ブラックベリーの霊能学

猫宮乾

文字の大きさ
40 / 73
ブラックベリーの霊能学

【四十】特技③

しおりを挟む



  僕はそう誓いながら、この日の打ち合わせ時間を乗り切り、時計を一瞥してから、雑談を打ち切って外へと出た。そしていつもならばバスに乗るのだが、一刻も早く安全地帯に避難したかったので、玲瓏院の車に迎えに来てもらい、後部座席へと乗り込んだ。

 後部座席に乗り込むと、緑色の紋付姿の縲が、僕を一瞥した。

 「珍しいね、いつもは目立つからと言って車を呼ばないのに」

  父の声に、僕は俯いて大きく吐息した。兄という方がしっくりくる外見の若い縲ではあるが、それでも僕の中では、一応は頼りになる父親だ。実際の血縁関係は問題ではない。

 「縲、聞いて。さっきね、狐火が出たんだ」
 「狐火?」

  僕の声に、縲が首を傾げた。

 「霊泉学園大の中に?」
 「うん。民族学科準備室のそばの小会議室の中全部を埋め尽くすみたいに、ぶわって」

  今になって信じられない気持ちが浮かんできて、僕は吐き出すように、見たままを縲に語る。すると、父はスッと目を細めた。

 「おかしいね」
 「でしょう? 心霊現象なんてあるわけが……」

  僕が呟くと、いつもは笑顔の父が、真面目な顔で腕を組んだ。

 「――うん。霊泉の構内には、玲瓏院で各所に結界を構築しているから、大学の中で心霊現象や怪奇現象が起こるなんて事は、基本的にはありえないね」

  それから縲は、改めて僕を見た。

 「危険性が高いと感じたら、すぐに俺に連絡をするように」
 「うん……だけどさ、縲」
 「ん?」
 「僕、縲がお祓いとかをしている姿、一度も見た事が無いんだけど」

  僕の言葉に、縲は顔を背けた。窓の外を見ながら、引きつった笑みを浮かべている。
  縲は、見えるや感じると語った事すら、一度もない。

  心霊協会の役員をしているのは、玲瓏院家の当主だからであり、入り婿である縲は、実を言えば、”一般人”だと囁かれているし、幼い頃から見てきた僕も、父は僕以上の一般人だと思う。

 「ほ、ほら! 俺は顔が広いから」
 「それは、接待で出かけた先のキャバクラ的な意味で?」
 「た、確かに俺は本指名はしないから、沢山の夜の蝶の連絡先を知っているけど、それとこれとは話が……」

  僕の声に、縲が焦ったように言い訳をした。

 「まぁ、近いうちに、新南津市全域の、本物の玲瓏院結界を構築し直す予定だから――一斉浄化の時期だからね。そうすれば、弱い妖魔は全て消滅するし、それでも生き残るような存在も、外に出るのは困難になるから、協会総出で、一体ずつ倒す事になるし。それまで、その『火朽くん』という存在が残っているようだったら、本格的に強制除霊すれば良いかな」

  縲の声に、僕は曖昧に頷いた。
  もうすぐ、四十九年に一度行われる、浄化の日が来るというのは、僕も聞いていた。

  僕には存在すら疑わしいが、嘘か誠か、市全域――この盆地を覆っているらしい結界を、修繕し、再構築し、張り直す作業を行うと聞いている。昔は玲瓏院家が単独でこの作業をしていたそうで、大昔に偉人が認めた理由であり、以後も続けるようにと指示したという経緯があるらしい。

  現在では、玲瓏院家に限らず、分家筋や、心霊協会に所属する人々総出で行っていると聞く。

  ただ――僕が知る日程だと、それはまだまだ先の話だ。

  なおこれは、ごく一部の人しか知らない事だし、決して家族外には話してはならないと言われている。問題は、それまでの間、僕がどうやって火朽くんと付き合っていくかという事だろう。

  その後帰宅し、僕は大学への明日からの持ち物の中に、これまでの人生ではあまり効果を感じた事はないが、玲瓏院ゆかりのいくつかの品を加える事に決めた。

  そしてゆっくりとお風呂に浸かって、眠った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...