51 / 67
―― 第六章 ――
【第五十一話】敵
しおりを挟む冬の海は、いつもよりも深い青色に見えた。昼斗が到着した時、瀬是は海に落下し本土へと向かおうとしているHoopの三体目を射撃し、破壊したところだった。状況を確認していると、Hoop達の進路が日本列島ではなく――昼斗の搭乗する機体に変わった。これは別段珍しい事ではない。そういうものなのだと、昼斗はこれまで受け止めてきた。Hoopにも敵を排除するという意識があるのだろうと、漠然とそんな風に考えてきた結果だ。
「瀬是、こちらは俺が相手をするから、本土の防衛を」
『――はい』
素直に従い、瀬是が後退する。瀬是の機体は、ところどころ破損していたから、本人の負傷も酷い。最初から負傷した状態の昼斗よりは健康体に近いかもしれないが、現時点においてかなり瀬是は疲弊しているのも明らかだった。
水中種が二体、水面から体を現した。空には女王種の姿もある。合計三体が、昼斗の機体に襲い掛かってきたが、昼斗は冷静だった。愛刀を構え、瞬時にHoopを切り裂いて、沈める。
――高い耳鳴りのような音がしたのは、その時の事だった。
目を瞠ってから、昼斗はモニターの向こうに異変がないか確認する。見れば、先程斬り捨てた女王種がいたはずの空に……一個の陸地のような茶色い円盤が存在していた。先程まで、そこには青空が広がっていたはずなのに、オーロラのような色彩に守られるようにして、見た事のない物体が浮かんでいる。
「あれは……?」
目を疑った昼斗は、思わず呟いた。
《秘宝捜索をしているラムダの母艦だな》
すると機体の声がした。何を当然のことを聞くのかというような色が滲んでいた男性の声音に対し、昼斗が困惑して首を傾げる。
「母艦……?」
繰り返してから、昼斗は直後、驚愕して息を飲んだ。目を見開き、母艦と称された円盤の表面から、ボトボトと海に落下していく大量のHoopを目にした。
「な」
幼生が主体ではあったが、尋常ではない数だ。海を浚う事など不可能であるから、あれでは太平洋中にHoopが満ち溢れるのは時間の問題だ。
「Hoopは宇宙から飛来する地球外生命体なんだろ? 勝手に飛んでくるんだよな?」
思わず現実を疑い、昼斗はそう口走った。すると抑揚のない機体の声が返ってくる。
《探索のために各地に自動飛行させてはいるだろうが、地球という目的地が分かった今、運んでくる方が早ければそうするだろう。奴らは、やっと見つけたんだ》
コクピット内に響くその声に、思わず昼斗は眉を顰めた。
「奴ら? あの人工的な円盤には、Hoop以外の何かが乗っているのか? 一体何を探しているというんだ?」
昼斗の険しい声に、機体が答える。
《だから、十一番目の惑星であるラムダの人類が、ラムダの秘宝と呼ばれる品を探していると、これまでにも何度も教えてやっただろう?》
確かにそのような話は、昼斗も機体から耳にした事があったが、何かを象徴的に話しているとしか考えていなかった。ラムダというのは、あくまでも人型戦略機の部品やエンジン、動力源だろうとしか、考えてはこなかった。その概念が、覆ろうとしている。
《お喋りしている余裕があるのか? 来るぞ》
その声にモニターへと視線を戻し、昼斗は唖然とした。
円盤から、一つの黒い影が、海に落ちようとし、それは水面すれすれのところで動きを止め、浮かんだ。人型の巨大なフォルム、既視感。
「あれは……人型戦略機!?」
昼斗の機体の前に、その時、他に表現しようのない、人型をしたロボットが、立ちはだかった。相手――敵機は、剣型の武器を構えている。そして、跳ぶように舞い上がった。剣が振り下ろされようとした時には、自然と身についていたから、昼斗は流れるように刀で受け止めた。一撃が重い。武器と武器が交わっている箇所から、火花が飛び散る。
訓練においても、シミュレーターでしか、人型戦略機同士の交戦は無い。
だが目の前にいるのは、どこからどう見ても、人型戦略機だ。
《俺と同じ、地球でいうところの第一世代機――正確に言うならば、ラムダ皇族が地球に提供した十一機体の他に、ラムダに残存していた十二機目。それだな》
それを聞いて、昼斗が唇を噛む。
「中には人間が乗っているのか?」
すると一瞬の間、機体の声が途切れた。その後沈黙を挟み、言葉が返ってくる。
《違う惑星で栄えている人型の知的生命体を、〝人間〟と呼称するのならば、そうなる》
いよいよ昼斗は蒼褪めた。その時、母艦から声がした。それは、直接脳裏に語り掛けるような、特異的な音声だった。
『すぐに〝ラムダの秘宝〟を返還して下さい。そうでなければ、この惑星を滅ぼします』
昼斗は何度か大きく瞬きをした。
基地から通信があったのは、その時だった。
『交戦して下さい。敵機体を殲滅後、速やかに帰投して下さい』
三月からの指令だ。昼斗は逡巡した末――武器を構えた。そして改めて振りかぶる。既に敵の人型戦略機は、攻撃行動に移っている。こうして人型戦略機同士の戦闘が始まった。
4
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる