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―― 第三章 ――
【第二十一話】友人
しおりを挟む訓練室に行くと、円城保が自動販売機の前に立っていた。
「あ、昼斗」
二十五歳と、三つほど年下ではあるが、保は気さくにいつも昼斗の名を呼ぶ。同じパイロット同士という事もあり、昼斗も気にしていないので、視線を向けて返す。保は、基地の中が忙しなくなっても、昼斗に対して態度を変えない、数少ない人間だ。他にも、環や瀬是も態度を変えるわけではないが、歳が最も近いパイロット同士という事も手伝い、昼斗にとって保は、一番の〝友人〟と言える。
「なんか眠そうだな?」
「そうか?」
「おう。あと、なんか今日は雰囲気が違うねぇ」
保はそう言ってまじまじと昼斗を見てから、唇の両端を持ち上げた。右目の下には泣きボクロがある。緑味の強い色に染めている髪を結っている保は、切れ長の目をしていて長身だ。よく日に焼けた浅黒い肌をしていて、首元には金や銀のアクセサリーをじゃらじゃらと身に着けている。
「なんかいかにも、『童貞を捨てました』みたいな顔してるけど、何かあったのか?」
「へ?」
「――艶っぽい」
「誰が?」
「お前が」
「……」
心当たりは、無くはなかった。瞬時に昴の事を思い出し、昼斗は赤面しそうになったから、誤魔化すように自動販売機の商品を見る。温かい商品の列を、買う予定もないのに目で追った。だがその耳が朱いのを、保は見逃さなかったようで、ニヤリと笑った。
「お相手は?」
「別にそう言うんじゃない」
「ふぅん? まぁ、無理には聞かねぇよ。しかし大丈夫なのか? 軍法会議で監視がついたタイミングで、夜遊びなんて」
「だから、そう言うんじゃない」
「はいはい。あれ、今日は監視の瑳灘大佐は? 煙道司令のところか?」
「そうらしい」
無表情で頷いた昼斗に対し、頷き返してから保は手にしていた缶のコーンポタージュのプルタブを開けた。
「二十三歳世代は、本当に多いなぁ。俺だけ二十五だ。もう歳だ」
「俺なんて、二十八だぞ……」
そんなやりとりをしつつ、昼斗は考えた。現在、基地には、遺伝子をコーディネートされた若年層を除くと、それよりも上の世代は、古の世でいう定年間際……六十代より上の者が、軍人には多いという現実を。この十年の間に、中間層の多くは戦場で亡くなってしまった。江戸時代には、三十歳に入れば、老人という扱いを受けたと、昼斗は大学時代に雑学本で読んだ記憶があったが、今のご時世は、それに近い。人類の数もどんどん減少している。このままいけば、そう遠くない未来に、人類は滅亡するだろう。
「生きている内に、ぱぁっと恋をして、人生を謳歌しないとなぁ」
「……保。お前はそろそろ、一人に絞ったらどうだ?」
思わず昼斗はぼやいた。保は、『日替わりの恋人』という概念を、人生に採用していると公言していて、夜毎違う相手とベッドに入っているのだと、昼斗は聞いていた。誰でもなく、本人に聞かされた。保の相手は、老若男女は問わないらしい。一点、未成年だけは不可なのだと、保は過去に語っていた。
「それもそうだなぁ。俺も身を固める時期かもな」
「それは分からないが、誰かいい人がいるのなら――」
「じゃー昼斗が、恋人になってよ」
「何が、『じゃぁ』なんだ……冗談はやめろ」
辟易したように昼斗が答えると、吹き出すようにして保が笑った。
その後は午前中が終わるまで、二人でシミュレーターを用いて、超電磁砲刀の打ち合い訓練を行った。
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