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―― 第三章 ――
【第二十二話】一番の座
しおりを挟む昼食時になり、訓練を終えると、昴が訓練フロアのドアの所に立っていて、環と何やら話していた。保と別れた昼斗がそちらを見ていると、不意に昴がこちらを見た。目が合うと、昴が穏やかに微笑する。なんだかその笑顔に惹きつけられてしまい、昼斗は頬が熱くなりかけた。
「さすがは義兄さんだね、すごい成績だ」
歩み寄ってきた昴の言葉に、昼斗が軽く首を振る。
その後は昼休憩となったので、二人で食堂へと向かった。この日食べたのは鯖の味噌煮定食だったが、どこにも悪戯の痕跡なんてなかった。
窓の外の紅葉は、色づきを増している。本日は曇天だ。
「今日は霜が降りていたんだって」
「そうか」
「道理で寒かったはずだよね」
昴はそう述べてから、ラザニアを食べていた。食後は二人で訓練室がある最上階のフロアへと戻った。そこには保の姿は無くて、午後は瀬是が相手となった。昼斗は瀬是とシミュレーターで、午後は銃撃訓練を行った。
専門の教育を生まれながらに受けている瀬是の技巧は、率直に言って昼斗よりも上だ。初の第三世代機パイロットというのも納得の実力で、黒い髪に紫色の瞳をしている瀬是は、訓練の上では、昼斗に劣った事は一度もない。昼斗も勝とうと思っているわけではないが、かといって手を抜いているわけでもない。だというのに、瀬是には勝てたためしがない。
この日も、やはり世代交代の時期なのだろうなと感じた。今、日本国の真のエースは、紛れもない瀬是だと、昼斗は思う。紫色の瞳というのは、コーディネートされた人間の中にたまに表出する色彩なのだが、澄んだ瀬是の瞳を見る度に、完成された容姿を見て、昼斗は、美しいなと考えている。
その後軍規定の定時が訪れ、昼斗は昴と共に帰宅した。
「やっぱり瀬是は強い?」
マフラーを解いていた昼斗は、リビングに入ってすぐに、昴の言葉で顔を上げた。その声に、思わず口元を綻ばせて、昼とは大きく頷く。
「ああ、彼は強いな」
「そう。悔しい?」
「? どうして?」
「どうして、かぁ。まぁ、強いパイロットが沢山いた方が、この国にとっても、地球にとっても、メリットは大きいけどね」
「?」
「一番の座、奪われてしまうのは辛くはないのかなと思ってね」
「――望んでパイロットになったわけではないからな」
昼斗が苦笑すると、昴が小さく頷いた。
「それは瀬是も同じだとは思うけどね。昼斗と違って、俺や三月、環も瀬是も、自分意思でなく生まれる前から、進路は決定づけられていたわけだから」
その言葉を聞いて、受精段階で考えるならば、自分の方がずっと自由だったのだろうなと昼斗は思った。だから手を止め、少しの間、昴を見ていた。すると歩み寄ってきた昴が、昼斗の事を抱きすくめた。
「仕事の話は終わりにしよう。今日もベッドに行きたい」
「!」
「いいよね?」
この日から、昴による愛の言葉の他に、行為もまた二人の間に加わった。
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