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ブラックベリーの霊能学
【三十九】特技②
しおりを挟むこれに関しては――僕は、三つの理由で得意だった。
一つは、幼い頃から玲瓏院家の修行の一環で、人間ならざる者を相手にする際に、心を読ませないようにするというものがあった。
話によれば、”覚”という妖怪でも出現しない限り、僕の心は偽装可能らしい。偽装し、頭の中で、『明るい状態』の時の自分の感情を再現する結界を、いつでも想起可能な数珠を、僕は足首につけている。
二つ目は、『さすがは玲瓏院家の人間だ』と言われながら、育ったからだ。
それは僕が実力で得た評価ではない。たまたまそこに生まれただけだ。
だけど――僕は、玲瓏院の人間として扱われる事に慣れ、同時に、玲瓏院家の人間らしい表情をする事も覚えていったから、他者の反応を見て、自分の言動を偽る事が可能だ。自分を取り繕っていない人間のほうが、僕は少ないと思う。
ただし、重要なのは、三番目の理由だ。
最後の理由――それは、僕がボッチであるという事実だ。
いつも遠巻きにされ、教室に一人でいても、僕はそれでも……寂しさなど感じない顔をして生きてきた。僕は、兄の絆とは違った方向性で、プライドが非常に高いのだと思う。
兄が求めるのは、社会的な評価や賞賛だ。
僕が求めるのは、社会性の欠如を指摘されず、適応していると周囲に信じてもらう事。
つまり、誰にも寂しいだなんて、思われたくは無かったのだ。
友達が一人もいないとしても、僕は悲しいなんて知られたくはなかった。
意図して距離を作っていると、みんなに考えて欲しかった。
このように――僕は、大嘘つきである。
そんな僕は、火朽くんを前にして……どうやって明るい方向で笑い飛ばすか、及び、人間扱いをするか考えた。僕が幼い頃にみた狐火……よりも、明らかに禍々しい炎が、その時、小会議室を埋め尽くしていたからだ。
そもそも、見えなかった人間が、見えるようになったという出来事だけならば、その現象に説明をつけるのは、非常に簡単な事だ。嘗ての昼威さんのように科学的知識があるわけではない僕であっても、理屈抜きで理論化可能な言葉がある。
「手品!」
そう、手法は不明だったが、目の前の現象は、手品だったのだ。
そんなはずはないが、そうする事で、さらには笑い飛ばす方向にも繋がる。
見抜けなかった滑稽な僕は、項垂れる。
その後僕は、必死に、火朽くんに対して、手品の実験をしていたんだねと繰り返した。
そうしながら、禍々しい炎の納め方を考えていた。
思いつかない内は、存在しないものとして、扱うしかない。
心を読まれないように気を配りながら、僕は必死に、怪訝そうな顔の火朽くんに対して、『手品』だとか、『火朽くんは人間だ』とか、頑張って繰り返した。そうしつつ、狐火への対応を考える。考えながら、なるべくツッコミどころ満載の発言を繰り返した。勿論、笑いを誘うためだ。
だが、僕が何もしていない内に、次第に炎は見えなくなっていき、部屋には僕と火朽くん以外は、いつもと同じ風景が訪れた。火朽くんが僕を見て微笑したのは、その時だった。
「改めまして――僕は、火朽桔音といいます」
この時、周囲に残っていた禍々しい炎も完全に消失した。
その後僕は、他の多くの他者――人間に対するのと同じように、火朽くんへと、頑張って笑顔を向けて挨拶を返した。
それまでの険しく冷たい顔が嘘だったかのように、火朽くんは穏やかな人物で、聴き心地の良い声音と、優しそうな瞳、良い人さが滲む唇を時折動かしながら、僕を見ていた。
しかし僕は、彼が良い人だとは思わない。それは、人間ではないから、ではない。
何せ僕が初対面だった先ほどの、冷ややかすぎるあの眼差しは、完全に怖い人だった。
狐火といった有害な現象よりも、実在する性格が怖い人間の姿をしている相手の方が、蚊子に通じる、実害をもたらすといった意味での、良くない存在だ。
なるべく関わらない方が良いだろう。今日のこの場だけは、笑顔で雑談を乗り切り、明日からはそれとなくそれとなくそれとなーく、刺激しないように距離を作っていき、関わらないようにしよう。
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