黒薔薇の刻印

猫宮乾

文字の大きさ
11 / 61

【十一】切り開こうとしたのかもしれないⅠ

しおりを挟む


 そのまま、三年が更に経過した。既に、俺は手枷や鎖をはめられなくなっていた。抵抗しないからだろう。俺は確かに絶望していた。日々に嫌気がさしていた。けれど快楽を教え込まれた体は、どうにもならない。

 そんな俺に転機が訪れたのは、何気なくベリアス将軍が剣をテーブルに立てかけた時だった。ドキリとした。チラリと将軍を見る。俺に注意を払うでもなく、将軍は首元を緩めている。

 ――今しか無い。

 俺は反射的に剣を手に取り、鞘から抜いた。そして驚いたように振り返ったベリアス将軍の胸を、剣で貫いた。血しぶきが飛び、俺の顔を濡らしていく。

「な」
「死んでしまえ。お前は俺の仇敵だ。よくも俺の体を、こんな、こんな風に……死んでしまえ」

 そこにあったのは、明確な殺意だったと思う。俺は剣を引き抜くと、改めてベリアス将軍に突き立てた。

「お……俺を殺せば……永劫その薔薇は消えず、お前を苛むぞ」
「だからなんだ?」
「――っく、はは。いいや、黒薔薇に命じてやろう。俺が死んだ後、永劫お前の体は男を求める。定期的に男根を受け入れ白液に濡れなければ、気が狂ってお前もまた死ぬ。そうだな、それが淫らなお前には丁度良いだろう。生涯、犯され続けるが良い」

 哄笑したベリアス将軍は、それからガクリと膝をついた。
 俺はその首を、剣で切り落とした。

 初めは震えが来た。殺意があったとはいえ、人殺しは俺にとって恐怖だった。だが、もう逃れたかったのだ。俺は手で、自分の顔に飛んできた血を拭ってから、クローゼットに振り返る。この寝室には、ベリアス将軍が俺に与えた服が沢山ある。ベリアス将軍の遺体から広がっていく血を避けながら、俺はすぐに布で血を拭ってから、服を着替えた。

 そして外套を最後に纏い、部屋を出た。使用人達の気配を探り、時に震えながら、裏口へと向かう。この四年間で、ある程度の邸宅の地理を覚えていたのが幸いだ。

 そうして――俺は、四年ぶりに外へと出た。三日月が見おろす夜だった。
 邸宅を出てからは、兎に角走った。火の国の土地勘など無かったが、明かりの見える方向へと向かう。人混みに紛れてしまおうと考えたのだ。剣は持ってきた。樹の国で剣技を習っていた時、俺は王国一だと称えられた事がある。美よりもよほど俺は、剣の腕で有名だったように思う。弟を連れて逃げる時は、剣を手にする余裕が無かったのだ。それが悔やまれる。今でも、怯えて転んでいた弟の夢を見る。瞳を思い出す。もう亡いだろうが、会いたかった。

 暫く走っていくと、露店街に出た。そこを足早に抜けると、酒場が連なっていて、一角に冒険者ギルドの看板が見えた。ギルドは、国を問わず支部がある。そこで俺は思い出した。制度が変わっていなければ、冒険者登録をすると、冒険者戸籍が得られるのだ。それは身分を証明してくれる。俺はもう、亡国の王子として生きていく事など出来ないだろう。

 逃げながら、今後は新しい生活をしなければならない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

Bランク冒険者の転落

しそみょうが
BL
幼馴染の才能に嫉妬したBランク冒険者の主人公が、出奔した先で騙されて名有りモブ冒険者に隷属させられて性的に可哀想な日々を過ごしていたところに、激重友情で探しに来た粘着幼馴染がモブ✕主人公のあれこれを見て脳が破壊されてメリバ風になるお話です。 ◯前半は名有りモブ✕主人公で後半は幼馴染✕主人公  ◯お下品ワードがちょいちょい出てきて主人公はずっと性的に可哀想な感じです(・_・;) ◯今のところほとんどのページにちょっとずつ性描写があります

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

処理中です...