図書室ピエロの噂

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
78 / 101
【SeasonⅡ】―― 第四章:テケテケ ――

【077】プラネタリウム

しおりを挟む
 次の土曜日、ぼくと哀名はプラネタリウムの前で待ち合わせをした。
 そわそわしてしまって、ぼくは早めについてから、何度もうで時計を見た。

「楠谷くん、待たせた?」
「う、ううん。ぼくも今きたところなんだ」

 やってきた哀名に、ぼくは早く来すぎたことは言わなかった。待ち合わせ時間の護符前にきた哀名は、時間通りだ。

 チケットはぼくが買っておいたのでわたした。すると哀名がお財布をとりだしたので、ぼくは首を振る。

「今日は、ぼくがおごるから!」
「いいのに、私も自分のぶんは払うよ?」
「いいから! それより中に入ろうよ」

 ぼくはあんまりおこづかいを使わないので、かなりたまっている。昨日スマホで、デートと検索したら、男子が払うと 好印象こういんしょうと書いてあったから、ぼくははらうと決めた。でも、 割り勘わりかんも人気みたいだった。

 中に入ると、ぼく達以外だれもいなかったけど、二人で並んで座る。
 そしてぼく達は、天井の星を見上げた。
 プラネタリウムはどうやらあんまり人気がないみたいだ。哀名も退屈だろうか。不安になって哀名を見ると、優しい笑顔で星を見ていた。大丈夫そうで、ぼくは安心した。

「綺麗だね」
「ええ」
「あの中に、占いに出てくる星座もあるんだよね?」
「そうね。たとえばあれは、ルクバトといういて座の星」
「へぇ! そうなんだね」

 哀名は〝はくしき〟だ。ぼくもやっぱり、哀名に負けないように、というよりは、哀名の横にいられるように、もっと勉強をした方がいいと思う。

 二人きりだというのもあって、静かな小さな声だけど、ぼく達は、ずっと話をしていた。哀名と話していると楽しい。

 そんな風にして、一時間プラネタリウムを楽しんだぼく達は、終わってからこのビルの一階にあるカフェに入った。昨日メッセージアプリで、お昼ご飯も一緒に食べようと約束していたからだ。そちらへ向かって歩きながら、ぼくは哀名を見た。

「プラネタリウム、楽しかった?」

 ぼくは楽しかったけど、哀名がどうだったか気になる。

「うん。すごく楽しかった」

 哀名がやわらかく笑ったので、ぼくはほっとした。
 それからカフェに入ると、店員さんが、ぼく達を奥の席に案内してくれた。
 二人でそれぞれメニューを見て、パスタを注文する。ぼくはたらこパスタ、哀名はキノコとベーコンとしそのパスタを頼んでいた。店員さんが運んできた水を飲んでいると、哀名が口を開いた。

「瑛くんといると、ほっとする」

 ぼくはその言葉に、二つうれしくなった。はじめて名前でよんでもらえた。それに、ほっとしてもらえるのもうれしい。

「ぼくも、詩織といると、ホッと……は、しないかな。なんだろう、ただ、胸が温かくなるんだ」

 ぼくも名前で呼んでみた。ただはずかしくなって下を見てしまう。
 それからちらっと哀名を見ると、笑顔の哀名と目が合った。
 とっても可愛い。思わずぼくも笑顔になる。哀名はぼくが名前を呼んでもいやじゃないみたいだ。ぼくは、もう少し勇気を出してみてもいいのかもしれない。

 ご飯を食べてから、ぼくは店を出てすぐ、哀名に行った。

「手を繋いでもいい?」

 すると哀名が、目を閉じて、満面の笑みを浮かべた。そして目を開くと、大きくうなずいた。

「うん」

 こうしてぼく達は手を繋いで歩き、きさらぎ駅でそれぞれわかれた。哀名はそこまで家族が迎えに来てくれるそうだった。ぼくは、勇気を出して本当によかった。

しおりを挟む

処理中です...