愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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ジパング編

京の街に花開く血風録

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「おうおうおう~こんな処に、武装したモノノフ集結とは物騒じゃの…」

 まあ、山門の周りは人通りは多くないとはいえ、浪士の集まりがあれば見つかるよね…
 って…浅葱色と白のだんだら模様…オレは知っている…「新選組」だ。

「京の都に得物持ち込んで集まるなら…それはもう、ご法度じゃ!」
 先頭の殺気にぎらついた若い男は問答無用で抜刀している。

「耳長につく売国の志士…【天誅組てんちゅうぐみ】じゃ…見つかってしまったからには返討だ!」
「新選組じゃないのかぁ…」
「新鮮じゃぁない…悪鬼羅刹の類よ!」小夜も懐から大量の札を取り出し、式神を放つ。

 札は絡み合いながら飛んでいき、人ほどのサイズの狐に変わる
「陰陽師か…ふん…体制に楯突く愚かな輩が!」
 先頭の男は瞬時に式神を斬り捨てる。剛腕で斬りなれている…強そうだ。
「天誅組筆頭・芹沢雁せりざわ・がんだ…推して参る」

「天誅必殺の悪鬼羅刹が…丁度良いっちゃ」
 お銀が大太刀を抜刀して立ちはだかる。

「非力なオナゴが粋がるな」
 大上段から鋭く大きく踏み込んで斬りかかる芹沢の初太刀に大太刀を担いで身をひねり懐に入るお銀。
「馬鹿め!大太刀の利点を捨てるなど…」

 あーオレと同じミスしてるよ…
 かろうじて見える刹那の駆け引き。

 お銀の船上で鍛えた足腰…そこから繰り出される足技は…
「ぐほぁ!!」
 芹沢の鳩尾を蹴り上げ、その身体が浮くほどの威力。

 空中では何処にも逃げられないその身体に担いだ大太刀を蹴り上げの勢いそのままに横一文字に切裂く。

 吹っ飛ぶ芹沢雁。
 本来なら真っ二つのハズだが…

 転がる芹沢に駆け寄る付き添い隊士
 一人は呼子を鳴らす。

「芹沢さん!」
「うぐぐ…クソが……」
 芹沢は無事ではなさそうだが、致命傷でもなさそう。

「あ~ん?下に何んぞ仕込んでいるっちゃね?」
 お銀の指摘の通り、隊士服の下から鎖帷子が見えている。

 呼子を吹いた隊士が芹沢を助けながら「直ぐに一番隊が…!」と言う。
 うん?エライ若いぞ…若いというか子供だ…12,3歳くらいだ…
 天誅組にも成年剣士は居ないのか…

 芹沢雁はどう見ても五十代後半だ。
 この歪さは、この国のヤバい部分を如実に表していると言えるだろう…

「俺の事はいいから…」芹沢が子供隊士を押し退ける。

「しかし、芹沢さんその怪我では…」

 言うより早く向こうから別の浅葱色の集団が……
「流石にこの辺りは手厚いですね」小夜は大して慌てることもなく山門に向かう。

 大石内蔵助・茜が采配を振るう。
「傍若無人の圧政を改編するは今なり!」

 女性と老人の混成部隊の赤穂浪士と若者と子供の天誅組…黒と蒼が入り乱れて斬り合いが始まる。
 オレはその光景が一番見たくないモノだと理解していた。

「タイガ、ザルク…制圧してくれ」
「「応!」」
 黄褐色と黒の縞と金と黒の斑点の巨大な獣魔が駆け抜ける。たちまち双方の隊士達が吹き飛ばされ、武器を破壊されて制圧されて行く。

「手出し無用!」と小夜が叫んだところで、無視して制圧仕切った。
 誰も殺さないように。

「おい、お前たちいい加減にしろ…!」オレは自制も忘れて大きな声を上げていた。
 こういうタイプじゃないって我ながら思っていたが、黙っていられなかった。
「この国は疲弊している…働き盛りの成人男性はおらず、見れば老人女子供ばかりだ…忠義だ大儀だといって、お前たちがすべきことは役割が異なっているぞ…」

「ぬしゃ…きれいごとなんぞ聞きたくないぞ…異国の人間には分かるまい」
 芹沢雁が一命をとりとめてもお銀に大太刀を喰らって重傷の状態で険しい顔をして応える。

「悪いけど、きれい事の一つも言いたいね…本来先頭に立つべき人間が居ない中で、その役目を本来すべきでは無い人材を向けてその代わりを成すなんか飛んだ茶番だ」

 オレは天誅組の芹沢に向かって言う。
「子供は未熟がゆえに教育に従事しなければ、社会を形成する力にならない…お前は何のために戦うんだ?」
「そのような事決まっているではないか…我等天誅組は『正義』を執行する」

「天誅組の正義は何だ?」
「人心の平穏と秩序の維持だ」
「人を斬るのが?」
「秩序を乱す輩は成敗し、天誅を持って粛清する」
「お前たちの正義は、破壊と破滅と絶望を加速させる間違った正義だ」
「なんだと?」

「大石内蔵助茜!」
「な、なんだよ?」
「お前たちの主張は、人間の尊厳と自主的な独立、エルフの支配の終焉だよな」
「いかにも」
「そのための討ち死にか?」
「我らが犠牲を持って市民の平穏と支配からの解放こそ悲願」
「何で死して…という前提での悲願なのか?」
「我等後続の同志のために」

「お前たちは皆、自己犠牲が過ぎる…それで何も解決しない…そして本来大人の男がやるべき行動を肩代わりしているだけで、本来の役割から逸脱している…ここに居る全員が本来ここに居るべき人材ではない。思想や概念に支配され、間違った判断で形骸化した思想に憑りつかれているだけだ…だから茶番だって言った」

 エルダリアに残してきた人たちを思い出す。
 肉体の支配で精神も支配した。
 女性上位の社会に対する、オレだけのギフトだと思った。

 雫の力は今発揮出来ない。
 一心同体過ぎて彼女はそこに居るが、その存在をわざわざ意識しない様になった。

 どんな事でも客観視出来なければ、ソレが常識になり日常になり…そして無意識になる。

「これまで維持してきた社会構造を支配者の都合で能力の高い大人を取り上げられてしまったみんなが、それを取り戻そうとして無理をしている…だが、侍の本来の死生観は、そんな単純なものじゃないと思うぞ」

「我等はこれでしか生きていけないのだ」芹沢雁が執着して語る。

「考えるのを止めて、現状を維持しようとするのは止めてくれ…あと、改革に自己犠牲というのもダメだ誰かのために犠牲になる行為は一見立派に見えるけど【他人に責任を押し付けている】とも捉えられる面もあるぞ」

「で、ではどうすればいいのですか?」茜が困惑して尋ねる。

「エルフの絶対的王、勇者と呼ばれたアルヴァは倒れた…何世代も続いた支配構造は壊れている。オレをその山門の向こうに行かせてくれ」

 誰も何も言わなかった。
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