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新しい季節
【六十五】神隠れの宴①
しおりを挟む獅子舞は、夜の十時から行われるという。
これもまた珍しいなと、火朽は考えていた。多くは、日中に行われるからだ。
そうでないものは、夜通し神社などで催される事が多いという知識がある。
――しかしこちらも、夜通しである点は同様らしい。
既に帰りのバスは無い。二人が乗ってきたのは、最終のバスのひとつ前のものだ。
獅子舞が朝方の四時まで行われるというのが、主要な理由だし、もし帰宅する場合は、玲瓏院家の車が迎えに来てくれると、火朽は紬から聞いていた。
こうして十時の十分前頃、二人は開けた場所に出た。
既に開始の間際であり、獅子舞の準備は整っているらしい。
点々と並ぶ松明を見回してから、火朽はスッと目を細めた。
その場にいる人間は、古くからこの地域に暮らす者が多い。
かなり古くから、である。それこそ、昭和に入ってから越してきた人間などは、まだこの獅子舞では、部外者として扱われるようで、本来立ち入る事が許されない家のようだった。特例は、霊泉学園大学の学生らしい。火朽がここへと足を運ぶ事が許されたのも、それが理由だ。
理由は、怪異への耐性の有無だろうなと、火朽は判断していた。
それが、『人間側』の状況であり、獅子舞を演ずる人々を除けば、その場には約四十名程度の人間がいた。火朽が目を細めたのは、『人間以外』の姿を確認しての事である。
四百はいるだろう。人ならざる存在は、人間の数より、ゼロが多く、その場に存在している。それも、低級な弱い妖魔ではない。そうであるならば、紬が歩けば自然と消し飛ぶだろうが、ここにいる妖自体が、紬には見えていない様子だった。
多くが、禍々しい力の気配を押し殺している。
魔を祓うはずのその場に、溢れているのは、魔に属する存在ばかりだ。
夏祭りの夜の林に多くいた妖狐達よりも、おどろおどろしい。
「獅子舞が終わったら、全ての松明を消すんだ。それで、神隠れの面を元の社に安置し直したら、朝まで暗闇の中で過ごすだよ」
「獅子舞は、何時まで行われるのですか?」
「二時だったと思う」
丑三つ時かと、漠然と火朽は考えた。此処に集う、人ではないものの側の、力が最も強まる時間帯だ。
「実は僕も、二回しか来た事が無いから、あんまり詳しくは知らないんだよね」
「その時は、誰と一緒に来たんですか?」
「一回は、お祖父ちゃんと絆、もう一回は、藍円寺の享夜さん。享夜さんは、行きたくないって半泣きで、僕を連れ出したんだ」
「――嫌なら、行かないという選択肢は無かったんですか?」
「うーん。昔から、一人は玲瓏院の関係者、本家か分家、もしくは親戚の誰かが出ないとならないんだって。今年は僕が行くと話したから、みんな気楽そうだったよ」
それを聞き、何度か火朽は頷いた。二人が座ってすぐに、獅子舞が始まった。
本来であれば、開始すれば、魔の存在は遠ざかるのが常だ。
しかし――次第にその数が増えていく。五百、六百、七百、八百……数え切れない。
集まってくる魔は、品定めをするように、客である人間の周囲を彷徨いている。
誰にも見えていないようだった。紬も含めて人間には、誰も。
口しかない神隠れの面が動く度、火朽にはその牙が、人間の血肉を欲しているように感じ取れた。うねる胴体は、人間の体を拘束し、この場所から逃さないようにするための闇に見える。蠢く黒い闇だ。
獅子舞よりも、火朽は周囲の観察に熱心になった。
理由は、紬を喰べたそうに見ている妖魔が多いからである。
火朽がそばにいるから近寄る事が出来ないようだったが、それが皆、悔しそうだ。
――喰べる。吸血鬼でなくとも、人間を食べる事が可能な存在は多い。
むしろ、食事の仕方が綺麗なだけ、生命を奪わないだけ、ローラなどはマシな方なのかもしれない。
彼らが共通して求めているのは、人間の霊能力と呼ばれるような力だ。それらが宿る血肉は、人に害なす、人を餌だと思うような種族にとっては、非常に美味だと火朽は聞いている。つまり、この場にいる中で、玲瓏院紬など、最高のご馳走の一つだ。
獅子舞が終わり、神隠れの面が安置された時――松明が落ちると同時に、周囲に甘い香りが満ちた。花の香り、椿を彷彿とさせる匂いだと、火朽は考える。
――確か、名称もそのままで、椿香という名前だったはずだ。
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