64 / 101
【SeasonⅡ】―― 第一章:生首ドリブル ――
【063】横たわる時間
しおりを挟む
土曜日、ぼくはバスに乗った。
見ればこの前も座っていたおばあさんが、今日も同じ席に座っていた。
ぼくの家の近くに住んでいるのかもしれない。
ぼくは教えてもらった水間さんの家の近くでおりた。
来るのは初めてだけど、水間さんがそこまでむかえにきてくれた。
「よく来てくれたな」
「ううん。ぼくも会いたかった。水間さんにも步夢くんにも」
水間さんは笑顔だ。優しい顔をしている。最初にあったころみたいな、怖くてマユとマユの間にシワをきざんでいるような表情とは違う。
「步夢くんは元気?」
「ああ。来年の春から、小学校の四年生になれることに決まった」
「そうなんだ、ぼくは卒業しちゃうけど、本当によかった」
「そうだな。これも瑛のおかげだ。ありがとう」
歩きながら優しい声で言われて、ぼくはてれくさくなってしまった。
「あのね、薺もだいぶよくなって、来年の春からは学校に行けるかもしれないんだって。もしかしたら步夢くんと一緒になるかも」
「なれるといいんだが」
「水間さんと步夢くんも、もともとは三歳ちがいだったんでしょう?」
「そうだ。だから俺は、なんとなく瑛に自分を重ねているところもあった」
「そうなんだ」
「ただ、もう俺と步夢の間には、違う時が流れていた。それでも步夢は俺の弟だし、大切だよ。昔のままの步夢も、最近少しずつ、今のことを覚えはじめてる」
懐かしそうに、少し苦笑するように、水間さんが言った。
そうしていると、一軒家についた。
「あがってくれ」
「おじゃまします」
中に入って居間にいくと、步夢くんがお絵かきをしていた。
「瑛おにいちゃん!」
ぼくは步夢くんのお兄ちゃんじゃないけど、そう呼ばれるのがうれしい。
「何をかいてたの?」
「ゲームに出てきたドラゴン!」
その言葉を聞いて、ぼくは自由研究のことを思い出した。
ぼくは生き物を飼っていなかったし、バタバタしていて最終日に宿題をしたんだけど、『架空の生き物の観察日記』として、ドラゴンをカブトムシの観察日記みたいに、存在しているように書くというこころみをして提出した……。泰我先生は目を丸くしていたが、ぼくをおこることはなかった。
水間さんがジュースをくれたので、お礼を言って受け取りながら、ぼくはふと思い出して、二人を見た。
「ねぇねぇ、二人は、小学校の七不思議、どんなのだった?」
「七不思議?」
水間さんが不思議そうな顔をする。
「あのね、学習発表会で、都市伝説のお化けをまとめて発表することになったんだ。あ、よかったら二人も来てよ。チケットがあれば入れるんだ。ぼく今度チケットを持ってくるよ!」
「――步夢にも小学校をみせてやりたいし、それはありがたいな」
「ぼくも小学校に行きたい!」
二人の言葉に、ぼくも笑顔になった。
「しかし俺達のころの七不思議か……そうだな、『トイレの花子さん』『ベートーベンの肖像画』『走る人体模型』『二宮金次郎像』『体育館の幽霊』『テケテケ』だな。七番目は知ると死ぬと言われていた」
いずれも中身はお父さんやお兄ちゃんから聞いていたものだったり、ぼくも知っているお化けだったけど、時代によって変わるのは間違いないとあらためて思った。
見ればこの前も座っていたおばあさんが、今日も同じ席に座っていた。
ぼくの家の近くに住んでいるのかもしれない。
ぼくは教えてもらった水間さんの家の近くでおりた。
来るのは初めてだけど、水間さんがそこまでむかえにきてくれた。
「よく来てくれたな」
「ううん。ぼくも会いたかった。水間さんにも步夢くんにも」
水間さんは笑顔だ。優しい顔をしている。最初にあったころみたいな、怖くてマユとマユの間にシワをきざんでいるような表情とは違う。
「步夢くんは元気?」
「ああ。来年の春から、小学校の四年生になれることに決まった」
「そうなんだ、ぼくは卒業しちゃうけど、本当によかった」
「そうだな。これも瑛のおかげだ。ありがとう」
歩きながら優しい声で言われて、ぼくはてれくさくなってしまった。
「あのね、薺もだいぶよくなって、来年の春からは学校に行けるかもしれないんだって。もしかしたら步夢くんと一緒になるかも」
「なれるといいんだが」
「水間さんと步夢くんも、もともとは三歳ちがいだったんでしょう?」
「そうだ。だから俺は、なんとなく瑛に自分を重ねているところもあった」
「そうなんだ」
「ただ、もう俺と步夢の間には、違う時が流れていた。それでも步夢は俺の弟だし、大切だよ。昔のままの步夢も、最近少しずつ、今のことを覚えはじめてる」
懐かしそうに、少し苦笑するように、水間さんが言った。
そうしていると、一軒家についた。
「あがってくれ」
「おじゃまします」
中に入って居間にいくと、步夢くんがお絵かきをしていた。
「瑛おにいちゃん!」
ぼくは步夢くんのお兄ちゃんじゃないけど、そう呼ばれるのがうれしい。
「何をかいてたの?」
「ゲームに出てきたドラゴン!」
その言葉を聞いて、ぼくは自由研究のことを思い出した。
ぼくは生き物を飼っていなかったし、バタバタしていて最終日に宿題をしたんだけど、『架空の生き物の観察日記』として、ドラゴンをカブトムシの観察日記みたいに、存在しているように書くというこころみをして提出した……。泰我先生は目を丸くしていたが、ぼくをおこることはなかった。
水間さんがジュースをくれたので、お礼を言って受け取りながら、ぼくはふと思い出して、二人を見た。
「ねぇねぇ、二人は、小学校の七不思議、どんなのだった?」
「七不思議?」
水間さんが不思議そうな顔をする。
「あのね、学習発表会で、都市伝説のお化けをまとめて発表することになったんだ。あ、よかったら二人も来てよ。チケットがあれば入れるんだ。ぼく今度チケットを持ってくるよ!」
「――步夢にも小学校をみせてやりたいし、それはありがたいな」
「ぼくも小学校に行きたい!」
二人の言葉に、ぼくも笑顔になった。
「しかし俺達のころの七不思議か……そうだな、『トイレの花子さん』『ベートーベンの肖像画』『走る人体模型』『二宮金次郎像』『体育館の幽霊』『テケテケ』だな。七番目は知ると死ぬと言われていた」
いずれも中身はお父さんやお兄ちゃんから聞いていたものだったり、ぼくも知っているお化けだったけど、時代によって変わるのは間違いないとあらためて思った。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ぽんちゃん、しっぽ!
こいちろう
児童書・童話
タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる