悪役の教室

猫宮乾

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―― 本編 ――

【第九話】現代史

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 本日の一時間目は、現代史の授業だった。担当は日和薺ひよりなずな日和薺先生で、二十七歳の大人っぽい女性教師だ。この先生の授業は、あまり眠くならない。ただ授業を真面目に聞いているわけではなく、永良は顔が好きだからぼんやりと観察しているというのが正しい。

 たまに二十七歳なんてオバサンだと揶揄する生徒もいるが、永良はそうは思わない。全然、アリだと思う。別に年上好きというわけではなかったが。

「今日は、【扉閉鎖騒動】について取り上げます」

 凛としたよく通る声だった。永良は正面を見たままで耳を傾ける。

「並行世界との往来が可能になったからこそ、異邦神が出現するのだとして、他世界に通じる扉をすべて閉鎖しようという動きが、五年前にありました。当時、扉開放派と閉鎖派の間には激しい戦闘が発生しました」

 永良は嫌な気持ちになった。その騒動では、弟の他にも――幾人もの周囲の人間が亡くなった。秋野家は、開放派であり、異世界からの多種多様な人類の知識を吸収するべきだという派閥の筆頭だった。だから、狙われた。違法神とも秋野家の関係者は率先して戦っていたものだが、閉鎖派にはそれも気にくわなかったらしい。

「その際、尽力したのが〝五愚者ファイブ・フール〟と呼ばれる、特務級正義の味方の五名です。その当時の最強と呼ばれた『審判』は含まれていません。ここは定期試験バトルの数日後に行われる座学統一試験にも出るので覚えておいてくださいね。『審判』については、公には姿を現さなかったため、滅多に名前を聞く機会も無いでしょうから、ここだけの――聖ユスティーツ学園の生徒だからこそ知り得る知識と思って下さい」

 この前彩夏も口にしていたから、密やかに噂は出回ってるでは無いかと、永良は漠然と思った。

「〝五愚者〟の中には、『礼貸あやかし』のように少々荒っぽい手段で、閉鎖派を制圧して者もいます。ただそれでも功績は否定できません。ただし『礼貸し』は危険な存在でもあります。彼あるいは彼女は、正義の味方システムの範囲にいる『弱者』に『人権』を認めていないからです」

 それを聞いて永良は目を伏せた。
 礼貸しというのは、悪の組織では要注意人物として、最初に周知される人物だ。弱い正義の味方というのは、ほぼ即ち悪役である。

 いつも白塗りの顔をしていて、黒いつけ睫毛をし、目の周りを濃いアイラインで覆って継承している礼貸しは、花魁のような長い下駄をはいていて、身長も素顔も明らかになってはいない。一見しただけでは、男性なのか女性なのかも不明だ。ただ声はそこそこ低いから、男性だという説が多い。

「特にこのクラスの皆さんは、礼貸しの出現情報をきいたら、登下校時にも気をつけるように」

 そのようにして授業は進んでいった。
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