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しおりを挟むもし自分が二人目の日和の死を黙秘していたことが間宮に知られたならば、どうなるのだろう。そんな恐怖に駆られながら、夕日の差し込む子供部屋の扉を務は開けた。
そこには未だお絵かきをしている様子の二人の姿があって、それが更に焦燥感をかき立てる。いやそれは嘘だ。ヒワは、クレヨンを握ったまま眠っていて、画用紙によだれが水たまりを形成しようとしていた。
一方の微睡んでいた様子のアイリが、入ってきた務に気がついて立ち上がる。
「アイリ……」呟いて、務はその幼い身体を抱きしめた。
するときょとんとした様子でアイリが首を捻る。2つに結んだ髪が揺れ、務の頬を撫でた。
「アイリじゃない」
だが、続いた声に、膝で床の上に立っていた務は瞬いた。
「アイリじゃないよ。有紗だよ」
「アイリ、何を」
「アイリじゃない。良和がそういえって言ったの。本当は、有紗、有紗だもん」
その瞬間怖気が走り、務は彼女を突き飛ばしていた。
「また、殺すの?」
響いてきた言葉に、目を見開き、務は舌打ちして立ち上がる。
確かに年々感じてはいた。幼い少女二人が、見知った姿に近づいていくことを。
吐き気を催し、務は部屋の外へと出た。
吐瀉物が唇からこぼれ落ちそうになる。
それでも、間宮に第2の日和の真相を知られたらどうしようという不安の方が、アイリの口から出た冗談よりも深刻で、ただ、吐き気だけが現実感を伴って身を苛んだ。
お手洗いへと駆け込む。
便座を上げ、音を立てて嘔吐した。
それでは足りずに、便器の蓋を開けはなったまま、人差し指を喉の奥へと押し込んで、嗚咽する。はき出したかったのだ、何もかも。違和も、不快感も、全て全て。
酸味を纏った液体が舌を覆い、真実など何処にもないのだと告げる。鼻までその異臭は突き抜け、身体の感覚を奪っていく。痛み、苦痛、けれどそれらより、酸味ばかりが身を苛む。
目眩がした。視界が鮮明には成らない。
そのまま突っ伏す。床に額を押しつけた時、頬に便器の冷たさを感じた。白い陶器の無機質な温もり。嗚呼。涙は出ない。
務は目を伏せ、有紗のことを思った。それがどの有紗のことなのかを自覚しないまま、瞼の裏がもたらす闇へと飲まれていく。
死んでしまいたいと、確かにその時務は思った。
次に目を覚ました時、彼は、頬に床の模様が食い込んでいることを意識した。
おずおずと立ち上がりお手洗いから外へと出て、通路の窓から空を眺めると、そこには星空が広がっていた。向かいの火力ゴミ処理場の二階には、明かりがともっている。
未だ間宮や焔紀達はあそこにいるのだろうかと考えていたら、無意識に外へと歩み出していた。
階段を上り、カラス張りの壁がある二階へと向かう。
何時も惰眠をむさぼる部屋だ。
果たしてそこには人影はあった物の、日中会合した焔紀達の姿はない。
「なんだ務か。どうした、顔色が悪いな」
巨大なダブルベッドに横たわったまま、間宮が首を上げる。
しかし、務はそこで繰り広げられている光景に、言葉を発することが出来なかった。
間宮の腕に頭を預けてただ眠るヒワの姿は、別に良かった。
けれど彼の男根を必死に咥えるアイリの姿は、許すことが出来ない物だった。
「何をして……」
「何を? 見れば分かるだろ。それより、俺こそお前に訊きたいことがある。お前は一体何時焔紀と会ったんだよ」
「アイリに何て事を、させ――」
「あいり? 誰だよそれは。有紗だろ、見れば分かるだろう」
「何を言って……有紗は死……お前に殺され……」
「ああそうだな、だから、だからだよ。またお前と俺が元の通りの関係に戻れるようにクローンを作ってやったんだろ」
高らかに声を上げて笑いながら、間宮がアイリの後孔に指を伸ばす。苦しそうに呻いた少女の瞳から、生理的な涙がこぼれるのを、務はただ見ていた。膨らみも未だ無い胸の双丘には、金色のピアスがそれぞれ装着されている。彼女の秘部からは、男根を模した太い機械が宙を目指して伸びており、間断なく振動していた。アイリは時折苦しそうに顔を歪め、けれどたまに神妙な顔つきになり、身体を震わせるのだった。その度に首にはまった銀環の中央部に点る緑色の光が明滅する。
「何て事を……」
「何て事? 二度も日和を殺したお前に言われたくないな。焔紀に訊いたよ、この人殺しが」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ」
気がつけば、務は寝台へと飛び乗り、間宮の首元を掴み上げていた。
「そうやって俺のことも殺すのか? 出来るのかお前に」
「黙れ」
「俺が何のために有紗を蘇らせたと思う? お前に苦痛を味あわせる為以外の理由があると思うのか? 見ろよこれ、なんだと思う?」
つかみかかられているにも関わらず余裕の表情で、間宮は傍らのチェストの上から、ボタンが付いた小さな立方体をたぐり寄せた。何らかのスイッチらしきそれと、間宮の顔を、務は交互に睨め付ける。
「これを押下するとどうなると思う? 有紗の首にはまってるその輪はなんだと思う?」
「知るかよ」
「爆弾さ。見物だろうな、首から上が吹っ飛ぶお前の妹。腐るのとどっちがマシだ?」
そんなことを言われながらも、ただ一心に、懸命に、アイリは間宮の男根に舌をはわせ続ける。いたたまれなくなり、務は彼女の身体をベッドの外へと突き飛ばした。
「なぁ務。目の前で妹が吹っ飛ぶのはどんな気分だ?」
「巫山戯るな、冗談も大概にしろ」
「冗談? この俺が、この状況で、冗談をつくだなんて本気で思ってるのか? おめでたい奴だな」
「今まで一緒に、あんなに大切に育ててきたのに」
「当たり前だろ、お前への復讐のための大切な材料だったんだからな。選べよ務、俺がこのボタンを押して、そいつの首が吹っ飛ぶのを見るかどうか」
「止めろ、止めてくれ」
何とか間宮の手からスイッチを奪おうと務は腕を伸ばしたのだけれど、楽しげに身体をよじった間宮にそれを阻まれる。
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