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【十一】切り開こうとしたのかもしれないⅠ
しおりを挟むそのまま、三年が更に経過した。既に、俺は手枷や鎖をはめられなくなっていた。抵抗しないからだろう。俺は確かに絶望していた。日々に嫌気がさしていた。けれど快楽を教え込まれた体は、どうにもならない。
そんな俺に転機が訪れたのは、何気なくベリアス将軍が剣をテーブルに立てかけた時だった。ドキリとした。チラリと将軍を見る。俺に注意を払うでもなく、将軍は首元を緩めている。
――今しか無い。
俺は反射的に剣を手に取り、鞘から抜いた。そして驚いたように振り返ったベリアス将軍の胸を、剣で貫いた。血しぶきが飛び、俺の顔を濡らしていく。
「な」
「死んでしまえ。お前は俺の仇敵だ。よくも俺の体を、こんな、こんな風に……死んでしまえ」
そこにあったのは、明確な殺意だったと思う。俺は剣を引き抜くと、改めてベリアス将軍に突き立てた。
「お……俺を殺せば……永劫その薔薇は消えず、お前を苛むぞ」
「だからなんだ?」
「――っく、はは。いいや、黒薔薇に命じてやろう。俺が死んだ後、永劫お前の体は男を求める。定期的に男根を受け入れ白液に濡れなければ、気が狂ってお前もまた死ぬ。そうだな、それが淫らなお前には丁度良いだろう。生涯、犯され続けるが良い」
哄笑したベリアス将軍は、それからガクリと膝をついた。
俺はその首を、剣で切り落とした。
初めは震えが来た。殺意があったとはいえ、人殺しは俺にとって恐怖だった。だが、もう逃れたかったのだ。俺は手で、自分の顔に飛んできた血を拭ってから、クローゼットに振り返る。この寝室には、ベリアス将軍が俺に与えた服が沢山ある。ベリアス将軍の遺体から広がっていく血を避けながら、俺はすぐに布で血を拭ってから、服を着替えた。
そして外套を最後に纏い、部屋を出た。使用人達の気配を探り、時に震えながら、裏口へと向かう。この四年間で、ある程度の邸宅の地理を覚えていたのが幸いだ。
そうして――俺は、四年ぶりに外へと出た。三日月が見おろす夜だった。
邸宅を出てからは、兎に角走った。火の国の土地勘など無かったが、明かりの見える方向へと向かう。人混みに紛れてしまおうと考えたのだ。剣は持ってきた。樹の国で剣技を習っていた時、俺は王国一だと称えられた事がある。美よりもよほど俺は、剣の腕で有名だったように思う。弟を連れて逃げる時は、剣を手にする余裕が無かったのだ。それが悔やまれる。今でも、怯えて転んでいた弟の夢を見る。瞳を思い出す。もう亡いだろうが、会いたかった。
暫く走っていくと、露店街に出た。そこを足早に抜けると、酒場が連なっていて、一角に冒険者ギルドの看板が見えた。ギルドは、国を問わず支部がある。そこで俺は思い出した。制度が変わっていなければ、冒険者登録をすると、冒険者戸籍が得られるのだ。それは身分を証明してくれる。俺はもう、亡国の王子として生きていく事など出来ないだろう。
逃げながら、今後は新しい生活をしなければならない。
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