヨゾラは見上げてエルドラを見詰める。
「ルシフェルがグレィダに一途じゃったのがその証拠。そして、お前達はそんな母と慈愛の天使との子じゃ。分からぬはずはない」
「カグ兄が、ニンゲンに執着したのもおかしくないのか?ルシ兄が夢の中の雄に安心するのも……」
「当たり前の感情じゃ。お前達にも、兄弟が大事じゃと思う気持ちがあるじゃろう。それと似て居る」
エルドラを見詰めるヨゾラの目が希望に輝いた。
エルドラは安心した様に笑みを浮かべる。
しかし、ヨゾラはハッとする。
「ここに来ればまた下界に行ける?」
「……そうじゃのう。簡単には来れぬが、もし、本気ならばまた私が手助けしてやろう」
「でもそれだとバレた時にエルドラさんが……」
「曾孫に今まで何も出来なかったのじゃ。……私は大丈夫。お前は優しいのう」
エルドラはにっと笑うと、目線をヨゾラに合わせた。
「もう、今日は遅い。兄達も心配するじゃろう。会えて良かったぞ」
エルドラはヨゾラをギュッと抱き締めた。
花の良い匂いがする。
「今度は兄さん達も連れて来るよ」
ヨゾラはエルドラの胸の中で、うとうととし始めた 。
「楽しみに待っておるぞ……」
そう頭の上から聞こえると、ヨゾラは目を閉じた。
目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
グラディエットが体を丸め、ベッドの横の床に寝ている。
(夢だったのか……?)
布団は掛けられてはいなかった。
何故部屋に居るのだろう。
家を飛び出し、城の牢を飛び出し、泉に行ったのは夢だったのだろうか。
天井を見ながらふとズボンのポケットに手を入れた。
何やらくしゃくしゃの紙が入っている。
不信感はあるもののそれを取り出すと、丸まったその紙を広げた。
〈 神崎真幸 090-××××-××××〉
文字らしきものと数字らしきものが羅列している。
しばらく眺めるも、ヨゾラは飛び起きた。
「夢じゃない。俺は、下界に行ったんだ」
目の前にあるメモ紙に、ヨゾラの心が高揚する。
兄達に言ったら怒られるだろうか。
でも、まだ確信もないし、知らない事だらけで直ぐに行動を起こすのは危険だ。
黒髪のニンゲンがルシカの夢と一致していれば、直ぐにでも連れ出したいが。
変に行動すれば老人に勘づかれ、何を強要されるか分かったもんじゃない。
兄達を連れて行くにしても、納得の行く理由をいわないと一緒に行くとは言わないだろう。
説得するには材料が足らなさ過ぎる。
エルドラに逢わせれば少しは話を信じてくれるかもしれない。
しかし、話だけで説得は出来るか。
特にカグヤは下界を知っているだけに、反対するだろう。
ベッドから降りて真幸から貰ったメモ紙を、自分の机の本の間に挟むと、部屋を出た。
良い匂いがする。
リビングらしき部屋に行くと、ルシカが食事を用意していた。
「あ、起きた?ご飯、食べれるか?」
テーブルを見ると、肉料理がある。
何時もより少し豪華だ。
「カグ兄、帰って来るの?」
ヨゾラはそう聞くと、椅子に座った。
「……兄さんは、まだ帰って来れないよ」
小さく笑いながら、ルシカは答えた。
その笑顔に違和感がある。
「ヨゾラは心配してくれてるのに……、ごめんな」
そして、そうポツリと謝った。
「んな事の為に……。別にもう怒ってねぇし」
「肉はまだあるんだ。兄さん帰って来たら、また肉料理にしよう」
飲み物を用意すると、それをヨゾラの前に置いた。
ルシカもヨゾラの前に座る。
のっそりとグラディエットも部屋から出て来た。
ルシカは自分の分の肉を分けて、グラディエットの口に入れた。
「さ、食べようか」
ルシカはニコッと微笑んだ。
「お風呂も沸いてるから、食べたら入れよ?」
そう言うとルシカはスープを一口飲んだ。
「……俺はどうやって部屋に戻ったんだ?」
ヨゾラも肉を頬張る。
「グラディエットが連れて来たんだ。……何か、思い出すね」
「……何を?」
「ヨゾラ、小さい頃はさ良く兄さんに叱られて、いじけて飛び出して、……いつもグラディエットが運んで来るの」
クスッとルシカは笑った。
ヨゾラはムッとした。
まだ、自分は子供扱いか、と溜息を吐くとヨゾラは再び肉を口に入れた。
「でもね、兄さんも探しに行ってたんだよ。俺も行きたいのに、ヨゾラが帰ったら一人になるって留守番させられて。ヨゾラが帰って来ると安心して泣くの」
「……」
「昔から、兄さんに頼りっぱなし。俺は、兄ちゃんも弟も失格」
小さく小さくルシカは呟いた。
「……何かあったのか?」
ヨゾラは心配げに聞いた。
「俺、城に行くよ。……早く淫魔として役に立ちたいし、兄さんも早く戻さねぇとさ」
ルシカは俯きながら答えた。
ヨゾラの手が止まる。
「ヨゾラが一人にならねぇ様に、せめて兄さんと交互に帰って来る様にするから、心配すんな」
「……」
フォークを握るヨゾラは無言になった。
もし、下界に行ける様になって夢の雄に出逢えれば……、でも確率は少ない。
夢魔に見られ、老人にバレている。
気弱なルシカが一人で相手を選ぶとは思わないし、魔王側近が相手を指示するだろう。
「慣れれば何とかなるよ。兄さんみたいにはなれないだろうけど」
「……そっか。ルシ兄が決めたなら」
ヨゾラは再び食べ始めた。
反対したって、ルシカは行ってしまう。
夢の雄の事は、もうどうでも良いのだろうか。
「下界に行ける様になったらさ、探すの?夢の中の雄」
モグモグと口を動かしながら、ヨゾラは聞いた。
一瞬、ルシカの目が見開いた気がした。
「……もう、良いんだ。俺が怖がって居た妄想だろうし」
身体の震えを誤魔化しているつもりなのか、ルシカは自分の左手首を右手で掴んだ。
似た様な雄に襲われたなんて、ヨゾラには言えない。
「もし、下界に居たら?」
「……居ないよ。居る訳がない」
小さくそう答える声も震えている。
夢の中で喧嘩でもしたのだろうか。
「それよりもヨゾラ。何か必要な事とかある?俺が頑張るんだ。少しくらい魔王様にワガママ聞いて貰おうかと思ってるんだ」
取り繕った様な笑顔をルシカはヨゾラに向けた。
「無理すんなよ」
「ヨゾラだって魔王様の甥っ子だろ?なるべく兄さんと交互に帰って来る様にするけど、必ずとは言えないし。だから、……」
ルシカの申し出に、ヨゾラは少し考えた。
下界に行く事は諦めていない。
真幸との約束もある。
なるべくなら、兄達を説得出来る方法を考えたい。
「……城の書庫。歴史とか見れる所に自由に出入りしたい。読書がしたいんだ」
「分かった。頼んでおくよ」
きっとヨゾラの行動は怪しまれるだろう。
誤魔化しても、誤魔化しきれないだろうが、その時はその時だ。
老人に監視もされる。
でも、何かを強要されるより、魔王から許可を貰えれば逆らわないだろう。
それから二人は黙って食事を済ませた。
ヨゾラが風呂に入っている間、ルシカは食事の片付けを終え、ヨゾラが上がるともうルシカは居なかった。
グラディエットも、ルシカの護衛に着いて行ったのだろう。
ヨゾラは自室に戻った。
机に座ると、真幸から貰った紙を取り出しそれを見詰めた。
真幸との会話は楽しかった。
そして、初めて聴いたギターの音色もまた聴きたい。
ニンゲンの文字も覚えたい。
ラーメンと言う食べ物も食べたい。
うるさ過ぎて明る過ぎる場所だったが、知らない事だらけのあの世界観は、ヨゾラに取って刺激が強すぎた。
好奇心も掻き立てる。
エルドラの話も興味が沸いた。
魔族にも慈愛の心があるのだ、と。
しかし、淫魔である事には変わりはない。
それをどうにかしない限りは、誰か一人絞ったとて『堕落』が待っている。
それならば、罪を背負った輩やどうでも良い相手で十分だ。
ルシカの元気のなさも気になる。
考え過ぎて、頭が痛い。
(好きってどう言う感情だろう。好物と違うのかな)
ヨゾラは自分の好物を思い浮かべた。
性行為は好きな奴とする、真幸の言葉も浮かび上がる。
(やっぱり何か違うな……)
好きな感情があったから、ヨゾラ達が産まれた。
しかし、そういう感情がなくても産まれる子は居る訳で。
(……難しい)
ヨゾラは天井を向くと溜息を吐いた。
少しだけ、気持ちが良い。
「気が付いたか」
少し前屈みにヨゾラの顔を覗き込みながら、エルドラが言った。
「……エルドラさん」
「何じゃ」
「同じ奴と夢で出会うって……、夢魔がイタズラしているのかな?」
「イタズラの程度による」
ルシカの話は別に変なイタズラをされているわけではなかった。
どんなシチュエーションかは分からないが、ルシカの表情を見る限りは話を聞いてくれているだけの様な気もした。
「夢の中で、優しい奴に会うんだって。魔族じゃないみたいだけどさ」
ヨゾラはゆっくり上半身を起こした。
「それを……、夢魔に見られたって、だから、……今までも夢魔がイタズラに期待を持たせてたんじゃねぇかって」
「……ふむ」
「でもな、ニンゲンにも居たんだ。夢の中で、ルシ兄に会ってる奴。……ルシ兄かは、分かんねぇけど」
「ルシ兄とは?」
「二番目の兄さん。母さんに顔が似過ぎてさ、怖い目に遭っているから気が弱いんだ」
エルドラは自分の顎に手を添え、考えた。
「魔族の事は良く分からぬ。しかし、ヨゾラは何を考えておるのじゃ?」
「……淫魔でも、無闇に精を摂らない方法。カグ兄が性による空腹がなかったニンゲンが居るって言ってた」
「なるほどの」
「俺と出会ったニンゲンは、本来の性行為は好きと言う感情をお互い持った時にする行為だって。俺には好きが分からねぇ。それが分かれば……」
ヨゾラは悔しげに俯いた。
エルドラの手がヨゾラの頭を撫でた。
「……慈愛の感情を分からぬはずはないのじゃ」
エルドラは眉を下げ、悲しげな表情を浮かべた。
「魔族と言うのは、元は天界の住人。思想の違いから、天界に負けた者達が堕ちて集まり、逆の思想を掲げた輩達なのじゃ。……魔王の祖先もまた然り」
「……」
ヨゾラは見上げてエルドラを見詰める。
「ルシフェルがグレィダに一途じゃったのがその証拠。そして、お前達はそんな母と慈愛の天使との子じゃ。分からぬはずはない」
「カグ兄が、ニンゲンに執着したのもおかしくないのか?ルシ兄が夢の中の雄に安心するのも……」
「当たり前の感情じゃ。お前達にも、兄弟が大事じゃと思う気持ちがあるじゃろう。それと似て居る」
エルドラを見詰めるヨゾラの目が希望に輝いた。
エルドラは安心した様に笑みを浮かべる。
しかし、ヨゾラはハッとする。
「ここに来ればまた下界に行ける?」
「……そうじゃのう。簡単には来れぬが、もし、本気ならばまた私が手助けしてやろう」
「でもそれだとバレた時にエルドラさんが……」
「曾孫に今まで何も出来なかったのじゃ。……私は大丈夫。お前は優しいのう」
エルドラはにっと笑うと、目線をヨゾラに合わせた。
「もう、今日は遅い。兄達も心配するじゃろう。会えて良かったぞ」
エルドラはヨゾラをギュッと抱き締めた。
花の良い匂いがする。
「今度は兄さん達も連れて来るよ」
ヨゾラはエルドラの胸の中で、うとうととし始めた 。
「楽しみに待っておるぞ……」
そう頭の上から聞こえると、ヨゾラは目を閉じた。
目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
グラディエットが体を丸め、ベッドの横の床に寝ている。
(夢だったのか……?)
布団は掛けられてはいなかった。
何故部屋に居るのだろう。
家を飛び出し、城の牢を飛び出し、泉に行ったのは夢だったのだろうか。
天井を見ながらふとズボンのポケットに手を入れた。
何やらくしゃくしゃの紙が入っている。
不信感はあるもののそれを取り出すと、丸まったその紙を広げた。
〈 神崎真幸 090-××××-××××〉
文字らしきものと数字らしきものが羅列している。
しばらく眺めるも、ヨゾラは飛び起きた。
「夢じゃない。俺は、下界に行ったんだ」
目の前にあるメモ紙に、ヨゾラの心が高揚する。
兄達に言ったら怒られるだろうか。
でも、まだ確信もないし、知らない事だらけで直ぐに行動を起こすのは危険だ。
黒髪のニンゲンがルシカの夢と一致していれば、直ぐにでも連れ出したいが。
変に行動すれば老人に勘づかれ、何を強要されるか分かったもんじゃない。
兄達を連れて行くにしても、納得の行く理由をいわないと一緒に行くとは言わないだろう。
説得するには材料が足らなさ過ぎる。
エルドラに逢わせれば少しは話を信じてくれるかもしれない。
しかし、話だけで説得は出来るか。
特にカグヤは下界を知っているだけに、反対するだろう。
ベッドから降りて真幸から貰ったメモ紙を、自分の机の本の間に挟むと、部屋を出た。
良い匂いがする。
リビングらしき部屋に行くと、ルシカが食事を用意していた。
「あ、起きた?ご飯、食べれるか?」
テーブルを見ると、肉料理がある。
何時もより少し豪華だ。
「カグ兄、帰って来るの?」
ヨゾラはそう聞くと、椅子に座った。
「……兄さんは、まだ帰って来れないよ」
小さく笑いながら、ルシカは答えた。
その笑顔に違和感がある。
「ヨゾラは心配してくれてるのに……、ごめんな」
そして、そうポツリと謝った。
「んな事の為に……。別にもう怒ってねぇし」
「肉はまだあるんだ。兄さん帰って来たら、また肉料理にしよう」
飲み物を用意すると、それをヨゾラの前に置いた。
ルシカもヨゾラの前に座る。
のっそりとグラディエットも部屋から出て来た。
ルシカは自分の分の肉を分けて、グラディエットの口に入れた。
「さ、食べようか」
ルシカはニコッと微笑んだ。
「お風呂も沸いてるから、食べたら入れよ?」
そう言うとルシカはスープを一口飲んだ。
「……俺はどうやって部屋に戻ったんだ?」
ヨゾラも肉を頬張る。
「グラディエットが連れて来たんだ。……何か、思い出すね」
「……何を?」
「ヨゾラ、小さい頃はさ良く兄さんに叱られて、いじけて飛び出して、……いつもグラディエットが運んで来るの」
クスッとルシカは笑った。
ヨゾラはムッとした。
まだ、自分は子供扱いか、と溜息を吐くとヨゾラは再び肉を口に入れた。
「でもね、兄さんも探しに行ってたんだよ。俺も行きたいのに、ヨゾラが帰ったら一人になるって留守番させられて。ヨゾラが帰って来ると安心して泣くの」
「……」
「昔から、兄さんに頼りっぱなし。俺は、兄ちゃんも弟も失格」
小さく小さくルシカは呟いた。
「……何かあったのか?」
ヨゾラは心配げに聞いた。
「俺、城に行くよ。……早く淫魔として役に立ちたいし、兄さんも早く戻さねぇとさ」
ルシカは俯きながら答えた。
ヨゾラの手が止まる。
「ヨゾラが一人にならねぇ様に、せめて兄さんと交互に帰って来る様にするから、心配すんな」
「……」
フォークを握るヨゾラは無言になった。
もし、下界に行ける様になって夢の雄に出逢えれば……、でも確率は少ない。
夢魔に見られ、老人にバレている。
気弱なルシカが一人で相手を選ぶとは思わないし、魔王側近が相手を指示するだろう。
「慣れれば何とかなるよ。兄さんみたいにはなれないだろうけど」
「……そっか。ルシ兄が決めたなら」
ヨゾラは再び食べ始めた。
反対したって、ルシカは行ってしまう。
夢の雄の事は、もうどうでも良いのだろうか。
「下界に行ける様になったらさ、探すの?夢の中の雄」
モグモグと口を動かしながら、ヨゾラは聞いた。
一瞬、ルシカの目が見開いた気がした。
「……もう、良いんだ。俺が怖がって居た妄想だろうし」
身体の震えを誤魔化しているつもりなのか、ルシカは自分の左手首を右手で掴んだ。
似た様な雄に襲われたなんて、ヨゾラには言えない。
「もし、下界に居たら?」
「……居ないよ。居る訳がない」
小さくそう答える声も震えている。
夢の中で喧嘩でもしたのだろうか。
「それよりもヨゾラ。何か必要な事とかある?俺が頑張るんだ。少しくらい魔王様にワガママ聞いて貰おうかと思ってるんだ」
取り繕った様な笑顔をルシカはヨゾラに向けた。
「無理すんなよ」
「ヨゾラだって魔王様の甥っ子だろ?なるべく兄さんと交互に帰って来る様にするけど、必ずとは言えないし。だから、……」
ルシカの申し出に、ヨゾラは少し考えた。
下界に行く事は諦めていない。
真幸との約束もある。
なるべくなら、兄達を説得出来る方法を考えたい。
「……城の書庫。歴史とか見れる所に自由に出入りしたい。読書がしたいんだ」
「分かった。頼んでおくよ」
きっとヨゾラの行動は怪しまれるだろう。
誤魔化しても、誤魔化しきれないだろうが、その時はその時だ。
老人に監視もされる。
でも、何かを強要されるより、魔王から許可を貰えれば逆らわないだろう。
それから二人は黙って食事を済ませた。
ヨゾラが風呂に入っている間、ルシカは食事の片付けを終え、ヨゾラが上がるともうルシカは居なかった。
グラディエットも、ルシカの護衛に着いて行ったのだろう。
ヨゾラは自室に戻った。
机に座ると、真幸から貰った紙を取り出しそれを見詰めた。
真幸との会話は楽しかった。
そして、初めて聴いたギターの音色もまた聴きたい。
ニンゲンの文字も覚えたい。
ラーメンと言う食べ物も食べたい。
うるさ過ぎて明る過ぎる場所だったが、知らない事だらけのあの世界観は、ヨゾラに取って刺激が強すぎた。
好奇心も掻き立てる。
エルドラの話も興味が沸いた。
魔族にも慈愛の心があるのだ、と。
しかし、淫魔である事には変わりはない。
それをどうにかしない限りは、誰か一人絞ったとて『堕落』が待っている。
それならば、罪を背負った輩やどうでも良い相手で十分だ。
ルシカの元気のなさも気になる。
考え過ぎて、頭が痛い。
(好きってどう言う感情だろう。好物と違うのかな)
ヨゾラは自分の好物を思い浮かべた。
性行為は好きな奴とする、真幸の言葉も浮かび上がる。
(やっぱり何か違うな……)
好きな感情があったから、ヨゾラ達が産まれた。
しかし、そういう感情がなくても産まれる子は居る訳で。
(……難しい)
ヨゾラは天井を向くと溜息を吐いた。
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