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―― 本編 ――
【第六話】悪の総帥
しおりを挟む翌日の午後の訓練は、この日もダラダラと過ごした。
さて放課後になって永良と環はそろって、〝闇の明星〟の本部へと向かった。駅前から少し離れた場所にあるオフィス街の中の高いビルが、この悪の組織の本部である。その際上階が総裁室だ。この日、悪の組織の幹部である二人は、総帥の槙島十吾に呼び出されていた。
――槙島。
正義の味方である【メルクリウス】の槙島伊夜と同じ苗字である。
なおこの界隈で、槙島グループを知らない者は少ない。生活に密着した物から高級品までを扱う総合グループで、この北関東府No.1の大企業である。伊夜は、十吾の姪だ。実の叔父であるのに、十吾は伊夜を排除したいという理由で、この悪の組織を立ち上げた。そのため、幹部である【ネコパンチ】も、【メルクリウス】をつけ狙っている。
窓際の執務机に両肘をつき、組んだ手の上に顎をのせている、無精ひげの総帥は、二人を見ると嘆息した。特に、じっと永良を見た。
「伊夜にやられたらしいな」
「あ、はい」
殴られた事を思い出し、永良は引きつった顔をした。
「無様だな――」
「……」
「――と、言うかと思ったか? いやもう、本当あの暴力姪に殴られて無事でよかったよ!!」
十吾のテンションは、基本的に高い。そして人情派でもある。面倒見もいい。
ちょっとへたれたところがあるものの、永良はそんな悪の総帥が嫌いではない。現在三十代半ばだという話だ。
「兎に角無理は禁物だからな? 危ないと思ったら、逃げていいから!」
「はぁーい」
永良が頷くと、横で大きく隆史もまた頷いた。
それを確認してから、頷き返して十吾が言う。
「さて本題だ。今日も【メルクリウス】を狙ってほしい」
なんでも十吾は、伊夜の父である兄に、婚約者――即ち伊夜の母を寝取られたのだという。その元婚約者によく似た伊夜であるが、中身は憎い兄の正確に似ているという姪を、私怨で狙っているのが、現在の状況である。伊夜は別に悪くない。本当に、逆恨みといえる。伊夜の両親は、現在は海外で悠々自適に暮らしているそうだ。
「本日【メルクリウス】は、北関東迷宮の異邦神を退治しているらしい。そこから帰還したところを襲ってくれ。一撃でも与えられたら報奨を出すからな!」
北関東迷宮とは、この深雪区も含めた土地の地下に広がる迷宮だ。中には異邦神の内、既にこの世界へやってきて長いものが巣喰っている。一説によれば、異世界に存在していた迷宮が、そのままこの世界に転移してきたともいう。第一級危険指定迷宮だ。その中の異邦神の討伐もまた、正義の味方システムで管理されている、正義の味方の一つの仕事である。定期的に少しずつ倒すかたちだ。
「分かりました」
永良が頷くと、隆史が腕を組んだ。
「報奨、期待してますからね。本当、俺今月、アプリゲームやりすぎてお財布が寂しいんで」
隆史はお金にシビアなところがある。十吾は曖昧に笑っている。
こうして、永良と隆史は悪役の正装――牧師服のような黒い装束に着替えた。腕輪型の亜空間収納可能な戦闘服だ。指輪に触れると、いつでもどこでも、衣装チェンジが出来る。そのようにして、迷宮の入口の一つへと向かった。この深雪区から繋がっている場所は、一つしかない。
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