黒薔薇の刻印

猫宮乾

文字の大きさ
44 / 61

【四十四】旅路Ⅰ

しおりを挟む


「――入れ」

 ラッセルに見送られた後、いつか滞在した家の前に立って扉をノックすると、懐かしい声がした。静かに扉を開けたが、木製の戸は軋んだ音を立てた。

「久しぶりだな、ネルス」
「……そうだな」
「何をしに来た? ラッセルからの手紙では、用件があるとしか書いていなかったが」
「熱を……体の熱を、取って欲しいんだ。満月が来ても、熱くならないように」
「逆に満月にしか熱くならないように緩和してやったんだが……それまで取れと? 随分と面倒な依頼だな」

 歩きながらエガルが言う。嘗て見慣れていた事もある食卓へと案内され、俺は椅子に座った。目の前にお茶が置かれる。両手でカップに触れ、俺は俯いた。

「……眼球を一つ差し出せば、叶えてもらえると聞いた」
「確かに魔力を宿す人体部位は特別だが、俺は綺麗なものを傷つける趣味が無い。お前には、今となってはその美貌くらいしか取り柄は無いだろう? それを失い、どうやって生きていくんだ? 隻眼が醜いというつもりはないが、揃ってはまっている方が魅力的だと考えるぞ」

 正面の席で、フードを取ったエガルが、俺を見ながらそう述べた。それからお茶を飲み込んで、再びカップを置く。

「快楽に飲まれてしまえば良いでは無いか」
「……もう、辛いんだ。それに、俺は死神なんだろう?」
「ラッセルの奴は口が軽くて困る。仮にも殺し屋だというのに、へらへらと」
「抱かれ、その相手や関係者が亡くなる姿も……もう見たくない」
「それは随分と善人だな。本心では、死んでせいせいしてるんじゃないのか?」

 俺は口ごもった。その問いに、答えが見いだせなかった。自分の気持ちが分からない。果たして、そうなのだろうか? 

「――一つ、解決策を教えてやろうか?」
「頼む」

 沈黙していた俺を、気遣うようにエガルが見ていたから、反射的に答えた。

「黄泉の国が存在する。水の国でも占領できなかった秘境だ。何せ――死者の国だからな」
「黄泉の国?」
「ああ。黄泉の国には、死者の魂がいる。刻印を持つもの同士であれば、その魔力痕をたどって、伴侶に再会可能なはずだ」
「? それは……」
「黒薔薇の刻印をお前に刻んだ人間の魂に会って、刻印を消し去って貰うという手法となる」
「……」
「無償で俺が協力するのは、ここまでだ。黄泉の国は、太陽が沈む方角にあると言われている。行くのならば、好きにしろ」

 そう言うと、エガルが俺を追い出すように手を振る仕草をした。お茶を飲み干し、俺は立ち上がった。そして小さく頷き、エガルを見た。

「有難う」

 俺はそう述べてから、足を引きずって玄関へと向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

処理中です...