愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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ムーンライト・ホーリースライム編

洞窟の秘密と盟主への罠

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「この子をシェルが生み出したのかい?…ボクは歴史の転換期の中心に立っているということか…あ、いや、腰抜けて立ってないけど」
 ヒドラの前で座り込んでしまっているナディアは、感心したようにその異様な光景を見つめている。
 腰が抜けたのは驚いたからなのか、オレとの交渉のせいなのか知らんが…

「キミは優しいね…ボクは君の支配を受け入れた。ボクの体は君に全てを捧げてもかまわないと思っているんだけど、それ以外にこれまでの人生を否定も削除もされた感覚がない…自由意志の元に確かな信用をもって君に向き合おうという気分にさせられるだけだ…これからもよろしく頼むよ」

 どうやらオレが望む様に支配できたようだ…オレとしても既存の社会を統べて壊して全てを付き従えて魔王!とか別にそこまでやりたいわけでは無い。協力者を増やすという感覚に近い。

 …ただし、だからと言って言葉や金銭による契約は、身近に置く立場の人間にはしないようにしたい。
 それは、過去の転生前の自分の失敗から恐れる部分だからだ。

「アストリッドとレイラは私から紹介状くらい説得して出してもらうことは可能だけど、私以上に現役引退している分しっかり者だから、ちゃんと篭絡させておいた方がいいだろうね…今後街を支配して堕とすなら、堅実にやる方がいいとボクも思うしね。まあ、洞窟に呼び寄せることも含めてちゃんとシェルに期待に応えるよ…その代わり…」

「分かっているよ…ではオレからもよろしく頼む」

 マックスのギルドまでナディアを送る。一緒にいるオレとナディアを見てマックスは胸をなでおろし、サリーはニヤニヤして受け入れてくれた。

「それじゃ…ナディアさんから二人にはアポ取ってくださるんですかい?」
「まあ、仕方ないね…あんなヒドラとか出てきたんじゃボクは対応しきれないからね…冒険者ギルドとしては、盟主が出向いて状況を把握し、戦力を測った上で討伐が難しければ王国へ報告も必要になるだろう」
 何か茶番みたいだけど、共通認識を持つことは大切なことだ…

 数日後、ナディアがレイラとアストリッドを連れてギルドに現れた。

 レイラは明るい銀髪で長い髪の毛を後ろにまとめ上げていて、髪の毛のまとまった部分は薄いみどりが入っている。褐色の肌が現役時代の冒険者だった証か。クローク(短いマント)で誤魔化されてが肘から先右腕を失っているのが分からない。
 纏っているオーラというか殺気はただ事ではない。彼女にはコレットという従者が付いている「この子は文字通りワシの右腕じゃ」と言った。短く刈った茜色の頭髪、褐色の肌。体の線は細い。一見して男女の見分けがつかないが…

 アストリッドは極めて反射率も低い黒いローブと長いストレートの頭髪で、前髪の分け目から見える病的に白い肌は最早青白く見える。目は大きく整っているようにも見えるが、目の下のクマが病的に見える…唇も黒いリップを引いていて、仮装に見えなくもない。ただ立っていると、等身大のチェスの駒に見える。持っている杖は背丈と変わらない長さで漆黒の黒檀で作られているようで、先にこれまた黒い紫水晶が付いている。

 ナディアが来て「すまんね…二人とも。恐らく直に見てもらった方が良いと考えたんだ…冒険者ギルドとしての対応をするのか、はたまた王国に報告して正規軍を派遣してもらってまで退治すべきかの判断をしてもらいたい。ボク自身はちょっと見ただけで悪いけど逃げ出させてもらったよ…」と経緯と目的を説明する。

 レイラは「まあ、いざとなったら我々も退避させてもらうが…コレットがいれば物理攻撃が効かない…といった類でなければ単体で対応は可能だろう」随分な信用を得ているようである。

 アストリッドはか細い声で「私としては魔法が効かない方が困るが…未発見のモンスターはココロが躍るな…ひひひ…」と笑う。

「では、洞窟内は暗闇故時間帯を気にするわけではないが、日が高いうちに済ませよう」ナディアが案内して一行は出発した。オレとしては、今回はナディアがいることで役目がないので、日雇いという形で荷物持ちとして一行に追従することにする。

 出発前に、今更ながらずっと気になっていたことをマックスに質問する。
「なあ、この街って支配階級の代表者って実はほぼ女性だったりするのか?」
「シェルの旦那が何を気にされているのか分かりませんが…何をいまさらという質問ですね」
「女尊男卑とか?」
「しっ!旦那、そのワードは禁忌ですぜ…あくまでこの世界は男女平等ですから…ですが、実態としては女性が頭脳男性が筋力、労働力というイメージは間違いなくありますぜ…なんで、旦那には期待してますぜ…支配の暁には、立場逆転の采配を…」
 貞操逆転とまでは言わないが、少し疑問が解消されて納得できた…まさにオレ天国。

「まあ、男性の人数も少ない気がするけどね…」「それも、支配層の女性優位が色々影響してますぜ…男子は肉体重労働が生きる術ですし、戦争でもあろうものなら真っ先に最前線送りですからね…」
 マックスが上に上がりたがらない理由が少しわかった。

「シェルさ…シェル君、出発ですよ!」『様』を付けそうになって咬んだナディアに声を掛けられて、慌てて表に出る。荷物は万全を期して馬車で運ぶ。ギルドからは受付の一人、数少ない男のカイルが付いてきてくれた。

 馬車はナディアが御者をして盟主二人と従者は別で馬に乗り目的地に向けて進む。
 オレ達は詰め込まれた荷物を仕分けしながら目的地まで進む。

「悪いね…業務範囲外なのに」「と、とんでもないっす!僕ら下っ端は雑用日常茶飯事っすから」オレよりもずっと細身でやや情けなく見えなくもないチャラ男っぽい外見だが、意外といい奴かも。

「受付はサリーが居れば大抵何とかなりますからね…」あーコイツとも穴兄弟なのか…そこは割り切ったつもりだが、少しだけモヤるな…「サリーはどうだった?」ちょっと興味が湧いて質問してみる。
「へぇっ!…そりゃぁ…もう、何と言いますか…最高でした!僕みたいな奴があの魅惑的な躰を…シェルさんには感謝しか」そうか、それ以上は別に聞きたくないぞ…

「おい、もう着くぞ!すぐに準備始めてくれ」馬車の御者をしながらナディアがこっちを向いてウインクしてくる。
 もう見慣れ過ぎた樹海の洞窟の入り口、少し開けた場所にキャンプの用意を行う。
 カイルは慣れた手つきでテントを組み、飲み水の樽を据えて、暖炉を組む。
 作業しながら話を聞く…「カイルも元冒険者か何か?」「そんなとこっす…まあ、才能が無くて…マックスさんに拾われた感じっす」
「苦労人なんだな…」「この世界の男はみんなそうっす」「ふうん…」そうか…

 この世界の男性の境遇がそれでいいのかという疑問は俺の中に少し残る。
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