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ニンゲンとルシカ
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『……すみません、兄が……』
広いリビングのソファーの上、楼依の膝の上でルシカは中ハイの缶を片手にふにゃふにゃになっている。
ルシカが酔った勢いで弟のヨゾラに電話したものの、呂律が回らないので仕方なく楼依が代わったのだった。
「いや……、仕方ねぇ……。この前は全く酔わなかったと思ったんだけど」
『もしかしたら、姫神さんに甘えたいのかも……。特にルシ兄は社交的じゃないし、言葉や行動がどうして良いか分からないのかと』
「なんでコイツは引きこもりだったんだ?」
『……ずっと前に、魔王様に呼ばれて城に行って……。ルシ兄は母さんに似てるから、襲われかけたんです。俺が居たからはっ倒して事なきを得たんですけど。それ以来、俺やカグ兄があまり外に出させなくなったから、ルシ兄も心配掛けさせたくねぇってあまり外に出なくなって……』
ヨゾラの話に、楼依はルシカを見る。
ルシカは缶を包む様に両手で持ちながらヘラヘラしていた。
『……姫神さんは、ルシ兄に対して、どう思ってるんですか?』
ふと、ヨゾラが聞いた。
「あー……、ご主人様?」
少し間を置いてそう答えた。
『そー言うのじゃなくて……』
「口で説明して納得出来る程簡単じゃねぇんだよ。……特にあんたら兄弟は」
楼依は一息吐いた。
「折を見てタクシーで帰らせる」
『あ、大丈夫です。出来れば一緒に居てやって下さい』
「俺だって男だぞ」
『でも、兄さんが嫌がる事はしないし、無意識に羽でも広げられたら大変なので』
確かにそうだ。
無理矢理帰らせて、誰かに酔った勢いで合意に持ってお持ち帰りされるのも、タクシーの中で羽やら出されても困る。
「明日俺も大学あるから、午前中には帰す」
『分かりました。ご迷惑をお掛けします。もし、何か変化があれば教えてください』
そう言うと電話を切った。
やっと終わった電話に、ルシカはムッとしてる。
「何故怒る……」
「……長いんらもん」
「お前がちゃんと喋れねぇからだろ、酔っ払い」
「酔ってねーし」
むくれながら、缶チューハイを飲み干す。
空き缶を置いて、新しい缶を取ろうと楼依の膝から手を伸ばす。
届かずにうー、やら、あー、やら呻きながら腕がプルプルするまで伸ばした。
仕方なくルシカの腰に腕を回すと、取れる様に身体を傾けてやった。
空き缶を置いて新しい缶チューハイを取ると、そのまま腰を引き寄せた。
そのまま、楼依の胸元に顔が埋まる。
「……なんれ、らんさんにれんわしたの?」
何で、弾さんに電話したの?ーと、聞いているらしい。
「よく分かんねぇけど左胸がすげぇ痛くなったっつっただろ?だからお前に何かあったんじゃねぇかって何回話せば良い……」
「なんれいたいの?」
「奴隷だからだろ」
「どれーじゃねぇのに……」
ルシカは肩を落としてしゅんとすると、楼依の胸元におデコをくっつけたまま缶を開けた。
「なんれ来てくれなかったの?」
「俺、仕事中だった。あの店まで俺が行っても、間に合わねぇだろ。弾さんがたまたま店に居たのが救いだった。行って助けられれば良かったけど」
「つぎはだくからねー、って、らんさんが言ってた」
「抱かせるか」
楼依の胸元が少し膨れ上がると、ゆっくり萎んで行く。
溜息を吐くのが分かる。
ルシカはちびっとお酒を飲んだ。
「俺ね……、おかしーの」
「んな事今始まった事じゃねぇだろ」
そう言う楼依に、ルシカはムッと顔を上げる。
「まじめに話してんのっ」
「まじめに話すなら酒飲むな。酔っ払い」
楼依はルシカから缶を取り上げた。
宙を舞う缶にルシカは手を伸ばす。
「うー、……イジワルら」
ポスンと再びルシカは楼依の胸元に額を当てる。
「……イジワルすんなよ」
「してねぇよ」
「俺……、……どーしていーか分かんねぇのに」
「何が?」
楼依はルシカの腰を支えると、中ハイの缶をテーブルに置いた。
「お前と居ると、胸がいたい……」
「ふーん……」
「お前がらんさんにれんわしたの、嬉しかった……」
「ふーん……」
「おーらーにない事、させられそうで、怖かった……」
「……」
「れも……、お前も、怖い……」
楼依は眉間に皺を寄せた。
怖がらせている理由が見当たらない。
あまり表情を変えないからだろうか。
「俺……、お前に似た奴に……、襲われた」
「……は?」
「……向こうに居た時、夢魔の嫌がらせって、分かんんら。夢れ、お前と逢うの怖くなって……」
夢の中で泣いていたのはそのせいか、と思った。
「今は違うって思えるけろ、……れも、アイツと同じらったら、怖いし……。胸がいたいのも……、なんれか分からねぇ……」
「痛いって、どんな?」
「ろきろきする……、ずっと、夢から……。撫でられるろ、嬉しくて、もっとろきろきすりゅ……。兄さんと、違う……」
ぎゅっとルシカは楼依の胸元に額を押し付けた。
楼依はそっと、頭を撫でる。
「こぇ、好き……」
ルシカが小さく笑うのが分かった。
「俺と一緒じゃねぇか」
そう言う楼依に、ルシカは見上げた。
「俺だって、どうして良いか分かんねぇ。どうしたら、お前に伝わるんだろうな……」
頭を撫でながら、楼依は呟く。
そして、ルシカの頭を抱き寄せた。
「お前も、ろきろきする?」
「頭ん中、一杯になるくらいは」
「……なんれ、嬉しいんらろ」
それを説明出来たらどんなに楽だろう。
下手に言って誘導してしまうのもフェアじゃない気もする。
今のルシカの感情が一時的なものであっても、自分でちゃんと気付かせたい。
「苦しいか?」
楼依はルシカの背中を撫でる。
ルシカは首を左右に振った。
「モヤモヤすゆ……。いやら……」
ぎゅっと楼依のシャツを握る。
「淫魔なの……、いや……」
「……」
「淫魔らから……、なんも言えない」
「淫魔だから、いろいろ試せば良いだろ?お前にしても、兄貴や弟にしても、どうにかしてぇなら俺を使えば良い。奴隷だし」
「……どれーじゃねぇもん」
「俺の事は気にするな。死んだとしても、とりあえず行き着く先は分かってんだし」
胸元に埋めているルシカを、こちらに向かせる。
水気を帯びた大きな二つの目が、上目遣いで見上げている。
「い、淫魔の唾液は……、媚薬らから……、らめ……」
「俺は今、酔ってるお前に漬け込もうとしてるんだ。……お前も良いんじゃねぇの?まぁ、あまり良くもねぇけど」
「……戻れなくな、……」
顔が近付く。
唇が触れた。
柔らかくて、優しい。
強引ではなく、お互いの気持ちを確かめる様な、触れるだけの口付け。
その唇は、ゆっくりと離れて行った。
「お前は、ひきょーら……」
お酒のせいか恥ずかしいのか、顔を赤くしたルシカはムッと唇を尖らかせた。
「傍に居ろっつったのはお前だ」
「……れも、……弱くなるのいやら」
「あの女とは違う」
「俺……、れきそこないらけろ、……淫魔らもん」
「それを言うなら、俺は奴隷ろーが」
「違うもん。どれーらないもん」
「じゃぁ、俺はお前の何だよ」
じっと、楼依はルシカを見下した。
ルシカはムッとしたまま、しばらく楼依を睨み上げて居たが、再びその胸元に顔を埋めた。
「……どれーらないもん。イジワルら」
楼依はポンポンとルシカの背中を撫でた。
「……悪かった。いじけんなって」
「俺らって、悩んでんら。いやら、このからら……。れも、……ちゃんとしないと、兄さんもヨゾラも。お前も……。ちゃんとれきないの、分かってるけろ……」
ルシカはぎゅっと楼依に抱き着いた。
「自分の気持ちが、先にれちまう……」
「誰もお前を責めねぇよ。文句ある奴が居たら、俺が再起不能にしてやる。魔族だろうが、誰だろうが」
「……ヨゾラみたいら」
ルシカが笑った気がした。
「おかしーの……」
「何時もだろ」
「そーゆー意味らないの」
ムッとしたルシカは、楼依の横腹をつねった。
ビクッと楼依の背中が伸びる。
「痛てぇよ」
「ちゃんと話聞いてくれないからら」
「悪かったって。ちゃんと聞いてやるから。地味に痛てぇ」
ルシカは渋々楼依の横腹から手を離した。
「……俺ね、……お腹が空かないの。淫魔になる前と、……変わらねぇの」
ルシカを撫でていた手が止まる。
「淫魔になってから……、考える暇がなかっら。……気持ちが追い詰められているのかな……」
ポツリポツリと言うルシカに、楼依は動きを止めたまま、黙った。
「やっぱり、何をやってもれきそこないら、俺……」
小さい溜息が聞こえた。
「おい」
ルシカの頭の上から、低い声が降ってくる。
んー?、とルシカは顔を上げた。
「ちょっと我慢しろよ?」
そう楼依が言ったかと思うと、突然唇を塞がれた。
驚きでルシカの目は見開き、身体が硬直する。
油断して力の入っていない口内に、楼依の舌が入って来た。
「ら、らめらっ、んっ」
楼依の手がルシカの項に伸びる。
ルシカの唾液を絡め取るかの様に、楼依の舌がルシカの口内を這った。
歯列をなぞり、下顎、頬の裏、上顎。
逃げるルシカの舌を捉えると、根元から絡めて行く。
強引で、優しくて、甘い。
「……ん、はぁっ」
アルコールのせいか頭も回らず、頭がふわふわし始めた。
楼依にしがみつく様に、ぎゅっとシャツを握り締める。
(ダメなのに……、気持ちイイ)
自分でも求めてしまう。
こんなに優しくて甘い口付けは知らない。
自らも、楼依の舌を追ってしまう。
息も胸も苦しくて、頭が空っぽになってしまう。
ゆっくりと舌が離れて行く。
唇が顔が離れる。
顔も身体も熱く、半開きの口許から少し乱れた息でさえ熱を持っているのが分かった。
「……俺は何ともねぇぞ」
「ふぇ?」
蕩ける眼差しは、まだ現状を理解していないようだ。
「あの女の時みたいに、変な感覚がねぇ。だから、大丈夫じゃねぇの」
ルシカはぽけっと見上げたままだが、働かない頭を一生懸命回した。
そして、現状を把握出来たのか、ルシカの顔が真っ赤な茹でタコの様になると、クラっと身体が左右に揺れた。
再び回らなくなった頭がパンク仕掛けた時に、ルシカは無意識にテーブルの上の飲み掛けの中ハイを取り一気に飲み干した。
「ヤケを起こすなって」
楼依は再びルシカから中ハイを取り上げた。
「俺がここまでしたんだ。酒のせいで覚えてねぇとか困るだろ」
そう言うも取り上げた缶はもう空だ。
「もう、うだうだ言わねぇで腹くくれ」
ルシカは顔を赤くしたまま、恥ずかしげに俯いた。
「……本当に、良いのかよ、俺で……。お前に何かあったら……、俺……」
「俺に何かあった時は堕ちる時だろ?堕ちるだけで、そこは何も変わんねぇ」
「お前が堕ちる時は、……一緒だし。淫魔でも、……変われるなら」
ルシカはそう言いながら、バサッと羽を広げると楼依の胸に倒れ込んだ。
「お……、おぃ……」
楼依は慌ててルシカの肩を掴んだ。
ルシカから、寝息が聞こえた。
「飲み過ぎだ、バーカ」
安心した様に呟くと、楼依は一息吐いた。
そして、シャツを割いて生えた羽にどうしようか、と考えた。
広いリビングのソファーの上、楼依の膝の上でルシカは中ハイの缶を片手にふにゃふにゃになっている。
ルシカが酔った勢いで弟のヨゾラに電話したものの、呂律が回らないので仕方なく楼依が代わったのだった。
「いや……、仕方ねぇ……。この前は全く酔わなかったと思ったんだけど」
『もしかしたら、姫神さんに甘えたいのかも……。特にルシ兄は社交的じゃないし、言葉や行動がどうして良いか分からないのかと』
「なんでコイツは引きこもりだったんだ?」
『……ずっと前に、魔王様に呼ばれて城に行って……。ルシ兄は母さんに似てるから、襲われかけたんです。俺が居たからはっ倒して事なきを得たんですけど。それ以来、俺やカグ兄があまり外に出させなくなったから、ルシ兄も心配掛けさせたくねぇってあまり外に出なくなって……』
ヨゾラの話に、楼依はルシカを見る。
ルシカは缶を包む様に両手で持ちながらヘラヘラしていた。
『……姫神さんは、ルシ兄に対して、どう思ってるんですか?』
ふと、ヨゾラが聞いた。
「あー……、ご主人様?」
少し間を置いてそう答えた。
『そー言うのじゃなくて……』
「口で説明して納得出来る程簡単じゃねぇんだよ。……特にあんたら兄弟は」
楼依は一息吐いた。
「折を見てタクシーで帰らせる」
『あ、大丈夫です。出来れば一緒に居てやって下さい』
「俺だって男だぞ」
『でも、兄さんが嫌がる事はしないし、無意識に羽でも広げられたら大変なので』
確かにそうだ。
無理矢理帰らせて、誰かに酔った勢いで合意に持ってお持ち帰りされるのも、タクシーの中で羽やら出されても困る。
「明日俺も大学あるから、午前中には帰す」
『分かりました。ご迷惑をお掛けします。もし、何か変化があれば教えてください』
そう言うと電話を切った。
やっと終わった電話に、ルシカはムッとしてる。
「何故怒る……」
「……長いんらもん」
「お前がちゃんと喋れねぇからだろ、酔っ払い」
「酔ってねーし」
むくれながら、缶チューハイを飲み干す。
空き缶を置いて、新しい缶を取ろうと楼依の膝から手を伸ばす。
届かずにうー、やら、あー、やら呻きながら腕がプルプルするまで伸ばした。
仕方なくルシカの腰に腕を回すと、取れる様に身体を傾けてやった。
空き缶を置いて新しい缶チューハイを取ると、そのまま腰を引き寄せた。
そのまま、楼依の胸元に顔が埋まる。
「……なんれ、らんさんにれんわしたの?」
何で、弾さんに電話したの?ーと、聞いているらしい。
「よく分かんねぇけど左胸がすげぇ痛くなったっつっただろ?だからお前に何かあったんじゃねぇかって何回話せば良い……」
「なんれいたいの?」
「奴隷だからだろ」
「どれーじゃねぇのに……」
ルシカは肩を落としてしゅんとすると、楼依の胸元におデコをくっつけたまま缶を開けた。
「なんれ来てくれなかったの?」
「俺、仕事中だった。あの店まで俺が行っても、間に合わねぇだろ。弾さんがたまたま店に居たのが救いだった。行って助けられれば良かったけど」
「つぎはだくからねー、って、らんさんが言ってた」
「抱かせるか」
楼依の胸元が少し膨れ上がると、ゆっくり萎んで行く。
溜息を吐くのが分かる。
ルシカはちびっとお酒を飲んだ。
「俺ね……、おかしーの」
「んな事今始まった事じゃねぇだろ」
そう言う楼依に、ルシカはムッと顔を上げる。
「まじめに話してんのっ」
「まじめに話すなら酒飲むな。酔っ払い」
楼依はルシカから缶を取り上げた。
宙を舞う缶にルシカは手を伸ばす。
「うー、……イジワルら」
ポスンと再びルシカは楼依の胸元に額を当てる。
「……イジワルすんなよ」
「してねぇよ」
「俺……、……どーしていーか分かんねぇのに」
「何が?」
楼依はルシカの腰を支えると、中ハイの缶をテーブルに置いた。
「お前と居ると、胸がいたい……」
「ふーん……」
「お前がらんさんにれんわしたの、嬉しかった……」
「ふーん……」
「おーらーにない事、させられそうで、怖かった……」
「……」
「れも……、お前も、怖い……」
楼依は眉間に皺を寄せた。
怖がらせている理由が見当たらない。
あまり表情を変えないからだろうか。
「俺……、お前に似た奴に……、襲われた」
「……は?」
「……向こうに居た時、夢魔の嫌がらせって、分かんんら。夢れ、お前と逢うの怖くなって……」
夢の中で泣いていたのはそのせいか、と思った。
「今は違うって思えるけろ、……れも、アイツと同じらったら、怖いし……。胸がいたいのも……、なんれか分からねぇ……」
「痛いって、どんな?」
「ろきろきする……、ずっと、夢から……。撫でられるろ、嬉しくて、もっとろきろきすりゅ……。兄さんと、違う……」
ぎゅっとルシカは楼依の胸元に額を押し付けた。
楼依はそっと、頭を撫でる。
「こぇ、好き……」
ルシカが小さく笑うのが分かった。
「俺と一緒じゃねぇか」
そう言う楼依に、ルシカは見上げた。
「俺だって、どうして良いか分かんねぇ。どうしたら、お前に伝わるんだろうな……」
頭を撫でながら、楼依は呟く。
そして、ルシカの頭を抱き寄せた。
「お前も、ろきろきする?」
「頭ん中、一杯になるくらいは」
「……なんれ、嬉しいんらろ」
それを説明出来たらどんなに楽だろう。
下手に言って誘導してしまうのもフェアじゃない気もする。
今のルシカの感情が一時的なものであっても、自分でちゃんと気付かせたい。
「苦しいか?」
楼依はルシカの背中を撫でる。
ルシカは首を左右に振った。
「モヤモヤすゆ……。いやら……」
ぎゅっと楼依のシャツを握る。
「淫魔なの……、いや……」
「……」
「淫魔らから……、なんも言えない」
「淫魔だから、いろいろ試せば良いだろ?お前にしても、兄貴や弟にしても、どうにかしてぇなら俺を使えば良い。奴隷だし」
「……どれーじゃねぇもん」
「俺の事は気にするな。死んだとしても、とりあえず行き着く先は分かってんだし」
胸元に埋めているルシカを、こちらに向かせる。
水気を帯びた大きな二つの目が、上目遣いで見上げている。
「い、淫魔の唾液は……、媚薬らから……、らめ……」
「俺は今、酔ってるお前に漬け込もうとしてるんだ。……お前も良いんじゃねぇの?まぁ、あまり良くもねぇけど」
「……戻れなくな、……」
顔が近付く。
唇が触れた。
柔らかくて、優しい。
強引ではなく、お互いの気持ちを確かめる様な、触れるだけの口付け。
その唇は、ゆっくりと離れて行った。
「お前は、ひきょーら……」
お酒のせいか恥ずかしいのか、顔を赤くしたルシカはムッと唇を尖らかせた。
「傍に居ろっつったのはお前だ」
「……れも、……弱くなるのいやら」
「あの女とは違う」
「俺……、れきそこないらけろ、……淫魔らもん」
「それを言うなら、俺は奴隷ろーが」
「違うもん。どれーらないもん」
「じゃぁ、俺はお前の何だよ」
じっと、楼依はルシカを見下した。
ルシカはムッとしたまま、しばらく楼依を睨み上げて居たが、再びその胸元に顔を埋めた。
「……どれーらないもん。イジワルら」
楼依はポンポンとルシカの背中を撫でた。
「……悪かった。いじけんなって」
「俺らって、悩んでんら。いやら、このからら……。れも、……ちゃんとしないと、兄さんもヨゾラも。お前も……。ちゃんとれきないの、分かってるけろ……」
ルシカはぎゅっと楼依に抱き着いた。
「自分の気持ちが、先にれちまう……」
「誰もお前を責めねぇよ。文句ある奴が居たら、俺が再起不能にしてやる。魔族だろうが、誰だろうが」
「……ヨゾラみたいら」
ルシカが笑った気がした。
「おかしーの……」
「何時もだろ」
「そーゆー意味らないの」
ムッとしたルシカは、楼依の横腹をつねった。
ビクッと楼依の背中が伸びる。
「痛てぇよ」
「ちゃんと話聞いてくれないからら」
「悪かったって。ちゃんと聞いてやるから。地味に痛てぇ」
ルシカは渋々楼依の横腹から手を離した。
「……俺ね、……お腹が空かないの。淫魔になる前と、……変わらねぇの」
ルシカを撫でていた手が止まる。
「淫魔になってから……、考える暇がなかっら。……気持ちが追い詰められているのかな……」
ポツリポツリと言うルシカに、楼依は動きを止めたまま、黙った。
「やっぱり、何をやってもれきそこないら、俺……」
小さい溜息が聞こえた。
「おい」
ルシカの頭の上から、低い声が降ってくる。
んー?、とルシカは顔を上げた。
「ちょっと我慢しろよ?」
そう楼依が言ったかと思うと、突然唇を塞がれた。
驚きでルシカの目は見開き、身体が硬直する。
油断して力の入っていない口内に、楼依の舌が入って来た。
「ら、らめらっ、んっ」
楼依の手がルシカの項に伸びる。
ルシカの唾液を絡め取るかの様に、楼依の舌がルシカの口内を這った。
歯列をなぞり、下顎、頬の裏、上顎。
逃げるルシカの舌を捉えると、根元から絡めて行く。
強引で、優しくて、甘い。
「……ん、はぁっ」
アルコールのせいか頭も回らず、頭がふわふわし始めた。
楼依にしがみつく様に、ぎゅっとシャツを握り締める。
(ダメなのに……、気持ちイイ)
自分でも求めてしまう。
こんなに優しくて甘い口付けは知らない。
自らも、楼依の舌を追ってしまう。
息も胸も苦しくて、頭が空っぽになってしまう。
ゆっくりと舌が離れて行く。
唇が顔が離れる。
顔も身体も熱く、半開きの口許から少し乱れた息でさえ熱を持っているのが分かった。
「……俺は何ともねぇぞ」
「ふぇ?」
蕩ける眼差しは、まだ現状を理解していないようだ。
「あの女の時みたいに、変な感覚がねぇ。だから、大丈夫じゃねぇの」
ルシカはぽけっと見上げたままだが、働かない頭を一生懸命回した。
そして、現状を把握出来たのか、ルシカの顔が真っ赤な茹でタコの様になると、クラっと身体が左右に揺れた。
再び回らなくなった頭がパンク仕掛けた時に、ルシカは無意識にテーブルの上の飲み掛けの中ハイを取り一気に飲み干した。
「ヤケを起こすなって」
楼依は再びルシカから中ハイを取り上げた。
「俺がここまでしたんだ。酒のせいで覚えてねぇとか困るだろ」
そう言うも取り上げた缶はもう空だ。
「もう、うだうだ言わねぇで腹くくれ」
ルシカは顔を赤くしたまま、恥ずかしげに俯いた。
「……本当に、良いのかよ、俺で……。お前に何かあったら……、俺……」
「俺に何かあった時は堕ちる時だろ?堕ちるだけで、そこは何も変わんねぇ」
「お前が堕ちる時は、……一緒だし。淫魔でも、……変われるなら」
ルシカはそう言いながら、バサッと羽を広げると楼依の胸に倒れ込んだ。
「お……、おぃ……」
楼依は慌ててルシカの肩を掴んだ。
ルシカから、寝息が聞こえた。
「飲み過ぎだ、バーカ」
安心した様に呟くと、楼依は一息吐いた。
そして、シャツを割いて生えた羽にどうしようか、と考えた。
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