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―― 本編 ――
【第八話】悪役は負けるもの
しおりを挟む『――おーっとぉ!? 槙島伊夜の木刀が露骨にナガラの腹部に入ったぞー!』
朝食のトーストを食べながらコーヒーを飲みつつ、永良は〝ラグナロク〟が実況配信していた昨日の戦闘風景の録画を眺めていた。アーカイブで暫くは閲覧可能だ。実況しているのはクラスメイトの彩夏であるから、若干永良と隆史の【ネコパンチ】にも優しい内容となっている。
段々受け身の取り方にも慣れてきたが、正直倒されなければバイトが終わらないので、自ら受けに行くという日もある。
まぁそんなこんなで適度にバイトをこなしている永良は、欠伸をしてから、本日も登校する事にした。家を出て通学路を歩いていく。次第に聖ユスティーツ学園の制服を纏う生徒達が増えていく。時流の波に乗り、聖ユスティーツ学園でも男女の別なく下衣を選択可能になったから、女子だからと言ってスカートだとは限らない。
「おはよー」
教室に永良が入ると、隆史と彩夏が顔を上げた。それぞれが挨拶を返してくれたし、他のクラスメイト達もそれは同じだ。自分の席についた永良は、鞄から教科書類を机に入れる。予習復習を真面目にしているわけではないが、永良はあまり学校に参考書などを置いておく事は無い。
「昨日も大立ち回りだったね」
彩夏の声に、先程まで彼女の実況を聞いていた永良は苦笑した。
誰かひとり親しい女子を挙げろと言われたら、それは間違いなく彩夏である。薄茶色の髪をツインテールにしている彩夏は、同色の瞳に長い睫毛をしている。小柄だで元気。
「俺なんてまだ木刀で叩かれた肩が痛いぞ。永良は?」
「俺も腹が痛い」
隆史に答えていると、彩夏が笑った。
「でも倒されるのが、悪役の宿命だもんね」
その言葉に永良と隆史は顔を見合わせた。確かに、正義の味方をつけ狙う悪役は多いが、勝ったという話は聞いたためしがない。そもそもが、『弱者』が正義の味方になれず、悪役の道の仕事を請け負う事が多いからだろう。
ただ永良と隆史の場合は少し違う。
永良は『今すぐにできるバイト』を探して、学内にある求人票の前に立っていた。昨年の話だ。正義の味方システムを経由するのに変わりはないが、学園にも直接求人が届いていたのである。それを眺めていた永良だが、応募の仕方が分からなかった。するとたまたま通りかかった隆史が、やり方を教えてくれて、その場で正義の味方システムのアプリが入るスマホを操作し、面接会場まで案内してくれたのである。すると隆史もまた応募者だと勘違いされ、二人そろって面接を受ける事になり、そのまま採用されてしまったという経緯だ。基本的に隆史は、お人好しな部分がある。そんな調子だから、悪役になったのも流れであるし、本当にこのクラスにいるのが謎だと永良は思う。永良の動機は単純に、一人暮らしであるから、なるべく高時給で即日で働ける仕事を探していたと言える。
その時予鈴が鳴った。
レトロな鐘の音を録音したものが、全校中に響き渡る。
するとすぐに、担任の戸瀬先生が入ってきて、出欠確認を兼ねたSHRが始まった。
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