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―― 第四章 ――
【第二十七話】退院
しおりを挟む最先端の医療技術の恩恵を受け、体の負傷自体は数日で治癒し、昼斗の退院する日が訪れた。ほとんど荷物は無い。基地内の病院の前に立ち、遠目に見える山の紅葉ももう終わりだなと考えながら、昼斗は冷たくなった風に髪を揺られていた。そこへ車を回してきた昴が、正面に停車する。昴は毎日、面会に来てくれた。
後部座席に荷物を積んでから、助手席に昼斗が乗り込むと、音もなく車が走り出した。
「退院おめでとう」
「ああ」
「パエリア、用意してあるよ」
そういえば出撃する日に、そんな話をしたなと、昼斗は幾ばくか懐かしくなった。車内での昴は〝いつも〟の通りで、昼斗にあれやこれやと雑談を振る。最初はあんなに戸惑っていたはずで、扱いが分からなかったというのに、今となっては、昴が隣にいる方が自然に思える事が、昼斗には不思議だった。
軍規定のマンションへと帰宅し、リビングのソファの上に荷物を置く。
そしてマフラーを外していた昼斗を、後ろから昴が抱きしめた。
「もう本当に体はいいの?」
「心配性だな。俺よりも瀬是はどうなんだ?」
「義兄さんよりも軽傷で、とっくに退院したと聞いているけどね。昼斗はお人好しだね」
「無事ならよかった」
回されている昴の腕に、そっと昼斗が両手の指先で触れる。すると昴が、顔で覗き込むようにし、横から昼斗の唇にキスをした。
「ん、っ」
柔らかなその感触も久しぶりだ。昼斗が反射的に目を閉じる。するとキスが深くなった。舌を絡めあい、長い間二人は口づけを交わしていた。
「本当に大丈夫なのか、確かめさせて」
唇が離れた時、薄茶色の瞳に、僅かに獰猛な色を宿して昴が述べた。その瞳を惹きつけられるように見ていた昼斗は、唾液を嚥下してから、頬に朱を差し、視線を揺らした後、小さく頷いた。
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