愛玩洞窟〜汝洞窟を愛せよ、奥に深く深淵に

黒船雷光

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ジパング編

世界樹の衷心より

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【羅生門】と掛かった山門の前、お銀の一撃を鎖帷子で防ぎつつもアバラの数本も折れて苦しそうな天誅組の芹沢雁が立ちふさがる。

 女と老人で結成された赤穂浪士と年寄りと子供で構成された天誅組。
 どう考えてもいびつな構造に、オレはうんざりしていた。
「大人(の男性)が居ないこの戦いは代理戦争にもなっていない…古い慣習に盲目に従う意地の張り合いだ…本来ここに居るべき大人は…何処に行った?…エルフが駆り出しているんだろう?」

「だからこそ我らは搾取され虐げられる社会を変えようと立ったのだ」
 八咫烏の小夜が言う。

「そのために同じジパングの民同士が諍い合ってどうする?それこそ力を合わせるべきだろう?」

「その様な世迷言、お主のご都合主義の押し付けではないか」
 少年に支えられて立っているのがやっとの芹沢雁がなおまだ食らいつく。

「それは、お互い様だろうが!悪鬼羅刹と恐れられる粛清集団が引退直前のおっさんと、子供かよ…最悪じゃねえか!」
 俺も年を取るとこうして自分の意見を変えられないおっさんになっていくのだろうか?

「我が失敗は我が責任なり…かくなるうえは、腹を切って…」
「それを本気で言っているのか?」
「なんだと?…貴様武士の本懐を愚弄するか?」
「お前こそ、己が命を愚弄しているだろ…この国の人間はみんなそんなに死にたがりか?」

「恥をよしとしない。人は一人では生きておらぬ…人を動かすのは意志である。そしてその決定は守らねば秩序は乱れよう…そのために命を懸ける」

「途中からおかしいだろ?…人を動かす意思は大切だが、失敗が『死』とか極端だろ…失敗は次の成功のための糧だ…死んで誉とかそんなもの生産性が低すぎる。ましてや成年男子が搾取されて不足しているなら、何よりも生き延びることが先決じゃないのか?」

 ずっと気になっていた…オレが知っている日本人の誉れ…それは、唯々死こそが誉などとは言っていないはず…だが、必死、決死、真剣勝負…死にまつわる用語が多いのも実際ある。
 覚悟は必要だ…退路を断ってそこに賭ける決意もあるだろう。だが、実際に死ぬのはただのリセットだ…

 つまり、都合の悪いものを死の栄誉で途絶えさせる…
「そこを利用されているのか…」

「汝良く気付かれた…流石我が主…その様である」
 っと珍しく雫が口を開く

「聞け、ジパングの民よ…我は『月下の雫』なり…太鼓より世界の理を監視するモノ。そなたたちは深層的な部分で意思をコントロールされている」

「こんとろーる?…考えを操作されているということですか?」
 小夜が門の結界を解きながら聞く。

「アタシはどーでもええっちゃけどな…ただ、シェル様との絡み合いはばり楽しかったばい。付いていけばもっとオモロイもんが見れると思ったけん、ついてきただけやけんな…」
 お銀は…まあ、マイペースだよな…彼女ほどの女傑は、一人でも生きて行ける…そういう意味では性別や立場だけで語るべきではないのかもしれない。

「ウチは…内なる本能が、この男について行けって…まあ、助けてもらった恩もあるしやけんね」
 アカツキは山賊として生きていくのは限界で、狼を捨てて犬になった感は若干あるな…

「ここに居るシェルが打ち破ったアルヴァはこの国の王であった…その強力な意思とそれを支える世界樹のマナがお主たちを搾取される立場にありながら従順であるように仕組まれていたと言える…だが、アルヴァが倒れたことで小夜の様なこの国の支配者は間違っていることに気づき行動を起こすことになった」

「では、私たちは間違っていないのですね?」
 まあ、オレ達を待って行動を起こしたこと自体はな…多分。

「山門からは良くない気が…忌避感が働き諍いが起きて自滅するように仕向けられている」
 雫は何かを感じてマナを読んでいる。

「解けました…開きます!」小夜が山門結界を解除し門が開く。
 目に見えない結界が解放霧散されていく。

「ま、待て!天下人に会うつもりか?!ソレは成らぬ!……祟りを喰らうぞ!」
 芹沢雁が叫ぶ。ソレは自ら阻止し損ねた慚愧の声では無く、純粋にオレ達を心配する声だ。
 だが、オレ達はそれを聞いて立ち止まるような状態ではなかった。

 小夜が先導し、オレ達は揃って「羅生門」を潜る。
 オレと雫、アカツキにお銀が続く。
 陰ながらサユリとラカスタ達も続く。

 その先は巨木の根がトグロを巻いてその上に苔むしる原生林の様な静寂の支配する光景が広がっている。

「強力なマナをが空間に渦巻き満ちている」
 雫は少し困った様な顔をする。

「どうした?」と横に歩み寄ると強烈な眩暈がオレを襲う。
 な、何だこれは…思わず膝をついて項垂れる。

「マナ酔いだ我が主人気を確かに…」

 雫はオレの顔に手を添えると、ゆっくりとキスをする。頭の中のどんより巣食う不愉快な感覚が…目眩を起こさせる感覚が晴れる。
 近くで見る雫は変わらず美しく愛らしい。
 いかん、周囲を見回すと…アカツキとお銀が倒れ込んでいる。
 それどころか、裏陰陽師の小夜でさえ意識を飛ばすような状態ではないものの、尻もちをついて座り込んでしまっている。

 濃密なマナに充てられて、体内の気の循環が乱れるのだ…
 雫が意図的に接吻でオレの体内の気の流れをマナを通して整えてくれたことで、オレは復活できたが…

 マズイ…サユリとラカスタ達も無事では済まない可能性が高い。
「サユリ!……カイラ!」呼んでみるが…返答がない。今まであれば即答で、傍に現れるはずが……ドサリ…と音がするので見てみると、ラカスタ達が倒れ込んでいる。

「申し訳ございません、シェル様」
 オレの横にサユリが膝をついて控えている。
 忍び装束のサユリは苦しそうだが、どうにか平静を保っている。
「お前は…多少の耐性がありそうだな…」
 サユリは目を伏せて悲しそうに言う。「はい、私はハーフ故…」
「そうか…、よし、とりあえずこっちに来い」そう言って抱き寄せると、頭巾を剥ぎ取り彼女にキスをする。
「んんん!?んふぅ」
 顔を離すと…トロンとした顔を見せてから、ハッと気づいたようで「シェ、シェル様あ、ありがとうございます」
 ふむ…どうやら彼女たちにも同様にマナを共有してもらうためにキスは有効である。

 よし、ラカスタ達にも俺から近寄ってキスをしてみると、辛うじて回復する。
 しかし完全とはいいがたい。サユリと同様にとはいかないらしい…

「カイラ…良く聞け。お前たちは戻り、大石内蔵助茜たちが再び斬り合いを起こさないように監視しておけ…」
「しかし、シェル様…我らはシェル様の護衛です」
「大丈夫だ…ここから先はジパングのメンバーで全てを解決していく」
「わ、分かりました…ご武運を」


 ラカスタ達を見送り、小夜を助け起こす。
「大丈夫か?」「はい…八咫烏の力を見くびらないで下さい」
 とはいえ、やはり万全とは言い難い。ここはひとつ…
「お、お待ちください!!わ、私は…その……年頃の男性との接吻は…」

 ああ、そうか…
「ナルホド…初キスは自分の想い人と…ってヤツか?」
 小夜は顔が分かりやすく赤くなる。

 …が、

「時間が無い!これより効率のいい方法がないなら悪いが!」
「え?!い、イヤ!」
 問答無用で口を俺の唇で塞ぐ。
「ふんぐぅ~!!」
 オレとの直接粘膜接触だ…まあ、普通の女性ならソレで即落ちだ…が、彼女は耐えきった。

 パッチーン!!

 彼女は怒りに任せてオレを引っ叩く…イタイ!
「乙女の純情を…赦しません!」
「元気になったじゃないか…」
「え?」オレを全力で引っ叩く動きは、完全に自由になっている証拠でもあった。

 次はアカツキとお銀だ……
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