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玲瓏院の一族
【四】大学②
しおりを挟む学食へと向かい、僕はかけ蕎麦にイカ天をトッピングしてもらった。昔ながらの食券で、好きなおかずをのせてもらえる。
列を抜けて昼食を手に、僕は空席を探した。
すると窓際の一人用の席が空いていたから、静かにそこへと向かう。
椅子を引き、座ってから僕は、割り箸をわった。
「だけど、火朽って良い奴そうだよな」
声が聞こえてきたのはその時で、何気なく視線を向けると、椅子をひとつ挟んで向こうに並んで座っている、男子学生が二名で雑談をしていた。宮永と時岡だ。この二人も、僕と同じで、夏瑪先生のゼミだ。
大抵二人は同じ講義をとっているらしい。南方と楠原は女子だから別として……高校から同じなのに、僕は彼らに昼食を誘われた事は、実を言えば一度もない。僕には童貞だけあってカノジョは勿論、女友達……どころか、男友達さえいないのである。悲しい現実だ。
皆、『玲瓏院家の御子息とご一緒するなんて、畏れ多い』と言う。
しかしそれは、僕から見ると、“ぼっちで過ごせ宣言”に等しいし、避けられている気分にしかならないし、イジメでさえあると感じる。ゼミには、他にもう一名、他の高校から進学してきた、日之出くんがいるが、僕は彼とも親しくはない。日之出くんは、ちょっと……なんていうか、風変わりだから、率直に言えば苦手だ。
合計六人のゼミにおいて、女子二名・男子二名・僕・日之出くんという、無言の親しさによる壁が存在している。
「わかるわ、時岡。火朽って、人当たりも良さそうだしな、話してて印象良いよな」
カツ丼を食べながら、宮永が時岡に対して頷いた。
すると時岡が、本日のAランチである生姜焼き定食を食べながら、満面の笑みを浮かべる。
「今度、昼飯に誘ってみるか」
「良いねぇ。俺、大歓迎だ。時岡、来週のゼミの後にでも誘えば?」
「そうだな。ま、ゼミの後なら、遊びにでも誘うか?」
「うん。そうしよう。俺、その日はバイトないし」
「宮永は、今も居酒屋か?」
「そうそう、ホール」
その後、二人は雑談に興じ始めた。僕は蕎麦に視線を戻し、項垂れる。彼らが、僕を誘ってくれる日は、きっと来ないのだろう。もしかしたら僕は、『話していて印象が悪い』と思われているのかもしれない。
憂鬱な気分で嘆息してから――僕は、改めて疑問に思った。
ゼミの後に誘うと話していたけど、火朽くんって、一体誰なんだろう?
ゼミの後は、本来五限の時間だが、夏瑪先生のゼミの六人のメンバーは、誰も講義を入れていない。だから、多くの場合は、そのまま教室で過ごすか、先生の教授室にお邪魔して、貴重な民俗学の文献などを、みんなで見せてもらっている。
その場にいる事に対しては、誰に何を言われるというわけでもないから、僕は自分が嫌われていないと信じたい。きっと、『玲瓏院』という名前が悪いのだと思いたい。ただ、現実としては、僕側にも「一緒に遊びに行こう」と誘うような積極性がゼロだから、僕も悪い。
教授室には、よく院生も顔を出す。
ゼミ後に顔を合わせる、ゼミ以外の人物といえば、そうした先輩くらいのものだ。
大学院に他大から来た人物ならば、僕が知らない可能性も高い。
――きっと、火朽という人は、大学院生なのだろう。
そう考えながら、僕は食後、ゼミに臨んだ。このゼミは、持ち回りでレジュメを用意し、十五分程度発表してから、ディスカッションをするという、文献研究を主体とした授業内容だ。
本日の発表者は日之出くんである。
彼は……男なのだが、長いストレートの銀髪をしている。
前髪が長すぎて目元は見えない。さらに、女子学生のように、化粧をしている。
真っ白いファンデーションに、普通の女子がつけているのは見た事が一回もないような、真紅の口紅をぬっている。女装ではない。彼はこの外見が趣味らしい。見た目からして、奇を衒っている彼は、魔術が趣味だそうだ……。
本日彼が選んだテーマは、古典的怪奇小説の中で題材にされた中世の魔術について、らしい。一応民俗学のゼミなのだが、僕は常々、日之出くんは他の大学の文学部で、幻想文学か何かを専攻するべきだったんじゃないのかなと考えている。
何かと(見た目からして)不気味な日之出くんではあるが、僕も含めて、もうみんな慣れてしまったから、誰も何もツッコミを入れたりはしない。
このようにして、ゼミの時間は流れていった。
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