図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅠ】―― 序章:図書室のマスク男の噂 ――

【007】図書室のマスク男⑦

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 朝は登校班があるけれど、帰りは各自だ。下校班はない。
 この日も徒歩でぼくは、ゆっくりと通学路を歩いていた。

「おはよ」

 すると神社に続く階段の前で声をかけられた。視線を向けるとそこには、金色に髪を染めている、首にストールを巻いたとおるくんが座っていた。大学生だと前に聞いた。

「もう夕方だよ?」
「大人は会ったら『おはよう』って挨拶するんだよ。覚えておくといいよ」

 初めて声をかけられたのは、半年ほど前のことで、崎保透さきほとおると名乗った。以来、ぼくは『透くん』と呼んでいる。

「今日もひまなの?」
「ひまじゃないけど、瑛の顔を見に来てあげたのに。酷い言い分だな」
「ぼく別に見てもらわなくても平気だけど」
「本当に? そうなの? お兄ちゃんがそばにいてくれるから平気って事?」

 透くんの声に、ぼくはムッとした。

「亮にいちゃんは、今日もバイトだよ。それに僕は亮にちゃんがいなくても大丈夫だもん。亮にちゃんは、薺に熱心なんだ」

 前に『兄弟がいるか』と聞かれて、亮にいちゃんと薺のことを話してから、ちょくちょくこのような話になる。ぼくの言葉に、おなかを抱えて透くんが笑った。

「みじめだね。弟にお兄ちゃんを盗られちゃったんだ?」
「違うもん。ぼくが、一人でも大丈夫なだけ」
「へー。俺は独りは寂しい方だから、感服だ」
「もう帰る。またね!」
「うん、また。気をつけてね」

 こうして手を振りぼくは帰宅した。


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