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【SeasonⅡ】―― 第二章:黒板じじい ――
【067】二宮金次郎像
しおりを挟む残りの、ぼくと道家くんの担当は、七不思議の一つである二宮金次郎像の噂の確認だけとなった。放課後になると目が開いて、夜になるとたまに走り出すという。
ぼく達の小学校では、職員玄関のすみっこに、像があった。
「今日中に終わらせられそうだね」
二宮金次郎像の前で、目が開いていないことを確認しながら、ぼくは言った。今は放課後だから、間違いないはずだ。すると道家くんもうなずいた。
「コレは、ウワサされてるだけで、ただの置物だからね」
「あ、そうなんだ?」
「うん。ボクはこれが動いたところなんて、一度も、見たことも聞いたこともないね」
「じゃあ二宮金次郎像……像というか、本人の歴史をまとめる?」
「いいんじゃない。図書室に本があるし」
こうしてその足で、ぼく達は図書室へと向かった。
なんだかここに来るのも懐かしい気持ちだ。道家くんは、鏡をちらりと見てから、ぼくを本の場所に案内してくれた。どうやら図書室の本に詳しいみたいだ。
まとめ終えてからわかれて、ぼくは家に帰った。
すると透くんが来ていた。
リビングに入ろうとすると、亮にいちゃんと何やら話し込んでいた。
「でもさ――」
「いや、それはない。瑛の兄として断言する」
「お兄ちゃんやるの楽しそうだね」
「瑛はかわいいからな」
「はいはい。まぁ俺もお兄ちゃんだし? 気持ちは分かるよ? 亮可愛いからね」
「言ってろ。それより、だからさ、もっとこう――」
なんの話かはわからないが、ぼくの話かもしれない。
「ただいま」
ぬすみぎきはよくないと思って、ぼくは声を上げた。すると二人が同時にびくっとして、ぼくにふり返った。あわてた様子まで、息もぴったりで、たしかにこの二人が兄弟だというのはなっとくできる気がした。亮にいちゃんは、ぼくのお兄ちゃんだけども。
「おかえり」
「おじゃましてます」
二人にうなずいてから、ぼくは手洗いうがいに向かった。そしてもどると、透くんがぼくに言った。
「瑛、ところでカノジョには、連絡先聞けたの?」
「か、カノジョじゃないよ! 哀名にちゃんと聞けたけどさぁ」
カノジョだったら、苦労はしない。ぼくはどうやって告白したらいいのか、今も考えているって言うのに。
「え? 瑛、カノジョがいるのか? いないのか? どっちにしろ、好きな子がいるのか?」
すると亮にいちゃんが目を丸くしておどろいた顔になった。
聞かれてしまったのがはずかしくて、ぼくは両手で顔をおおう。
「いやぁ、青春だね」
「そうだな。瑛が恋かぁ」
「……二人はどうなの?」
ぼくが話を変えようとすると、透くんが笑った。
「俺は今はいないよ」
「俺もいない。バイトがあるし、それどころじゃないからな」
二人ともいないようだ。しかしどうせなら、参考になる意見が聞きたい。
「小学校とか、中学校の頃はどうだったの?」
「俺? 俺は、けっこうモテるから、初めて付き合ったのが小五で、最後に別れたのが三ヶ月前だよ。亮は?」
「俺は中二で付き合って、高一で別れた。振られた」
それを聞いて、ぼくは亮にいちゃんを見た。
「亮にいちゃんが振られたの? どうして?」
「ええとな、別の高校に進学して、その子が市外にいったんだけどな、遠恋がきついって話してて、だんだん連絡が取れなくなって、別れようって言われた」
「……そっか……」
亮にいちゃんほどカッコイイ人でも、そういう場合があるのかと驚いた。
「次いこ、次」
ポンポンと透くんが亮にいちゃんのカタをたたいている。
その日は透くんも夕食をたべていくことになった。亮にいちゃんが作ったハンバーグを見ながら、透くんが言った。
「俺、この家に来るようになるまで、家庭料理ってほとんど食べたことがなかったんだよね」
「じゃあなにを食べてたの?」
「俺の家、シェフがいるからさ」
「シェフってお店の人?」
「まぁ、そういう感じだよ。プロだね」
透くんは、本当にお金持ちみたいだ。ぼくはぼんやりとそう考えた。
だけどぼくは、お見せの料理も好きだけど、亮にいちゃんの料理が、今のところ一番大好きだ。
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