人型戦略機パイロットの俺は、復讐されるようです。

猫宮乾

文字の大きさ
52 / 67
―― 第六章 ――

【第五十二話】昴 ⑥

しおりを挟む


「――倒した!!」

 管制室に歓声が溢れた。敵の人型戦略機の胴体が真っ二つに分かれ、大破し、破片が海へと沈んでいく。叩ききった昼斗が搭乗するエノシガイオスは、刀を振り下ろした状態で、動作を停止している。敵機が爆発した以上、勝敗は明らかだったが、昼斗の搭乗機の左胸には、敵の大剣が突き刺さった状態で、こちらからも反応はない。

 管制官達が、パイロット――昼斗に呼びかけている声を聞きながら、昴は険しい表情をしていた。反応がない。

 現在、昼斗の搭乗するエノシガイオスは、心臓を貫かれた形で、沈黙している。両腕と両足こそ繋がってはいるが、機体と同一化する身体状況を考えると、パイロットの生存は絶望視するのが明らかな状況だ。

 だが管制室には喜びの声が溢れている。目前に迫っていた脅威が、追い払われたように見えたからだ。その明るい空気、それが昴には理解出来なかった。

 瞬きをすると、昼斗の顔が過ぎる。
 昼斗は普段、あまり笑わない。見た事のある数少ない笑顔、たとえば遊園地へと出かけたあの日の、観覧車の中で浮かべていた笑み、そういったものが、昴の脳裏を過ぎる。

 嫌な汗をかいていた。気づけば、全身に震えが走りそうになっていた。
 死ねばいいと、確かにそう思っていたはずなのに、いざそうなったのかもしれない現状を目にした瞬間、尋常ではない絶望感が襲い掛かってきて、足元が崩れ落ちそうになる。

 両腕で体を抱いた昴は、悪夢を見て泣きながら飛び起きていた昼斗の姿を思い浮かべた。続いて、熱を出した時の、昼斗の事を考えた。本当は繊細なのだと、もうよく知っている。無論繊細でなくとも、昼斗の境遇ならば、精神的に傷を負ってもおかしくはないだろうが、根が優しい人なのだと、共に暮らす内に十分理解していた。監視の任としてそばにいれば、頻繁に見せるくらい瞳にもすぐに気が付いたから、だからこそ逆に、時折見せる僅かな笑みは貴重だった。

 ダラダラと滝のように汗が流れていく。
 昼斗が、死んだ? そう考えると、胸が苦しくて、息が出来なくなりそうになった。
 だが、どうして? それを己は望んでいたはずなのに、なのにどうしてこんなにも苦しくてたまらないのか、自分は動揺しているのか。昴にはそれが分からない。

 孤独感を味わえばいいと思って、ここ数日見舞いにはいかなかった。
 それが今は、どうしようもなく悔やまれる。
 そもそも生きているのが奇跡だというくらいの大怪我をしていたのに、あっさりと搭乗した昼斗の事を想うと、つい『お人好し』と言いたくなる。機体に搭乗した途端に、僅かに計測器の判定上、負傷が癒えたという報告があったが、その理由は不明だ。だが、そうであっても、本来であれば戦えるような身体状態になかったのは明らかだ。

「ついにラムダ皇族が動きましたね。全く、勝手な者達ですね。一枚岩でないとしても、わざわざ意図的に落として地球に与え、急に回収に来るなど、本当にはた迷惑としか言いようがない」

 三月が何かを話している。それは昴にも理解出来た。だが三半規管が麻痺してしまったように変わり、上手く聞き取れない。

「昴? 聞いていますか?」

 無言の昴を一瞥し、三月が双眸を細くした。動揺を露わにしている友人の姿に、三月は嘆息する。

「パイロットの生存を確認しました! 生きています!」

 その時、近隣に控えていた飛行艇から救難に向かった現地の軍人が、コクピットの中で意識を失っている昼斗の姿を視認したという報告が入った。管制室に繋がれた計器から、負傷度は酷いものの、確かにその心臓が動いていて、脳波も確認できるという状況も、モニターに映し出された。

「人型戦略機の回収が可能です。回収後、至急離脱します!」
「速やかに」

 三月が指示を飛ばすと、頷き管制官が現地の軍人達に通信する。
 それらの言葉は昴の耳に入っていた様子だ。
 ――昼斗が生きている。
 そう理解した瞬間、居ても立っても居られず、昴は走り出した。勢いよく扉を開けて、格納庫を目指して走っていく。残された三月はその背中を見ながら、思わず苦笑した。

「義理、というのはともかく、兄弟愛にしては、少し重いように見えますね」

 昴本人よりも、友人の三月の方が、理解したのが早かった。
 昴の気持ち、を。昴の、恋心を。



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...