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―― 第六章 ――
【第五十二話】昴 ⑥
しおりを挟む「――倒した!!」
管制室に歓声が溢れた。敵の人型戦略機の胴体が真っ二つに分かれ、大破し、破片が海へと沈んでいく。叩ききった昼斗が搭乗するエノシガイオスは、刀を振り下ろした状態で、動作を停止している。敵機が爆発した以上、勝敗は明らかだったが、昼斗の搭乗機の左胸には、敵の大剣が突き刺さった状態で、こちらからも反応はない。
管制官達が、パイロット――昼斗に呼びかけている声を聞きながら、昴は険しい表情をしていた。反応がない。
現在、昼斗の搭乗するエノシガイオスは、心臓を貫かれた形で、沈黙している。両腕と両足こそ繋がってはいるが、機体と同一化する身体状況を考えると、パイロットの生存は絶望視するのが明らかな状況だ。
だが管制室には喜びの声が溢れている。目前に迫っていた脅威が、追い払われたように見えたからだ。その明るい空気、それが昴には理解出来なかった。
瞬きをすると、昼斗の顔が過ぎる。
昼斗は普段、あまり笑わない。見た事のある数少ない笑顔、たとえば遊園地へと出かけたあの日の、観覧車の中で浮かべていた笑み、そういったものが、昴の脳裏を過ぎる。
嫌な汗をかいていた。気づけば、全身に震えが走りそうになっていた。
死ねばいいと、確かにそう思っていたはずなのに、いざそうなったのかもしれない現状を目にした瞬間、尋常ではない絶望感が襲い掛かってきて、足元が崩れ落ちそうになる。
両腕で体を抱いた昴は、悪夢を見て泣きながら飛び起きていた昼斗の姿を思い浮かべた。続いて、熱を出した時の、昼斗の事を考えた。本当は繊細なのだと、もうよく知っている。無論繊細でなくとも、昼斗の境遇ならば、精神的に傷を負ってもおかしくはないだろうが、根が優しい人なのだと、共に暮らす内に十分理解していた。監視の任としてそばにいれば、頻繁に見せるくらい瞳にもすぐに気が付いたから、だからこそ逆に、時折見せる僅かな笑みは貴重だった。
ダラダラと滝のように汗が流れていく。
昼斗が、死んだ? そう考えると、胸が苦しくて、息が出来なくなりそうになった。
だが、どうして? それを己は望んでいたはずなのに、なのにどうしてこんなにも苦しくてたまらないのか、自分は動揺しているのか。昴にはそれが分からない。
孤独感を味わえばいいと思って、ここ数日見舞いにはいかなかった。
それが今は、どうしようもなく悔やまれる。
そもそも生きているのが奇跡だというくらいの大怪我をしていたのに、あっさりと搭乗した昼斗の事を想うと、つい『お人好し』と言いたくなる。機体に搭乗した途端に、僅かに計測器の判定上、負傷が癒えたという報告があったが、その理由は不明だ。だが、そうであっても、本来であれば戦えるような身体状態になかったのは明らかだ。
「ついにラムダ皇族が動きましたね。全く、勝手な者達ですね。一枚岩でないとしても、わざわざ意図的に落として地球に与え、急に回収に来るなど、本当にはた迷惑としか言いようがない」
三月が何かを話している。それは昴にも理解出来た。だが三半規管が麻痺してしまったように変わり、上手く聞き取れない。
「昴? 聞いていますか?」
無言の昴を一瞥し、三月が双眸を細くした。動揺を露わにしている友人の姿に、三月は嘆息する。
「パイロットの生存を確認しました! 生きています!」
その時、近隣に控えていた飛行艇から救難に向かった現地の軍人が、コクピットの中で意識を失っている昼斗の姿を視認したという報告が入った。管制室に繋がれた計器から、負傷度は酷いものの、確かにその心臓が動いていて、脳波も確認できるという状況も、モニターに映し出された。
「人型戦略機の回収が可能です。回収後、至急離脱します!」
「速やかに」
三月が指示を飛ばすと、頷き管制官が現地の軍人達に通信する。
それらの言葉は昴の耳に入っていた様子だ。
――昼斗が生きている。
そう理解した瞬間、居ても立っても居られず、昴は走り出した。勢いよく扉を開けて、格納庫を目指して走っていく。残された三月はその背中を見ながら、思わず苦笑した。
「義理、というのはともかく、兄弟愛にしては、少し重いように見えますね」
昴本人よりも、友人の三月の方が、理解したのが早かった。
昴の気持ち、を。昴の、恋心を。
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