堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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  帰宅ラッシュになるちょっと前の時間帯。
  真幸は飲み屋街裏口付近のビルの階段に、腰を降ろして行き交う人々を眺めていた。
  ヨゾラ宅を飛び出た物の、どうしようか悩んでいる。
  姉はあの日以来、アパートを解約したがなにぶん会社の独身寮に入った為、姉を頼れない。
  バイト先の居酒屋夫婦に話をしても良かったが、迷惑は掛けたくない。
  かと言って、ネットカフェやホテルなど未成年が宿泊出来る訳でもないだろう。
  
(公園で野宿やな)
 
  真幸は一息着くと、立ち上がって鞄を肩に掛け直した。
  一本、前に踏み出した時だった。

「真幸」 

  その声に、真幸は顔を上げた。
  そして、声の主を見るとうんざりとした表情を浮かべた。

「……」

  真幸は顔を逸らすと、無言でその場を去ろうとした。

「浅霧の家、出たんだね」

  横並びに歩いて来た人物は、唐島だった。

「なぁ、それなら家に来いよ。……挽回くらいさせてくれても」
「……」

  真幸は無言で歩いた。

「……真幸」

  唐島は真幸の荷物を持ってやろうと手を伸ばした。

「触るなや」

  そう真幸は言うと、唐島の手を払い除けた。 
  唐島は払われた手を見詰めた。
  
「……何で、浅霧なんだよ」

  声を震わせて呟く唐島に、真幸は足を止めた。
  
「……お前みたいに下心がないからや」

  一息着くと、真幸はそう答えた。

「そんな事、分からないじゃん」

  ヨゾラの事だ、下心自体が分からない確率の方が高い。
  かと言って、自分や他の友達に対するヨゾラの好意は恋愛では無いのも分かっている。
  今は誰かに対して何かをするのは、自分が嫌かどうかの判断のみだと思う。
  それでも。
 
「ない」

  真幸はそう言い切った。
  ゆっくりと歩き出す。

「……何で浅霧を庇うんだよ」

  後ろからトボトボと着いて来る唐島は、ポツリと呟いた。

「別に庇っとらへん。ただ、ヨゾラは俺が居らんと生きて行けへんだけやそうや」
「……何それ。自覚がないだけじゃん」
「俺と関わる奴、誰もが自分と同じや思うなや」

  どうにかして唐島を巻かないと、ずっと着いて来そうだ。
  いっそうの事、唐島の家に行って嫌なくらいこき使ってやれば、諦めるだろうか。
  それでも、余計に調子に乗るかも知れない。
  調子に乗らせとけば、ヨゾラに危害は加えないだろうが、そうなればヨゾラは落ち込むだろうか。
  考えがまとまらない。

「とりあえず、俺の事はほたっとけや」

  少し、足早に歩くも、慣れない松葉杖だと思う様なスピードにはならない。
  意地を張り続けて周りから変な目で見られるかと思うと、大人しく捕まるべきか、と一瞬頭を過った。

「お、関西君」

  コンビニを横切ろうとすると、呼ばれて腕を捕まれた。

「何だ、喧嘩して家出か?」

  見上げた先に、楼依がいた。
  両手に高級なブランドっぽい名前の紙袋をぶら下げていた。

「喧嘩やない」

  真幸はふぃっとそっぽを向いた。

「ちょっと楼依君、いきなり居なくなるなよ」

  コンビニの二つ隣から女が出てくると、楼依の腕を掴んだ。

「コンビニに行っとくっつっただろ」
「……兄さん、恋人居るんに浮気かぃ」

  真幸は眉間に皺を寄せて楼依を見た。
  楼依は溜息を吐き、女はケラケラ笑い始めた。

「……妹、双子の」

  間を置いて楼依が答えた。

「瑠依でーす。目元、そっくりだろ?」

  笑いながら、瑠依が自分の目元を指さした。
  よくよく見れば、目元がそっくりだ。

「……神崎真幸です」

  ポツリと真幸が呟いた。
  楼依はチラッと数歩後ろの唐島を見た。 

「……瑠依、コイツ連れて先に車行っといてくんね?」
「……は?」
 
  真幸は眉間に皺を寄せた。

「訳あり?」
「……ルシカの弟君の同級生」
「ルシカちゃんに関わりがあるなら仕方ない。ほら、行くよ」

  瑠依は楼依から車の鍵を受け取ると、真幸の方を見た。 

「あー、嫌ちょっと……」

  真幸は躊躇った。

「喧嘩したんだろうが」
「しとらへんて……」
「家出のくせに家出したんだろうが」
「……そやけど」
「それとも何か、後ろのヤツに世話になるのか?」

  楼依はそう言いながら、唐島に視線を戻した。
  唐島は下を向いて居る。

「そんなつもりはあらへんけんど。……迅人の気ぃ済むならしゃーないんかな、っちゅう思いがあるようなないような……」
「……それなら止めても仕方ねぇな。お前がそうしてぇなら口は出す気もねぇけど。テメェは脚が動けねぇだろ」
「……どないすればえぇんか、考えつかへん」

  そうか、と楼依は呟く。

「だったら家に来い。……ちったぁ頭も冷えるだろ」
「そないしたら、兄さんに悪いやんか」
「ルシカが変に心配するよりマシだ」

  楼依は真幸の鞄を掴むと、それを半ば強引に取り上げた。
  そして、瑠依にそれを渡す。

「話ならあたしが聞いてあげる」

  真幸の鞄を受け取りながら、瑠依は目を輝かせた。
  真幸は一瞬顔を曇らせる。

「じゃ、行こうか」

  瑠依は駐車場を指さした。
  真幸はチラッと唐島を見るが、唐島は下を向いたままだ。
  真幸は溜息を吐いた。

「……姫神兄さん。……俺、迅人んとこ行くわ」
「末っ子君と一緒に居ねぇと脚治らねぇだろうが」
「そうかもしれへんけど。せやかて、このままやったらヨゾラに嫌がらせが続くやろし」
「術を掛けたのが爺さんなら、解き方を知ってんのも爺さんかもな。末っ子君の事だ、ヤケを起こさなきゃ良いけど」

  そこは何となく分かっている。
  不安もあるし、老人に聞くのが手っ取り早いが、それには老人の条件を飲む必要がある。

「……お前は何にイラついたか、……良く考えろ」

  楼依は瑠依から真幸の荷物を取り上げると、再び真幸に返した。
  瑠依はつまらなさそうに口を尖らかせた。
  そして、楼依は唐島に目を向けた。

「どこまで世話すんか知らねぇけど、ルシカには心配掛けさせんな」

  楼依はそう唐島に言った。

「……世話ってどこまでする気か分かんねぇけど、脚怪我してるのをいい事に良い様にされなきゃいーけどね」

  瑠依も一言そう言うと、楼依の腕を掴んで行こうと促した。
  真幸は二人を見送ると、唐島を見た。

「お前んとこに行けば満足なんやろ?」
「……真幸」
「姫神兄さんに迷惑掛けた無いだけや。……勘違いすんな」

  冷たく言い放つも、唐島はそれでも笑顔を見せた。
  小走りに真幸に近付く。

「……それでも、俺を選んでくれて嬉しいよ」

  そう言いながら、真幸の荷物に手を伸ばした。

「……余計な事せんでも自分でこんくらい持てるわ」

  教科書は宿題がある時以外は置き勉だし、急に飛び出したから最低限の着替えだけの荷物だ。
  松葉杖を着いては居るが、何とか自分で持てる。
  真幸は歩き出した。
  唐島が横並びに歩く。

「言うとくが、俺はヨゾラの世話になる気はなかった。せやから、お前の世話になるんは寝泊まりだけや」
「……うちでくらい遠慮しなくても。学校じゃ絡まないからさ」

  真幸が家に来るだけでも満足なのだろうか。
  これで少しはヨゾラに変に絡まなくなれば良い。
  常磐の事はどうであれ、とりあえず前の生活に戻るだけだ。
  姉に相談して住む場所を確保して、荷物をこっそり持って行けば良いだけ。
  いっそう学校を辞めてしまおうか。
  そこまで考えてしまう。
  ヨゾラの事は心配はある。
  常磐だって、単にからかっているだけだと思いたい。

「……浅霧とは、……本当に何にもない?」

  少し後ろを歩く唐島が、ボソッと聞いた。
  
「……俺は諦め切れないよ」

  真幸は黙った。
  唐島とはどうしても今以上になれない。
  自分が誰かを好きになったら、唐島はどうするだろう。
  殺人でも犯すかもしれない。
  偽りで付き合って、満足なのだろうか。
  
「浅霧が、……常磐先輩を選べば良いのに」

  その唐島の言葉に真幸が立ち止まった。
  キスを要望された時、ヨゾラが選んだのは真幸だった。
  ヨゾラ自身、意味が分かる分からないは別として、ほとんど躊躇いがなかった、気がする。
  少なくとも、真幸も自分を選んだ事にはほっとした。
  ヨゾラが常磐を選ぶ事はない、気がする。
  気がするだけで、何とも中途半端だが。
  ヨゾラに何もさせたくないのと、唐島に何もさせたくないのは同じだろうか。
  
「真幸?」

  唐島も立ち止まっていた。
  そもそも、ヨゾラ自身が感情を理解していない。
  常磐が本気でヨゾラをモノにしたいかは分からない。
  このまま常磐みたいな輩に付き纏われて良いのだろうか。
  しかし、友達として仲良くなったとして、そこから恋愛が始まるかも知れない。
  セックスを最後までした訳では無いが、近い事はした訳だし。 
  仮にヨゾラが常磐とつるんだら、良からぬ方向へ行くのでは無いか。 

「……」

  真幸は頭を搔く。
  
「……ぐちゃぐちゃ考えるんはあかんか」

  そう呟くと、溜息を吐いた。
  今、真幸はどうするべきか。
  
「ほら、早く行こうよ。真幸だって疲れているだろう?」

  もしかしたら、心移りしてしまうかもしれない、と唐島は真幸を急かした。
  今、真幸を逃す訳にも行かない。
  真幸は無言になると、ゆっくり歩き出した。
  その日は唐島も警戒したのか、真幸に手を出す事はなかった。
  相槌をされるだけの会話をして、寝る時は真幸は寝袋でがっちりガードした。
  ベッドではなく、床で。
  朝は別は別に登校し、その日ヨゾラが学校を休んだのを聞いたのは、昼休みに常磐からだった。
  休んだ理由は聞いていない。
  チラッとヨゾラの教室を覗くも、確かに居なかった。  

  


    
  


  
  
  

    

     

  


  
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