堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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淫魔と感情

07

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  辺りを見渡せば真っ暗だ。
  真っ暗な闇の中、真幸は座っている。

(……夢やんな)

  夜中に目が覚める事があるとは言え、いくらなんでも真っ暗過ぎる。
  なので、真幸はそう判断した。

「どーせ、爺さんか誰かがしよる事やろ」

  そう、声に出した。

『さすが、冷静ですな』

  暗闇の置くから、杖を着いた老人が不気味な笑みを浮かべ歩いて来た。

「こない悪趣味な事するん、あんたらしかおらんやろ」 
『私は感謝をお伝えに来たのですよ』
「感謝言われる筋合いはあらへんけど、ありがたい思うなら早よ脚を返せや」
『残念ながら、その願いは叶えられませぬ』
「お前をどつき回したらえぇんか?」
『はてさて、人間とは実に野蛮な……』

  老人は長い鷲鼻を揺らしながら首を左右に振った。

「脚治さへんならとっとと帰れや。あんたの相手するんなら寝とった方がマシや」

  真幸はしっしと手を振った。

『ヨゾラ様を突き放して頂き、真にありがとうございます』

  老人はよこいしょと、真幸の横に腰を降ろした。
  そして、勝手に喋り出す。

『カグヤ様もあの雄にお気持ちが傾きつつありますが、……貴方様がヨゾラ様を突き放して下さいましたので、お二人がお戻りになられるのは時間の問題かと……』

  真幸は黙って居るが、眉間に皺を寄せた。

『ルシカ様は……、あの奴隷が邪魔ですが。しかしながら、ヨゾラ様のみおひとり様。信頼していた貴方様に捨てられたとあれば、カグヤ様も黙ってはおりますまい』
「ヨゾラの相手は俺やないで、残念やけど」
『そうでございましたか。ヨゾラ様は貴方様を大変気に入って居られるご様子。……てっきり』
「あんたかて、執着し過ぎやろ。ジィさんが無理するもんやないで」

  そう言う真幸に、老人は不気味に笑みを浮かべた。

『貴方様もお気づきではございませぬか』
「……何がや」
『あの三兄弟の中で、一番天界の血が濃く入って居る事を』

  真幸は目を見開いた。
  千皇の部屋に結界を張った時に、ヨゾラの羽の色が黒ではなかった。
  見えたオーラも、カグヤとルシカとは違う。
  貰った羽も、黒かった筈なのに白っぽく変わって居た。

『あのままご成長なされば、天使に近い魔族となりましょう。その様な気高い血筋を最初に汚したいではございませぬか』
「……アホな事」
『それにこの容姿が気に入らぬのであれば……、この様に……』

  そう言う老人の姿が、みるみる若い姿に変わった。
  皺で覆われた皮膚も張りのある褐色の肌に変わり、垂れていた鷲鼻もすっと小さく高めになり、白髪の髪の毛も艶のある黒髪に変わった。

『容姿を変えるなど簡単な事。……それに、いささか気分は良くありませぬが』

  今度は若い青年から、見覚えのある人物へと姿を変えた。
  そして、喉を抑えてあー、あー、と発声練習をする。
  その声にも覚えがある。

『……こないな感じやな』

  真幸の横に居るのは、真幸だった。

「ふざけるんも大概にせぇよ……?」
『これなら、ヨゾラ様も油断なされるやろう。……しかし、ニンゲンの姿など私が汚れてしまいます』

  笑いながら老人は何時もの姿に戻した。

「そんなん無意味な事して楽しいんか?」
『言ったではありませんか。気高い血筋を汚したい、と。カグヤ様やルシカ様は魔族に近い血筋。もちろん、魔族のお力を使ったのもございますが……。魔王様はヨゾラ様に興味はございませぬ故……』
「たったそげなん事でヨゾラを……」

  真幸は拳を握り締めた。
 
『想像して下され。羞恥でほんのり桃色に変わるあの白い肌を。熱を帯び潤んだ紅い瞳に、甘い吐息を。未開発な狭き穴を掻き回した時に揺れる細い腰……。汚れを知らない色の薄いペニスは可愛らしく、イヤラシイでしょうな……』

  老人はいやらしく舌舐りをする。

『カグヤ様もルシカ様も味見は致しましたが、何分初モノでは無かったもので』
「せやかて、アイツは今家から出られへん。ワンコも曾婆ちゃんも居るからな。それに、毎日暇な先輩が彷徨いとる。俺を挑発するやないで、ソイツを挑発せぇや」

  真幸は拳を下ろすと、ゴロンと床に寝そべり老人に背を向けた。

『全く、ニンゲンとは自分の欲に素直にならぬものですな。乱れたヨゾラ様を想像なさって……』
「勝手に言うとれ」
『ヨゾラ様から離れて下さったお礼は勝手ながらさせて頂きますゆえ、喜んで受け取って下され……』

  真幸の背後から、小さくカツンと音がすると、人の気配が消えた。

(……こないな挑発に素直になんなや)

  真っ暗な空間の中、横になった身体を両膝を揃えて丸めた。
  
(夢で良かったわ……。……こんな、……こん、……な?)

  真幸は下半身に違和感を覚えた。
  ここは夢の中。
  真幸しか居ない筈なのに。

(こ、これ……、っ)

  息が上がる。

(起きっ……。起き……、っ!)

「起きんかぃっ!!俺ぇっ!!」

  叫び声が響く。
  目の前は薄暗い闇。
  しかし、布団の感触がある。
  真幸の叫び声に、ビクッと下半身に伝わる感触。
  真幸は掛け布団を引き剥がした。
  暗闇に目が慣れると、自分の股の間に居る唐島が居るのが、何となく分かる。
  下着とスエットを少しだけずり下ろし、真幸のペニスを握って居る唐島と目が合った。

「な、……何しとんねん」

  真幸は静かに聞いた。
  唐島は何も答えず、真幸のペニスを口に入れた。

「ちょっ!止めっ!!」

  真幸は唐島の頭を掴んだ。
  
「止めんかっ!アホっ!!」

   何とか引き剥がした。
   真幸は腰を引いて、慌てて布団で下半身を隠した。

「何寝込みなんか襲うねん……」

  真幸は頭を抱えた。

「勃ってたから抜こうとしただけだよ……」

  唐島は座り直すと、小さくそう呟いた。
  夢の中で、老人が語るヨゾラの妄想が真幸をそうさせたと理解すると、小さく舌打ちをする。

「御手洗が電話なんてしなかったら、……してただろうし」
  
  確かに、その時はそうすれば唐島も落ち着くとは思った。

「俺が真幸と関係を持てば、……浅霧は真幸を今見たいに気にしなくなるかも知れないしさ」
「……ヨゾラは俺なんか気にしてへん。あれ以来連絡も来てへんわ」
「でも、真幸はずっと気にしてる」
「俺はお前の彼氏でもないんやで」
「でも、そう言う関係にはなれるだろう?俺は浅霧程上手じゃないだろうけど……」

  唐島は真幸の布団を握った。

「真幸は何もしないで良いから。俺がするし……」

  そこまで自分と関係を持ちたいのかと思うと、若干呆れる。
  でも、唐島の気が済めば、ヨゾラに敵意を向ける事も無くなるだろうか。
  自分が散々好きな相手としろ、なんて言っときながら、自分はどうでも良い相手としたなんて、余計にヨゾラに顔向けできない。
  そう思ったら、何だか馬鹿らしく思えて来た。
  全てが滑稽に思えて、笑ってしまう。
  自分が誰を相手にしようとも、ヨゾラには関係ないし、それを真幸が気にする必要もない。
  真幸は頭を抱えて笑いながら下を向くと、大きく一息着いた。
  自分の答えは何となく分かって居る。
  それでも周りが言う様に、それがヨゾラに対して恋愛感情なのか、それともそれをまだ認めたくないのか、存在的には大事だが常磐にしろ老人にしろ相手になって欲しくないのはヨゾラにそう言う感情がないからと言う自分への言い聞かせなのだろうか。
  何も知らないヨゾラが、誤った道を行かないようにするのは、親切心かそれとも。
  
「なぁ、……浅霧だって思っても良いって、言ったじゃん……」

  布団に縋る唐島の顔が、暗闇なせいか一瞬ヨゾラに見えた。
  真幸の身体が強ばった。
  
「……真幸ぃ」

  物欲しげに見上げる表情は唐島だ。
  なのに、ヨゾラがチラつく。
  さっきの夢で、お礼を送ったと老人が言っていた。
  変な術にでも掛けられたなら、真幸か唐島か……。
  どちらにしても、目の前に居るのは唐島であってヨゾラじゃない。
  そんな事は分かっている筈なのに。
  真幸は、唐島に手を伸ばした。
  
(……俺は、ヨゾラとこう言う事をしたいんやろか……)

  唐島の頬に手を当てると、唐島はそっと真幸の手の平に頬を擦り寄せた。

(……勃ってまうあたり、……そうなんやろな)

  ヨゾラに見える唐島だと分かって居て、こんなに簡単に受け入れてしまいそうな自分に笑える。
  真幸がそうであっても、ヨゾラはそうでは無い。
  真幸の指先が唐島の唇に触れた。
  少し潤いのある唇。

(楽になる、……俺もコイツも)

  そう思いながら、真幸は唐島を引き寄せた。
  顔を見てしまうと、ヨゾラに見える。
  自分の肩に唐島の頭を抱き寄せた。
  服越しに、唐島の背中を撫でると、ぴくっと腰が浮いた。
  ヨゾラよりはガッチリとした背中。 
  腰周りも引き締まっては居ても、真幸の腰幅と変わりは無い。

「……準備してあるんだ。……そのままでも、大丈夫……」

  真幸の首に片腕を回しながら、唐島は耳元で囁いた。
  自分のスエットのポケットから、コンドームを一つ取り出すと、真幸に握らせた。

「本当は、生が良いんだけど」

  と、言いながら唐島は自分のスエットを脱いだ。
  握られたコンドームに戸惑う。

(俺、何に大して言い訳しとるんやろう)

  ふと、そんな考えが過ぎる。
  
(……面倒や)

  そんな考えを余所に、唐島は小さく息を飲むと解してはあると言ってはいたが、念の為か自分のアナルに指を埋めて行った。
  何でも良いや、と真幸は貰ったコンドームを開け、慣れた手付きで自分に着けた。
  着け終わると唐島の腕を取り自分から剥がし、後ろを向かせ四つん這いにさせる。
  暗い闇、四つん這いにさせてしまえば、余計にヨゾラには見えない。
  見えない方が楽なのか、見えた方が楽なのか。
  唐島の腰を掴み真幸のペニスの先端を唐島の入口にくっつけると、キュッとすぼまった。
  少し押し込むと、先っぽが埋まる。

「……んッ」

  小さく呻く声が聞こえた。
  真幸は動きを止めた。

「……」
 
  そこから、動くのを止めた。

「……真幸、早く……」

  そう呟く声が聞こえ、唐島は少しだけ腰を揺らした。
  真幸は小さい溜息を吐くと、先っぽを抜いた。

「な、何で……」

  唐島は上半身を上げると、後ろを振り返った。

「……俺は、……度胸ないねん」

  そう言う真幸は唐島の太腿の間に、自分のペニスを入れると、コンドームを外した。

「今はここまでしか出来ひん」

  唐島の背中を覆う様に、腰を密着させ抱きしめた。
  片方の腕は唐島の腰に絡め、もう片方の手は唐島のペニスとその間から覗かせた自分のペニスを握った。
  ゆっくりと真幸は腰を動かす。
  喘ぎ声の様な唐島の声が、泣き声にも聞こえる。
  暗い部屋の中、悲しげな音だけが響いた。  
    
    
   


  


  


  

   




  





  
  

    
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