図書室ピエロの噂

猫宮乾

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【SeasonⅡ】―― 第一章:生首ドリブル ――

【062】椿ちゃんの風邪

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 今日は椿ちゃんが登校してきた。風邪でお休みだったんだけど、マスクをしている今も顔色がわるく見える。

「――だから、花子さんは調べておいたんだ」
「ありがとう……っ」

 ゲホゲホと、椿ちゃんがセキをした。哀名が背中をさすっている。

「大丈夫? 保健室にいったほうがいいんじゃない?」
「う、うん」
「私、送るよ」

 哀名が立ち上がると、椿ちゃんもよろよろと立ち上がった。

「おだいじに」

 ぼくと道家くんが見送る。二人は教室を出ていった。

「早く治るといいんだけど」
「ボク、風邪をひかないからわかんない」
「そうなの?」
「そうだよ。人間とは違うからね」

 お化けは元気なんだなとぼくは思った。
 それから少しすると、哀名と椿ちゃんが戻ってきた。早退するのかと思っていたぼくはおどろいてそちらを見る。すると席に着いた哀名が言った。

「今日保健の先生出張らしいの。それに中からろうかまでセキが聞こえてきて、もうベッドには誰かいるみたいだったの」
「そうなんだ」

 ろうかまで聞こえるとしたら、ずいぶんとひどいセキだ。
 学校では、風邪がはやっているのかもしれない。このクラスでは椿ちゃんだけだけど、ほかのクラスはわからないし。

「泰我先生にお願いしてみたいの。家の人に連絡してくれるって」

 哀名の言葉に、椿ちゃんが青い顔でうなずいている。
 すると朝の会の時間に、少しおくれてきた泰我先生が椿ちゃんを見た。

「今、お家の人が来てくれると言うから、帰る準備をしてくれ」
「はい……うう、私もちゃんとみんなと都市伝説を調べたいのに……詩織ちゃん、ごめんね」
「大丈夫、まずは体を治して。それから」
「うん」

 椿ちゃんはうなずくと、ランドセルを持って立ち上がった。

「みんなは少し待っているように。先生は椿を校門まで送ってくるからな」

 泰我先生はそう言うと、椿ちゃんと一緒に出ていった。

「楠谷くん、道家くん」

 すると哀名がふり返った。

「今度は、私は椿ちゃんが来たら一緒に調べるから、調査はおやすみにする」
「うん、わかったよ。元々男子と女子でべつべつの班だしね」

 ぼくがうなずくと、哀名が小さく笑った。
 ちなみにこの日は、ぼくと道家くんも調査はおやすみとした。

 一人で歩いてぼくが帰っていると、神社の石段に通るくんが座っていた。今度遊びに来たときに聞いてみようと思っていたんだけど、別に今日でもいいかと思って、ぼくは近づいた。

「おはよ、瑛」
「うん。ねぇねぇ透くん」
「ん?」
「透くんの頃って、小学校の七不思議とか、都市伝説はどんなのがあった?」
「小学校の七不思議、か。俺はね、新設された私立の小学校の一期生だったから、七不思議はなかったよ」
「あ、そうなんだ」
「うん。ただ都市伝説は、いくつかあったよ。怖い話でしょ?」
「うん。教えて」

 ぼくがうなずくと、少し考えるような顔をしてから、ニヤッと透くんが笑った。

「むらさき鏡って知ってる?」
「あ、それ……お父さんが二十歳になるまで教えてくれないって話してた奴だ」
「あー、晶さんは優しいからね。むらさき鏡というのはね、むらさき鏡という言葉を二十歳まで覚えてると死ぬって言う話」
「えっ!」
「俺は二十歳になったときはわすれていて、二十一歳の今思い出したからセーフだね」
「ぼ、ぼく……忘れられるかな……?」
「どうだろうねぇ」

 透くんは楽しそうに笑っている。ぼくは怖くなって泣きそうになった。

「ほかにはね、時空のおっさんとか」
「時空のおっさん?」
「そ。なんかいつもとは違う場所に迷いこんだみたいになったときに、出てきて元の世界に……もどしてくれるとはかぎらないみたいだよ。『お前はもう帰れない』って言われることもあるらしい」
「どんな場所?」
「それがね、この現実とそっくりだけど、人がいなかったり、ちょっと違うところらしいね」
「……戻してくれるといいんだけど」
「さぁ? 時空のおっさんの気分次第じゃない?」

 透くんは、それから立ち上がり、ぼくにひらひらと手を振った。

「さて、俺は今日は用事があるからもう行くよ」
「うん、また遊びに来てね」
「――ありがとう。亮にもよろしく」

 ぼくも手を振りかえして、家へと向かった。この路には、神社の他にはコンビニやバス停もある。あとは、電話ボックスがぽつんとある。スマホもあるけど、〝きんきゅうじ〟には公衆電話を使うといわれて、学校で使いかたの授業があった。

 家に帰ると、亮にいちゃんがスマホを手にしていた。

「あ。おかえり、瑛」
「ただいま!」
「今、水間さんから連絡があったんだ」
「そうなの? なんて?」
「ああ、薺と同じ学年だから、おすすめの参考書を知らないかと聞かれたんだ。薺も病院でよく見てるからな。それと瑛に、遊びに来ないかと話してたよ」
「あ、行きたい!」
「じゃあ次の週末にあそびに行かせてもらうと返事をしておくな。一人で行けるか? 俺その日バイトなんだよ」
「大丈夫! 行けるよ!」
「りょーかい」

 こうして、ぼくの週末の予定が決まった。ぼくもそのうち、お父さんみたいにスケジュールをスマホのカレンダーに入力した方がいいかもしれない。最近のぼくは、ローレルのこともあるし、なかなかにたぼうだ。


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