堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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知識とハジメテと

04

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  ヨゾラはあの後、安心したのか疲れたのか寝てしまった。
  熱はちょっぴり下がっただけだ。
  とりあえず話だけはしときたかったから、それ以上はしていないが、手は握られたままだ。
  今はそれだけでも満足は出来る。
  ヨゾラが少しでも安心したなら良かった。
  先の問題は山積みだし、時間もない。
  事を急いでもどこかで取り返しの付かない事になりそうだ。

(羽の色が変わりかけとるんや。天界に一時避難……、は甘すぎるか)

  まだ淫紋はない。
  羽は白くなりかけてはいるが、角とシッポは健在だ。
 
(熱さえ下がれば学校にも行けるんやろうが……、淫紋が出ない限りは記憶も消したないやろ)

  それまでは部屋に引きこもるつもりだろうか。
  学校は楼依や弾がどうにかするかも知れないが、いつまでも休めないだろう。
  熱を下げる事が最善なのだが、本当に方法はそれしかないのか。
  魔界の薬草とかそう言った類が、無いのだろうか。
  もし、ヨゾラを抱いたとして、それが淫魔へのトリガーになってしまったら元も子もない。
  相手が魔族では無い分、確率は低いだろうけど、淫魔になれなかったら消えてしまう。

(嫌な呪いやわ)

  ヨゾラはコチラを向いて静かに寝息を立てている。
  こんなにまじまじと寝顔を見た事は無い。
  ベタだが、睫毛が金色で長いとか、鼻筋は通っているとか、唇は小さく薄いとか、とにかく可愛いとか、そんな事しかよぎらなかった。
  もっと何かあるやろ、と思うも、意外と思い浮かばないものだ。
  情けない。
  真幸は溜息を吐いた。
  その時、真幸のスマホの通知が鳴った。
  真幸はズボンの尻ポケットからスマホを取り出し、通知画面を見ると千皇からメッセージが来ていた。
  不審に思った。
  しかし、様子を聞きたいだけかも知れない。
  それか、カグヤに何かあってアドバイスを、……求める奴ではない。
  数秒スマホの画面と睨めっこしながら、真幸は恐る恐る通知を開いた。

《いくら解しても、初めてはなかなか挿いらねぇらしい》

  そのメッセージに、何故か怒りが込み上げスマホをぶん投げかけた。
  そしてまた、通知が鳴る。
  どうせしょうもない事だろう、と、再びメッセージを見た。

《数日かかるかもだから、念入りにしてやれよ》

  分かっとんねんっ!と、叫びかけた。
  
「何なんや、この人は……」

  怒る気も失せる。
  
「……俺なんかより、兄貴を安心させぇや」

  思わず連続独り言。
  ベッドに頭を伏せた。
  少しベッドが揺れたのか、ヨゾラが小さな声を上げた。
  顔を上げると、ヨゾラの寝顔が間近だ。
  先程も思ったが、こんなにまじまじと見た事は無い。
  こんな可愛い寝顔が、常磐や老人に汚されずに済んだが、もっと早くに戻れば良かった、と思う。
  もし老人が真幸の姿で近付いたら、それこそゾッとする。
  熱に浮かされていたなら、余計に気付かないかったかも知れない。
  突然、ヨゾラの表情が険しくなった。
  握る手にも力が篭もり、熱くて汗が滲む。
  
「う、……ぁあ」

  小さく呻き声を上げ始めた。

「……ヨゾラ?」

  真幸は声を掛けてみる。

「ち、違うっ、……ソイツは、……違うっ!」

  身体は震え、布団を蹴飛ばす。
  額にも汗が滲み、閉じた瞼に涙が流れる。

「ィヤダっ!……気付いてくれよっ!!真幸っ!!」

  悪夢を見ているのか、魘される声も悲しげだ。
  真幸の名前を叫び、身体を丸めた。

「……俺はこっちやぞ」

  真幸は両手で手を握り返しながら、静かに言った。
  
「うぅっ……。ご、ごめん……。真幸……」

  そう、泣きながら謝罪するヨゾラは、次第に静かに再び眠りについた。
  なんの夢を見ていたのだろう。
  悪い夢なのは分かる。
  起きて聞いたら話してくれるだろうか。
  多分、笑って濁されそうだ。
  真幸の名前が出た上に謝られたら気になる。

(コイツの夢の中の俺はどないやろ……)

  普段強気なヨゾラが謝るくらいだ、真幸は鬼の様かもしれない。
  何だか気分が悪い。
  出て行った事が余程嫌だったのだろうか、それが夢にまで影響があるとしたら申し訳ない。
  戻って来たと言っても、不安がまだ残っているかもしれない。
  安心させるにはどうしたら良いのだろうか。
  初めての事だ、どうして良いか分からない。
  嘘でも彼女が居た時期は、あんまり気にしなかった。
  と言うか、泣かれてもウザく思ってしまい、慰めるなんて事はした事がなかった。
  軽く抱き締めたり、頭を撫でる事すらしようとか考えがなかった。
  それが今、何が安心するのか考える事に笑えて来てしまう。
  悩んだ挙句、楼依に電話を掛けてみた。
  
『話は出来たのか?』

  直ぐに出てくれた楼依は、千皇と違い心配の声を掛けてくれた。
  
「うん……、今寝とる。兄さんは……?」
『あー……、久々すぎて無理させちまって、横で寝てる』

  千皇と違って、と思った自分を殴りたい。
  
『で?どうした?』

  掛けてしまったなら仕方がない。
  出てくれただけでもありがたい、と思う事にした。

「姫神兄さんは、兄さんが不安な時ってどうしてんやろか?って思うて」

  真幸の疑問に、楼依はあー……と呟いた。

『夢で出逢った時から、頭撫でると安心するって言ってた。すんげぇ笑顔になって可愛ーの』

  やっぱりそう言うのが一番なんだろうか。
  女相手にもした事がないが、相手は男で喜ぶのか疑問だ。
  ルシカは楼依が何しても喜びそうだ。
  撫でられた時の笑顔が目に浮かぶ。

「そぉかい……」

  撫でるだけで何が良いのか分からない。
  そう言えば前に無意識に撫でた事がある。
  ヨゾラの頬が赤くなったのは覚えている。
  一瞬、嬉しげに笑った様にも見えた。
  それを思い出すと、こっちまで恥ずかしくなる気がする。

『何なら一発ギャグでもしてやりゃいーんじゃねぇの?』

  その言葉に一気に現実に引き戻された。

「関西人がみんな一発ギャグ持っとると思うなよ?粛々と慎ましく生きとる奴もおるんや」
『別にルシカはそうやると安心して可愛くなるだけで末っ子とは違うからな』

  そりゃそうだ。
  同じとは限らない。

『先輩に聞いてみたらいーんじゃね?』
「……あの人、イケメンやのに何か残念や。それにそない興味なさそうやし、好きなもん与えとけ言われそうやん?」
『それも一つの方法じゃねぇか』
「抱き潰すとか言いそうやん?」
『それも一つの方法だ』
「やっぱり嫌な大人や」

  千皇よりはマシなアドバイスだろう、と言い聞かせた。
  頭を撫でるにしても、きっと自然に出来るんだろうな、と思うと何だか大人の男と思えて羨ましい。
  
「まぁ、えぇわ。……ありがとさん」

  そう言うと真幸はスマホを切った。
  相手の頭を撫でるとか、意識をすればするほど恥ずかしくて簡単には出来そうにない。
  ルシカは楼依の事が大好きだから、多分何をしても安心するし、喜ぶのは分かっている。
  それはお互いの気持ちを理解し合って居る事で、それが分からないカグヤもヨゾラもどうして良いか難しい。
 
(厄介な奴を好きになってもうたな……)

  今更ながらにそう思った。
  近いうちには熱を下げる為に、肉体的な関係を持つだろうけど、その前にヨゾラにははっきりして貰いたい。
  しかし、そんなに時間はない。
  ヨゾラの体力もそうだが、いくら魔王が老人を連れて行ったと言っても、もしかしたら脱走して来るかもしれない。
  そうなれば、ヨゾラのところに来るだろうし、危険だ。
  時間もなければタイミングも無い。
  ヨゾラが勘違いでもしていたら余計に苦しいし、真幸の一方的でも嫌だ。
  覚悟はあってもきっかけがない。
  後悔もさせたくないし、痛い思いもさせたくない。
  経験はあってもテクニックはないし、自信もない。
  そして……。

(ほんまに俺でえぇんやろか)

  ヨゾラの寝顔が穏やかになった。
  
(ヨゾラにやて選ぶ権利はあるやろに)

  最初に出逢ったのが真幸じゃなかったら、こんな風にならなかった。
  それこそ常磐だったら、躊躇いもなく抱くだろう。
  何だか自分が情けなくなる。
  しかも、意を決した行為でも、ヨゾラの熱が下がるとは限らない。
  カグヤには千皇の魂の一部があり、楼依はルシカと奴隷契約があるのとは違い、ヨゾラと真幸には何も無い。
  だから余計にそれが正しい行動なのかも自信が無い。
  それに、ヨゾラの初めては何の能力もないただの人間だ。
  能力もない人間が何かを発揮出来るとは思えない。
  単なる思い出にしかならない。
  思い出にすらならないかもしれない。
  ガキの背伸び程度のやり方しか知らない真幸は、一気に不安になった。
  中学の頃に友達が童貞を捨てたとか、こっそり持って来た親のエロ本をこっそり見てはワーワー言って居た頃の勢いで彼女作って童貞を捨てた、とか初めはそう言うレベルだった。
  その後も、数人と付き合ってセックスはしたが、実際はどうでも良くて、かと言って猿並に盛りまくっていた訳でもなくて、付き合っているから当たり前みたいな感覚だった。
  気持ち良くさせようとか、そこまで深く考えたりはしていない。
  真幸のビジュアルは千皇や楼依程では無いが、それでも苦労はなかったせいか、女の子達はイケメンに抱かれたと言う満足感が、感覚を麻痺させていただけだと思った。
  それが今度はヨゾラに気を遣ってしまうあたり、結構末期だなと思う。
  考えれば考える程、どツボにハマりそうだ。
  そして、起きたらもう一度話をして、ルシカやエルドラが帰る前にはどうするか決めないとならない。
  ルシカは真幸が楼依に連絡をしない限りは帰っては来ないと思うが、エルドラは分からない。
  さっさと進めたいが、一歩を踏み出す勇気が湧
かない。

(ウダウダ考えたって仕方あらへんに……)

  ヨゾラは実際どう思って居るのだろうか。
  せめて、熱を下げる為だけの行為だと割り切ってくれるのだろうか。
  とりあえず、熱を下げる為の行為だ。
  深く考えても仕方がないのも、分かっている。

(俺やないと嫌なんて、烏滸がましいんやけど)

  もしくは、お互い無になれば手っ取り早い。
  それも何となく嫌なのだが。
  真幸は何気にスマホでアナルセックスのやり方を検索し始めた。
  尻の中に入れるのは理解して居るが、考えて見れば簡単に挿いるわけは無い。
  千皇にもさっきメッセージが来たし、唐島も準備がどーのと言ってた気がする。
  痛いのは避けたい。
  すると、真幸は目を見開いた。

(ローションなんてここにあるんか?)

  カグヤやルシカは持ってそうだが、勝手に部屋を漁る訳には行かない。
  ローションの代用品も見ては見たが、初めてを代用品でなど何となく嫌だ。
  精を食とするならゴムも要らなさそうだが、ないと不安だ。
  起きて直ぐにする訳では無いのだろうが、あるに越した事は無い。
  悩んで悩んで悩んだ挙句、真幸はヨゾラからそっと手を離すと、メモを残して静かに部屋を出た。
   
  


  
  
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