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淫魔と感情
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「うわっ!?萎れすぎにも程があるだろっ?」
千皇のマンションに、瑠依が召喚された。
玄関を開けた瞬間、よどめく空気に違和感を持ちながら、千皇に言われた部屋を開けると真っ暗で、さらによどめいている。
「ほらほら、さっさと出て来いよ。せっかくアイス買って来てやったんだ。溶けちまう」
瑠依は部屋の外、とは言ってもドアを開けた廊下から声を掛けた。
暗い部屋の中では、丸まったカグヤが鼻をすすっているシルエットだけが見えた。
「話聞いてやんから、出て来いって。いつまでもメソメソすんなよ。楼依君襲った勢いはどうした?」
少し苛立った声で、瑠依は言った。
「期間限定のチョコパフェアイス、あたしが食っちまお」
溜息混じりにそうわざと言いながら、瑠依は扉を締めようとした。
「……、……アイス」
チラッと小さな声が聞こえた。
「食いたかったら出て来い来いっつってんの。ウジウジしてたって何もならねぇぞ」
瑠依がそう言うと、モゾモゾとシルエットが動いた。
しばらくして、フラフラと立ち上がりフラフラと歩いてカグヤは瑠依に近づいた。あ
目許と鼻が赤く、まだズビズビと鼻をすすって下を向いている。
「リビングで待ってんから、顔洗っておいで」
瑠依はそう告げると、リビングへ行き明かりを点けた。
カグヤはトボトボとバスルームの洗面台に行った。
洗面台の灯りを点け、鏡を覗くと確かに顔が酷い。
目許は赤く、瞼は腫れぼったい。
目の周辺と頬や鼻の下は、涙やらで皮膚が突っ張る。
カグヤは溜息を吐くと、蛇口を捻って冷たい水を出した。
顔にかけるとヒンヤリ冷たくて気持ちが良い。
蛇口を捻って水を止めて、掛かっていたタオルで顔を拭く。
ほんの少しだけ、スッキリした気がする。
カグヤは静かにリビングへ歩いた。
「ティラミスチョコパフェ風味と、チョコプリンパフェ風味、どっちが良い?」
コンビニの袋から少し大きめなアイスを取り出した。
「……チョコプリン」
「そ。ほら、座る」
瑠依はテーブルにチョコプリンパフェ風味のアイスを置いた。
半ばグズグズしながら、カグヤは瑠依の横に座った。
「あの何事も興味無い先輩が、甘いアイスかなんか食わせてやれって。なーんだかんだで、ちゃーんと考えてんだな、アンタの事」
「……」
カグヤは無言でアイスを開け始めた。
「さっさと好きだと言えば良いのに」
アイスを食べ始めながら呟いた瑠依に、カグヤの肩がピクっと揺れた。
「……、言葉も身体も嘘は吐けるから難しいんだけど。じゃぁ、どうしろって話。せめて、最初は口にしねぇとさ」
瑠依はアイスを一口口に入れた。
カグヤももそっと口に入れた。
甘くて美味しい。
千皇が言って買ってくれたならそれはそれで嬉しい。
嬉しいのか、何となく悔しいのか、スプーンを咥えたまま、また涙が零れる。
「……す、好きとか、分かんねぇ、んだよぉ……」
声が震える。
「で、でも……、ル、ルシカが、……羨ましい」
ふーん、と瑠依は呟いた。
「じゃあさ、あの先輩がアンタに『好きだ』って言われたら、どう思う?」
テーブルに頬杖を付き、カグヤの横顔を見ながら瑠依は聞いた。
好き、と言う感情は何度も考えた。
未だに、何を基準かが分からない。
でも、もし、あの感情があまり見えない目で見詰められ、愛の言葉を囁かれたら……。
「……多分、……ドキドキする」
「それだけか?」
「……嬉しいのかも知れない。だけどさ、……今言われても、モヤモヤする……」
カグヤは俯いたまま、そう小声で言った。
「まぁ、あの先輩からは言わないだろうな」
瑠依は再びアイスを口に入れた。
「分かってても、口には出さない。察せよ、ってタイプだろうからタチが悪い」
「……お、お前は、……好きじゃないのかよ。女って……、顔がイイ奴が好きだろ?」
「ないな。めんどくさい、あんなタイプ。回りくどいし、絶対謝らないだろーし。女の子達はそれがいー、って言うけど、あっちが本気にならない限りは自分の時間を無駄にするだけだな。あたしはそこまでしてまで人を好きになろうとは思わないよ」
次々にアイスを頬張る瑠依は、つらつらと語った。
「モヤモヤって何?」
少し間を置いて、瑠依が聞いた。
カグヤはアイスから視線を外した。
「……アイツは、何で俺にここまでするんだろう、……とか。俺がセックスしようって言ってもしてくれないのに、他の奴抱くとか……。いろんな奴とヤりすぎた俺なんか……、汚いから……、抱いてくれないんだろうとか……。行かないで、って言っても、……行っちゃうし……」
「アンタがいろんな奴とセックスしたから汚いって、馬鹿じゃないの?」
「……弾が、そう言ってた。……誰からも、好かれない、って……」
あのヤクザ……、と瑠依は呟いた。
「先輩だって楼依君だって、いろんな女抱いて来たんだ。気持ちなんて、全くねぇ状態でな。つーか、下半身だけで生きてる弾兄さんが一番汚いっつーの」
「……だけどさ、間違ってねぇだろ?そう言われて、ショックでしたくなくても、……カラダは反応しちまう」
「売られる為にそうされたなら、仕方なく無いか?……先輩だって、擦りゃ出るんだろうし。弾兄さんは先輩を困らせたいから言ってるだけだよ」
「……弾は、好きなのか?アイツの事……」
「友達としては嫌いじゃないと思う。ただ、組み敷きたいだけ。弾兄さんも愛情を知らないんだよ、多分」
愛情、その言葉にカグヤの胸がズキっと傷んだ。
思わず胸に手を当てる。
「弾兄さんを好きになる奴は居ても、弾兄さんが好きになる奴は居ない。セックスの相性が良ければ傍に置くだけ」
「……すい、って奴は……」
「アレは自分が一番になりたいだけ。甘やかされて育ってんからさ、チヤホヤして欲しいだけ」
「……」
「仕方なくそうなった奴か、自らそうなった奴か……、違いはそこだろ?少なくとも、アンタは前者じゃねぇの?」
瑠依の指摘は、間違って居ないと思う。
でも、だからと言って、行為中の気持ち良さは否定出来ない。
気持ちイイだけで稼げれば、こんなに楽な事も無い。
千皇が翠を抱いていなかったと言っていたが、一方的なセックスでも今までの楽しいセックスとは違う気がした。
毎晩抜くだけだった行為とも違ったし、背後に落とされた口付けも、背後から響く声も甘くて優しかった。
後半はイきっぱなしで頭が追いつかなかったが、それでも今までで一番大事にされていた気がする。
セックスなんて、お互い気持ちイイだけで済む行為だと思っていたのに、何だか違う。
繋がって、溶かされて行く様な気持ちは、今まで無かった。
ただでさえ、千皇以外は勃たなくなったのに、一方的とは言えあんな風に抱かれてしまったら、これから先も千皇以外に抱かれたくなくなってしまう。
そしてもし、今のまま魔界にでも連れて帰らせたら、魔王を弾くだけで済むとも思えない。
「……面だけでいろんな奴が寄って来るなんてさ、信じられねぇでも仕方ねぇよな……」
ポツリと瑠依は呟いた。
「楼依君もさ、彼女が居た時はあったよ。相手の女を本気で好きかは知らねぇけど」
少し溶けたアイスを掻き混ぜながら、瑠依は続ける。
「付き合ったは良いけど、女は不安になるから束縛が強くなったり、他の女共の妬みや嫉みで病んだりさ、終いにゃ楼依君を信じなくなってくんだ。付き合ってる間は別に浮気とかしねぇんだけど。楼依君なりに大事にしてんのに、信じて貰えなくなんの」
「……」
「好きだって言って来たのは向こうなのにな」
カグヤにも知らない事では無い。
魔王の周りには何匹もの雌がいて、雄で身体の関係があったのはカグヤだけだった。
魔界の雌より身体も小さく、肌や髪の色も違うし、性別ですら雄なのに魔王のお気に入りで、気に入らないのは目線や態度で分かっていた。
気にしていた訳でもないが、こっちは弟達を生かす事に必死だった。
魔王に信頼はあっても、好意はなかったと思うし、魔王だってそうだと思う。
疑いなんて、なかった。
「他人の気持ちなんか考えねぇでみーんな、勝手……」
そう言うと、瑠依なアイスを一口口に入れた。
楼依はルシカを大事にしてくれているのは分かる。
ルシカ以外とセックスもしないだろうし。
でも、千皇は違う。
「でも、先輩は少なくともアンタを大事には……、……したい、……はず?」
瑠依は目線を宙に浮かせながら、最後は自信なさげの疑問符を付けた。
「……大事にしてぇなら、……何で俺の嫌がる事すんだよ。……ちゃんと嫌だって、言ったのにさ」
「アンタは何で嫌だったんだ?」
「何でって……」
何でだろう、説明が出来ない。
「んー、何が嫌なんだ?」
何が……、それは……。
「他の誰かを……、抱く、……とか。俺が言えた事じゃねぇけど……」
「……ふーん」
「俺が言っても……、抱いてくれないのに……。俺は、……誰ともしてねぇし、……したくないのに」
カグヤのアイスはてっぺんが溶けてドロドロだ。
考えるとモヤモヤする。
「今まで、平気だった事が……、平気じゃない……。全部が……、怖いんだ。何も出来ないんだ」
「……無理してしようと思わなくても良いんじゃないの?ちゃーんと話せば、ちゃーんと守ってくれるんじゃない?」
「……お前は今どうしたい?って、聞かれるだけだし……。言ったら、ちゃんとしてくれるのかよ……」
「言ったらいーじゃん」
「セックスしてぇ、っつってもしてくれねぇのに」
「最初にそんな事言うからだよ。もっとあるんじゃねぇの?」
他の奴を相手にするな、と言えば理由をきっと求められるだろう。
理由なんて嫌だからしか思い浮かばないし、もっと他と言われても、衣食住は無償で見てもらっている訳だから、ワガママなんて言えなくて。
行くなって言っても、嫌だと言っても聞かない奴だ。
セックスに置いては言っても仕方がない。
「……言ったって、アイツ次第だ」
「だからさ、理由を考えよう、つってんの。どう考えてもアンタはルシカちゃんにはなれねぇし、あの先輩は楼依君にはなれねぇんだからさ。先輩が他の奴を抱くのが嫌って、具体的になんなのかとか。素直に話せっての。セックスに関したって恥ずかしいとか今更だろ?」
そう言えば、何で言えないんだろう。
今までなら、平気で言えたのに。
言ってしまったら、呆れられてしまうのか。
嫌われてしまうのか。
別に千皇に話す訳では無い。
瑠依なら、モヤモヤも少しは晴らしてくれるのだろうか。
でも、きっと今でも楼依を押し倒しかけた事は許せない筈で、話したら笑われるかも知れない。
「……別に、悪い様には考えねぇよ。今と楼依君との事は別だし」
悟ったのか、瑠依がそう呟いた。
カグヤは下を向いたまま、一息着いた。
「……弾に、汚い俺を誰も好きにならない、って言われた。……それから、グルグルしてる、ずっと……」
「……グルグル?」
「俺だって……、ルシカみたいに誰か一人に……」
「あー、先輩に愛されたいんだ」
愛との言葉に、カグヤは首を傾げた。
「だから、誰ともしたくないし、先輩が誰かを抱くのも嫌なんだよ」
「……愛とか、良くわかんねぇよ」
「アタシだって分かんない。何が正解とか、どうすれば良いかとか」
「……何も出来ねぇじゃん。俺にばっか聞かれたってさ、悩んでんの……、知っているのに」
どうしたいと聞かれても、それに応えてくれる訳では無い。
監禁生活の中で、至れり尽くせりなのも、一言がわがままになるのも理解はしている。
ただ、千皇が誰かと触れ合うのならこんな生活は要らない。
「こう言う時くらい、黙って傍に居てくれたって……」
それだけでも、少しは心が楽になれそうな気がする。
頭を撫でたり、ちょっと抱き寄せてくれたり。
雰囲気が出たらセックスはしたくなるかもしれないが、流されたとしてもそれはあくまでも雰囲気だ。
甘やかされるのではなく、少しで良いから甘えてみたい。
ルシカやヨゾラじゃなくて、楼依や弾でもなくて、あの無表情な奴に……。
「……ふーん」
瑠依はにやっと笑うと、小さいバッグからスマホを取り出した。
千皇のマンションに、瑠依が召喚された。
玄関を開けた瞬間、よどめく空気に違和感を持ちながら、千皇に言われた部屋を開けると真っ暗で、さらによどめいている。
「ほらほら、さっさと出て来いよ。せっかくアイス買って来てやったんだ。溶けちまう」
瑠依は部屋の外、とは言ってもドアを開けた廊下から声を掛けた。
暗い部屋の中では、丸まったカグヤが鼻をすすっているシルエットだけが見えた。
「話聞いてやんから、出て来いって。いつまでもメソメソすんなよ。楼依君襲った勢いはどうした?」
少し苛立った声で、瑠依は言った。
「期間限定のチョコパフェアイス、あたしが食っちまお」
溜息混じりにそうわざと言いながら、瑠依は扉を締めようとした。
「……、……アイス」
チラッと小さな声が聞こえた。
「食いたかったら出て来い来いっつってんの。ウジウジしてたって何もならねぇぞ」
瑠依がそう言うと、モゾモゾとシルエットが動いた。
しばらくして、フラフラと立ち上がりフラフラと歩いてカグヤは瑠依に近づいた。あ
目許と鼻が赤く、まだズビズビと鼻をすすって下を向いている。
「リビングで待ってんから、顔洗っておいで」
瑠依はそう告げると、リビングへ行き明かりを点けた。
カグヤはトボトボとバスルームの洗面台に行った。
洗面台の灯りを点け、鏡を覗くと確かに顔が酷い。
目許は赤く、瞼は腫れぼったい。
目の周辺と頬や鼻の下は、涙やらで皮膚が突っ張る。
カグヤは溜息を吐くと、蛇口を捻って冷たい水を出した。
顔にかけるとヒンヤリ冷たくて気持ちが良い。
蛇口を捻って水を止めて、掛かっていたタオルで顔を拭く。
ほんの少しだけ、スッキリした気がする。
カグヤは静かにリビングへ歩いた。
「ティラミスチョコパフェ風味と、チョコプリンパフェ風味、どっちが良い?」
コンビニの袋から少し大きめなアイスを取り出した。
「……チョコプリン」
「そ。ほら、座る」
瑠依はテーブルにチョコプリンパフェ風味のアイスを置いた。
半ばグズグズしながら、カグヤは瑠依の横に座った。
「あの何事も興味無い先輩が、甘いアイスかなんか食わせてやれって。なーんだかんだで、ちゃーんと考えてんだな、アンタの事」
「……」
カグヤは無言でアイスを開け始めた。
「さっさと好きだと言えば良いのに」
アイスを食べ始めながら呟いた瑠依に、カグヤの肩がピクっと揺れた。
「……、言葉も身体も嘘は吐けるから難しいんだけど。じゃぁ、どうしろって話。せめて、最初は口にしねぇとさ」
瑠依はアイスを一口口に入れた。
カグヤももそっと口に入れた。
甘くて美味しい。
千皇が言って買ってくれたならそれはそれで嬉しい。
嬉しいのか、何となく悔しいのか、スプーンを咥えたまま、また涙が零れる。
「……す、好きとか、分かんねぇ、んだよぉ……」
声が震える。
「で、でも……、ル、ルシカが、……羨ましい」
ふーん、と瑠依は呟いた。
「じゃあさ、あの先輩がアンタに『好きだ』って言われたら、どう思う?」
テーブルに頬杖を付き、カグヤの横顔を見ながら瑠依は聞いた。
好き、と言う感情は何度も考えた。
未だに、何を基準かが分からない。
でも、もし、あの感情があまり見えない目で見詰められ、愛の言葉を囁かれたら……。
「……多分、……ドキドキする」
「それだけか?」
「……嬉しいのかも知れない。だけどさ、……今言われても、モヤモヤする……」
カグヤは俯いたまま、そう小声で言った。
「まぁ、あの先輩からは言わないだろうな」
瑠依は再びアイスを口に入れた。
「分かってても、口には出さない。察せよ、ってタイプだろうからタチが悪い」
「……お、お前は、……好きじゃないのかよ。女って……、顔がイイ奴が好きだろ?」
「ないな。めんどくさい、あんなタイプ。回りくどいし、絶対謝らないだろーし。女の子達はそれがいー、って言うけど、あっちが本気にならない限りは自分の時間を無駄にするだけだな。あたしはそこまでしてまで人を好きになろうとは思わないよ」
次々にアイスを頬張る瑠依は、つらつらと語った。
「モヤモヤって何?」
少し間を置いて、瑠依が聞いた。
カグヤはアイスから視線を外した。
「……アイツは、何で俺にここまでするんだろう、……とか。俺がセックスしようって言ってもしてくれないのに、他の奴抱くとか……。いろんな奴とヤりすぎた俺なんか……、汚いから……、抱いてくれないんだろうとか……。行かないで、って言っても、……行っちゃうし……」
「アンタがいろんな奴とセックスしたから汚いって、馬鹿じゃないの?」
「……弾が、そう言ってた。……誰からも、好かれない、って……」
あのヤクザ……、と瑠依は呟いた。
「先輩だって楼依君だって、いろんな女抱いて来たんだ。気持ちなんて、全くねぇ状態でな。つーか、下半身だけで生きてる弾兄さんが一番汚いっつーの」
「……だけどさ、間違ってねぇだろ?そう言われて、ショックでしたくなくても、……カラダは反応しちまう」
「売られる為にそうされたなら、仕方なく無いか?……先輩だって、擦りゃ出るんだろうし。弾兄さんは先輩を困らせたいから言ってるだけだよ」
「……弾は、好きなのか?アイツの事……」
「友達としては嫌いじゃないと思う。ただ、組み敷きたいだけ。弾兄さんも愛情を知らないんだよ、多分」
愛情、その言葉にカグヤの胸がズキっと傷んだ。
思わず胸に手を当てる。
「弾兄さんを好きになる奴は居ても、弾兄さんが好きになる奴は居ない。セックスの相性が良ければ傍に置くだけ」
「……すい、って奴は……」
「アレは自分が一番になりたいだけ。甘やかされて育ってんからさ、チヤホヤして欲しいだけ」
「……」
「仕方なくそうなった奴か、自らそうなった奴か……、違いはそこだろ?少なくとも、アンタは前者じゃねぇの?」
瑠依の指摘は、間違って居ないと思う。
でも、だからと言って、行為中の気持ち良さは否定出来ない。
気持ちイイだけで稼げれば、こんなに楽な事も無い。
千皇が翠を抱いていなかったと言っていたが、一方的なセックスでも今までの楽しいセックスとは違う気がした。
毎晩抜くだけだった行為とも違ったし、背後に落とされた口付けも、背後から響く声も甘くて優しかった。
後半はイきっぱなしで頭が追いつかなかったが、それでも今までで一番大事にされていた気がする。
セックスなんて、お互い気持ちイイだけで済む行為だと思っていたのに、何だか違う。
繋がって、溶かされて行く様な気持ちは、今まで無かった。
ただでさえ、千皇以外は勃たなくなったのに、一方的とは言えあんな風に抱かれてしまったら、これから先も千皇以外に抱かれたくなくなってしまう。
そしてもし、今のまま魔界にでも連れて帰らせたら、魔王を弾くだけで済むとも思えない。
「……面だけでいろんな奴が寄って来るなんてさ、信じられねぇでも仕方ねぇよな……」
ポツリと瑠依は呟いた。
「楼依君もさ、彼女が居た時はあったよ。相手の女を本気で好きかは知らねぇけど」
少し溶けたアイスを掻き混ぜながら、瑠依は続ける。
「付き合ったは良いけど、女は不安になるから束縛が強くなったり、他の女共の妬みや嫉みで病んだりさ、終いにゃ楼依君を信じなくなってくんだ。付き合ってる間は別に浮気とかしねぇんだけど。楼依君なりに大事にしてんのに、信じて貰えなくなんの」
「……」
「好きだって言って来たのは向こうなのにな」
カグヤにも知らない事では無い。
魔王の周りには何匹もの雌がいて、雄で身体の関係があったのはカグヤだけだった。
魔界の雌より身体も小さく、肌や髪の色も違うし、性別ですら雄なのに魔王のお気に入りで、気に入らないのは目線や態度で分かっていた。
気にしていた訳でもないが、こっちは弟達を生かす事に必死だった。
魔王に信頼はあっても、好意はなかったと思うし、魔王だってそうだと思う。
疑いなんて、なかった。
「他人の気持ちなんか考えねぇでみーんな、勝手……」
そう言うと、瑠依なアイスを一口口に入れた。
楼依はルシカを大事にしてくれているのは分かる。
ルシカ以外とセックスもしないだろうし。
でも、千皇は違う。
「でも、先輩は少なくともアンタを大事には……、……したい、……はず?」
瑠依は目線を宙に浮かせながら、最後は自信なさげの疑問符を付けた。
「……大事にしてぇなら、……何で俺の嫌がる事すんだよ。……ちゃんと嫌だって、言ったのにさ」
「アンタは何で嫌だったんだ?」
「何でって……」
何でだろう、説明が出来ない。
「んー、何が嫌なんだ?」
何が……、それは……。
「他の誰かを……、抱く、……とか。俺が言えた事じゃねぇけど……」
「……ふーん」
「俺が言っても……、抱いてくれないのに……。俺は、……誰ともしてねぇし、……したくないのに」
カグヤのアイスはてっぺんが溶けてドロドロだ。
考えるとモヤモヤする。
「今まで、平気だった事が……、平気じゃない……。全部が……、怖いんだ。何も出来ないんだ」
「……無理してしようと思わなくても良いんじゃないの?ちゃーんと話せば、ちゃーんと守ってくれるんじゃない?」
「……お前は今どうしたい?って、聞かれるだけだし……。言ったら、ちゃんとしてくれるのかよ……」
「言ったらいーじゃん」
「セックスしてぇ、っつってもしてくれねぇのに」
「最初にそんな事言うからだよ。もっとあるんじゃねぇの?」
他の奴を相手にするな、と言えば理由をきっと求められるだろう。
理由なんて嫌だからしか思い浮かばないし、もっと他と言われても、衣食住は無償で見てもらっている訳だから、ワガママなんて言えなくて。
行くなって言っても、嫌だと言っても聞かない奴だ。
セックスに置いては言っても仕方がない。
「……言ったって、アイツ次第だ」
「だからさ、理由を考えよう、つってんの。どう考えてもアンタはルシカちゃんにはなれねぇし、あの先輩は楼依君にはなれねぇんだからさ。先輩が他の奴を抱くのが嫌って、具体的になんなのかとか。素直に話せっての。セックスに関したって恥ずかしいとか今更だろ?」
そう言えば、何で言えないんだろう。
今までなら、平気で言えたのに。
言ってしまったら、呆れられてしまうのか。
嫌われてしまうのか。
別に千皇に話す訳では無い。
瑠依なら、モヤモヤも少しは晴らしてくれるのだろうか。
でも、きっと今でも楼依を押し倒しかけた事は許せない筈で、話したら笑われるかも知れない。
「……別に、悪い様には考えねぇよ。今と楼依君との事は別だし」
悟ったのか、瑠依がそう呟いた。
カグヤは下を向いたまま、一息着いた。
「……弾に、汚い俺を誰も好きにならない、って言われた。……それから、グルグルしてる、ずっと……」
「……グルグル?」
「俺だって……、ルシカみたいに誰か一人に……」
「あー、先輩に愛されたいんだ」
愛との言葉に、カグヤは首を傾げた。
「だから、誰ともしたくないし、先輩が誰かを抱くのも嫌なんだよ」
「……愛とか、良くわかんねぇよ」
「アタシだって分かんない。何が正解とか、どうすれば良いかとか」
「……何も出来ねぇじゃん。俺にばっか聞かれたってさ、悩んでんの……、知っているのに」
どうしたいと聞かれても、それに応えてくれる訳では無い。
監禁生活の中で、至れり尽くせりなのも、一言がわがままになるのも理解はしている。
ただ、千皇が誰かと触れ合うのならこんな生活は要らない。
「こう言う時くらい、黙って傍に居てくれたって……」
それだけでも、少しは心が楽になれそうな気がする。
頭を撫でたり、ちょっと抱き寄せてくれたり。
雰囲気が出たらセックスはしたくなるかもしれないが、流されたとしてもそれはあくまでも雰囲気だ。
甘やかされるのではなく、少しで良いから甘えてみたい。
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