愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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ムーンライト・ホーリースライム編

教会の境界

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 世の中そんなに単純では無い。
 そう思わされるには充分な出迎えを受ける羽目になるとは…

 教会の都市に対する支配の構図は明確で、大聖堂は町の中心にランドマーク的にその豪華な作りで君臨し、宗教の支配力を誇示しているように見える。マックスには悪いが、末端の冒険者ギルドの威光など少しも役に立たなそうに見える…

 大聖堂に入ると装飾の凝ったドーム型の礼拝堂が荘厳に美しい彫刻とステンドグラスに彩られ、入り込む日光は七色に分かれて室内を柔らかく包む。計算されたであろうその空間の演出は歴史と力がここに集中していることを容易に理解できる。
「本日のミサは夕方からになります…それとも何か別のお困りごとですか?」
 ホールを見て回っていると、シスターの一人が近寄って優しい笑顔で語りかけて来た。

「えっと…あの、冒険者ギルドのマックスさんから紹介を受けて、主教であるイザベラさんにお目通りを…」
「紹介状はございますか?」
「え?そんなもの必要なんですか…?」そういや、行くなら改めて声を掛けてくれってマックスが言ってたような…
 シスターは少しだけ困った顔をして「あいにく主教に目通りを頂くには紹介状とその目的を賜った上で、お布施を頂かないと…」お布施?…え?会うのに金取るのか?ナルホド…

「それは…大変失礼なことをしました。街に来て日が浅く、田舎者故常識もわきまえず申し訳ありませんでした。ギルドのマックス氏からお名前を拝聴して、そのままの足で来てしまいましたので、作法も何もわからず…」
 我ながらよくもまあ口から適当な謝罪が次々と…なんで、オレこんなに謝り慣れてんだ?

「我が主よ、汝卑屈になることなかれ」
 少し後ろに控えていた雫が、するすると前に出ると指を正面に差し出し指さす先には…礼拝堂の中央に極めて複雑な自然物、木や岩、流れる水さえもが豪華な彫刻として形作られて安置され、その中央に跪く人々に慈悲深く癒しの光を与える女神が優しく微笑んでいる。
「女神さまを冒涜すると…ひぃ」シスターの顔が驚愕に歪む。雫の顔と彫刻の女神の顔は形状が一致していた。

 オレには大理石だか何だかで彫刻された女神像の顔は全体含めて真っ白で陰影だけでよく分からないが、流石に大聖堂に勤めるシスターは毎日拝む対象なのだから、その顔をした女性がそれらしい仕草をすれば驚くのも無理はない…主教に取り入るための交渉はそんなに簡単ではなく、雫の存在は切り札に考えていたのだが…

 シスターは努めて冷静を保とうとしながら「しょ、少々お待ちください…と言って控え室に走っていった」
 霊験あらたかな場所で走ったらイカンだろと思ったりしたが…

 やがて奥から厳つい教会のシンボルを鎧の上から羽織った騎士団が出て来て俺たちを誰何する。協会所属の警備兵か何かだろうか?女性が多いと聞いていたが流石に物騒な見た目のおっさんばかりだ。
「田舎から来たというが、実際何処から来たのだ?その女性は誰だ?お前たちの目的は何か?」
 なんか警察の職質みたいだ…なんで、官職って立場上から偉そうに語るんだろうな…あれ?職質って何だっけ…
 又だ、頭がチリ付く…ウっとなって頭を抑える。

 その刹那、仮病を使ってごまかすつもりか?と騎士の蹴りが飛んできた。
 以前のオレなら気づきもせずまともに食らっているだろうが、ケルベロスを全員抱いたオレの基本スキルはかなり上がっていたようで、難なく躱せた。…が、状況は悪化した様で…
「その身のこなし…物乞いか詐欺の類でもなさそうだ…女神スレイン様を愚弄する不埒な輩よ…成敗いたす」
 質問の答えも待たずに断定か…コレはちと面倒そうだ…四人全員が腰に下げていた剣を抜いてオレたちを四方から囲っている。雫は…警戒も怯えもせずいつもと変わらぬ様子で立っている…意に介してない…?いや、先ほどの態度からしてもオレが窮地に立ったり卑屈にになるのに対して良くは思ってないのは明白だ。
「雫…頼むから騒ぎを大きくしないでくれ…この場はそのまま収めて誰かを殺すとかしたくない」
「……汝がそう望むなら」よかった、先に言っといて…

「がはは…余裕ぶっているようだが、状況が分かってないようだな!」
 うわーマジでテンプレ反応だ…コレって人類の背負ったプログラム的な思考回路なんだろうか?
 プログラムって何だっけ?最近ホント自分の思考に自分が邪魔されるってよく分からない状態が度々あるな…

 騎士団の剣は殺す気はないようだが無事に返すつもりもないらしく、両足と手を狙って一斉に前後左右から振り下ろされる。高さを変えないように頭を下げながら両膝を抱えつつジャンプして左右からの薙ぎ払う剣の間を潜り抜けてそのまま捻って左右に開脚して左右の騎士の籠手を蹴りつける。自分の剣速に加速させてやることで想定以上の遠心力が掛かって剣を手放して吹っ飛ばすか、自身が転ぶか…その両方だ。

 一瞬でそれだけの事をオレがして左右の騎士が吹っ飛んだのを見て、正面の隊長っぽいさっきからオレたちに偉そうに絡んで来ていたおっさんが、自分も当たらなかった剣をを構え直して状況を把握したのか慌て始めた。
「キサマ…何を…教会を愚弄するか…」
「愚弄も何も…そもそも話も聞いてくれないじゃ…」

 話しかけている後ろから残った一人が大上段から斬り下ろしてくる。大剣を力任せに…不意打ちでも今のオレなら食らわない。体を半身にしながら斬ってくる後方の騎士側に軽くバックステップ。半身に変わった段階で正中線を外しながら後ろに下がるので、振り下ろした剣を背中でかわし、そのまま手元の間合いにまで踏み込む。騎士の肘に俺の肩をぶつけて着地しようとしている軸足を蹴ってやるだけで、大理石の床はよく滑る。重心を崩した巨体がオレの肩に乗っかり足が着けないことでゴロゴロと転がる。

 まあ、結果正面のオッサンにツッコむ羽目になる。


「まあ、すいませんね…改めて紹介状用意しますんで、申し訳なないが出直します」
 多分報告に向かい、教会の衛兵騎士を要請した先ほどのシスター扉の奥にいると踏んで声を掛ける
「ひっ!」と声が聞こえたので、両省の合図と認識して雫と一緒に大聖堂を出た。

 洞窟に引き込んでしまえば、愛玩し服従させて支配するのは簡単だが、末端の人間を誘導し続けて地道に配下を増やして洗脳し、上までたどり着くという方法も考えなくも無かったが、時間がかかりすぎる上にどこかの時点で気づかれたら終わる。従って上を抑えるのが先決だと思ったが、まあ、そんなに単純ではなかった。

 だが、今回の一件でオレは記憶を失ってぼんやり洞窟に…雫に溺れてから、最初の脅威のケルベロスを手懐ける過程で成長し、自信をつけてそして目標も見つけた。

 記憶を失った理由もどうしてここにいるのかも相変わらず不明だったが、肌を重ねる女性の話を聞きながら何かが変わってきていると感じた。『月下の雫』ホーリースライム・スレインの能力をオレが使いこなして覇道を唱える提唱者になったというなら、やれるところまでやってやろうではないか…だが、まだちょっと意志と行動が空回りしているのは今回の反省だ…

 そんな決意を固めるオレの横で雫は優しい笑顔で腕を絡めてくる。
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