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御遼神社の狐と神様
【17】六条彼方の事情
しおりを挟む「俺は居場所に心当たりがある」
「え? 本当? 彼方さん」
「どうしてお前が知っているんだ?」
彼方に対して二人が聞くと、近くの鞄を引き寄せて、彼方が言った。
「元々俺が新南津市に来た仕事の一つは、その調査だったんだ」
「調査だと?」
「そう。決して、別れさせ屋業でこの界隈を荒らしに来たわけじゃぁない。飲みに行って朝儀さんと知り合ったのは、たまたまだけどね」
飲みに行って知り合ったというどうでも良い情報を、無駄に昼威は記憶した。貧乏な兄がいつ斗望を置いて飲みに行ったのか気になる。しかし今はそんな場合ではない。
彼方がテーブルの上に出した四枚の写真を、昼威は朝儀と共に覗き込んだ。
一枚は店舗の写真で、Cafe絢樫&マッサージとある。
昼威は、その看板に見覚えがあった。藍円寺から街へと続く一本道にある店だからだ。
他の三枚は、猫のような瞳の二十代後半くらいの青年、茶色の髪をした二十代前半くらいの青年、そして緑色の瞳の高校生くらいの少年の写真だった。
「これは?」
昼威が問うと、彼方が楽しそうに笑った。
「現代を生きる妖――吸血鬼と狐火と覚《サトリ》を、六条家で開発した霊能学を援用したカメラで撮影した写真だ」
それを聞いて、昼威は背筋が冷えた。享夜の首筋に、吸血鬼の噛み傷があったことを思い出す。
「少し前から、御上――ああ、政府というかこの国にね、危険視されている妖がいてね」「は? 国?」
「そう。元々は、内閣情報調査室付属庶務零課が監視していた、危険指定重度の妖がいる。今でこそ人間と共存している――風を装ってはいるようだけれど」
その言葉に、思わず昼威は朝儀を見た。国家公務員だった兄――は、実はその、公的には存在しないとされている、庶務零課に所属していたと、昼威は知っていた。その機関は、他の部署が他国の諜報員を監視するかのごとく、妖や怪異といったものの対策をしていた部署だ。
「それって、夏瑪夜明と名乗っている吸血鬼のことだよね?」
朝儀がいつになく真面目な面持ちで言うと、彼方が頷いた。
それから彼方は、猫目の青年の写真に手を置く。
「この絢樫露嬉――ローラと名乗っている吸血鬼は、夏瑪現霊泉学園大学の教授の古い友人だという。彼もまた吸血鬼だ」
「享夜を噛んだ吸血鬼か?」
率直に昼威が聞くと、微苦笑しながら彼方が頷いた。
「さすがは朝儀さんの弟だ。鋭い。さらにこちらの狐火という現象は――その夏瑪教授のゼミに所属していて、次期玲瓏院家の跡取りである玲瓏院紬くんのそばにいる。火朽と名乗っているそうだ」
それを聞いて、昼威は顔を歪めた。
「一つ、また一つと、この新南津市の要である玲瓏院一門の血脈に、妖が近づいている」
その言葉に、昼威は唇を手で覆った。
「俺の仕事はね、不審な妖を排除することだ。力のある人間から――それが、別れさせ屋の一形態なんだ」
彼方の言葉に、昼威は俯いた。それが事実ならば、彼方の行いは悪いものではない。寧ろ人間にとっては歓迎すべき事である。だが、昼威は神様や妖狐からの依頼を思い出した。
「……邪な気持ちで近づき、餌にしているという認識でいいのか? あるいは、何か思惑があると」
「さぁ? それは人間である俺には判断が出来ない」
「――その妖と例えば享夜に、縁といったものがある可能性は?」
「弟が喰べられているのに、驚きの言葉だな」
揶揄するように彼方に言われ、思わず昼威は眼差しをきつくした。
「俺にとってはお前も不審者だ。俺の兄に近づくな。出て行け」
「ちょ、昼威! 彼方さんは、俺の大切な――そ、その、友人だから、そういうことを言わないで」
「公務員時代の知り合いでもないんだろう? 飲み屋で知り合ったんならば」
「そういう事じゃ……彼方さん。すみません。弟は口が悪くて」
朝儀が必死に間に入っているので、嘆息してから昼威は言った。
「で? つまり、お前が享夜を助け出してくれるという事か? 縁を切って、餌と捕食者という関係を切り離してくれるのか?」
「――報酬があれば、無論そうするけれど、俺が請け負っている絢樫Cafe関連の仕事は、あくまでも調査なんだ。現時点では、排除は依頼されていない」
彼方がそう言うと、朝儀が眉根を下げた。
「彼方さん……危ない仕事はしないで。享夜のことなら、僕が助けるから」
それを聞いて、昼威は半眼になった。
「おい、朝儀。助けるとは、どうするんだ?」
「え? この吸血鬼達三匹を消せば良いんでしょう? 斗望がいるから、今は危ない仕事はしないようにしているけど、僕だって可愛い弟のためなら、現役時代を思い出して、頑張って除霊するよ」
朝儀が当然だという顔で言うと、彼方が咳払いをした。
「朝儀さん。相手は強い。俺も、朝儀さんには危険な目にあってほしくはない」
そんな二人を見て、昼威は立ち上がった。
「もう良い。お前らは手を出すな。俺がどうにかする」
昼威のその言葉に、二人が視線を上げた。
「いくら非科学的な存在とは言え――除霊するだの排除するだの仲を引き裂くだの、それはようするに、殺めるのと同じことだ。俺は、それが例え人間では無かったとしても、生きているものは救いたい。当然、享夜を助ける過程で必要ならば、手を下すことも厭わないがな」
そう言って、昼威は帰ることにした。手を出すなよと念押ししてから。
――昼威自身も、たびたび、ホコリを払うように除霊をしている。強制的に霊を消し去っている。だが……確かにそれは、供養して浄霊しているわけではないからあの世に贈るわけではないけれど、昼威の場合は、あくまでもその場から払い除けているだけだ。消滅させているわけではない。
昼威は死に敏感だ。それは、両親が亡くなった時からなのかもしれなかったし、医師という職業に就いてからだったのかもしれないが、本人にはどちらでも良いことだった。
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