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―― 第一章 ――
【第一話】政府による緊急会見
しおりを挟む貧民街・最下層にもテレビはある。
レトロなブラウン管のテレビは、旧東京府が〝東京スラム〟と呼ばれるようになる前、昭和の時代に流行していたのという知識が、ゼクス・ゼスペリアには存在している。冷和の代の現在では、この日本連邦に暮らす人々の格差は著しい。
中でもゼクスの暮らす最下層は、東京スラムの外れ位置していて、貧しい者が多い。
冷和震災以後、大量の孤児がこの国には生まれたため、広まったゼガリア教の経営する孤児院にて、ゼクスは育った。ゼガリア教の助祭となったのは、二年ほど前の事で、ゼクスは、最下層ゼスペリア教会孤児院を運営している。
とはいっても、現在孤児はいない。最後の孤児がゼクスであり、そのゼクスも成人して久しい。黒い艶やかな髪と蒼い瞳をしているゼクスは、今年で二十七歳だ。すらりとした体躯をしているゼクスは、前任の神父が移動になってからは、一人でこの教会にて暮らしている。
「ん、壊れたのか……?」
その時、テレビの画面にノイズが混じった。瞬きをしながら、ゼクスはそちらを見る。
するとそれまで映し出されていたバラエティ番組の映像が、急に切り替わった。
「なんだろうな?」
青灰色の布の前に、茶色い壇があり、日の丸の国旗が立てかけられている。報道番組で時折目にする官房長官や総理大臣が会見をする場に見えるとゼクスが感じた時、字幕が走った。
――『政府による緊急会見』。
ゼクスは簡素な食卓の、ギシギシと軋む木製の椅子に座ったまま、ぼんやりとテレビを眺める。するとニュースで見た覚えのあるこの国の総理大臣である英刻院藍州が姿を現した。金色の髪に藍色の瞳をしている若き総理大臣は、長めに瞬きをしてから、じっとモニター越しに国民へと視線を投げかける。
『六日後、日本は沈没する』
それはよく通る声だったが、非常に現実味を欠いている発言だった。
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