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―― 序章 ――
【二】外部編入試験
しおりを挟む三月二十日の早朝の事だった。
中学校までの制服の上に茶色いコートを羽織り、緑色のチェックのマフラーを巻いて、榛名は家の前に立っていた。すると黒塗りの高級な国産車が停止し、後部座席から眞田が出てきた。
「さて、行こうか」
「はい」
促されて後部座席に乗り込む。運転手と、助手席に一人青年が座っていた。
「榛名くん。君は体のどこかに鎖状のアクセサリーを身につけているはずだ」
「え? あ、はい。左足首に、祖父に身につけておくようにと言われて……」
「それは日常生活を送る上で、魔法をうっかり使ってしまわないために身につける事が義務化されている品だ。今回の入試においては、魔力の測定もある。外しておくように」
眞田は明るい声で当然のように語るが、榛名は不審な思いでいっぱいだった。
実はこのアクセサリーを身につけていると露見すると、小中学校では指導が入るとされて、祖父の命で榛名はプールの授業を受けた事がない。泳ぎは代わりに、祖父に市営のプールで教わった。古武術を教わるのと同じように、体力作りも祖父に教わったので、榛名は178cmまで伸びた身長に、よく引き締まった腰回りが若干細いものの相応に筋肉がある体をしている。よく、男らしいと言われてきた。だから人とは異なる目の色で、虐められたこともない。やり返すまでもなく、榛名が強いという噂は広まっていたし、誰も襲ってこなかった。
こうして車が進んでいく。
カルミネート魔法学園は、都心から高速に乗り半日ほどかけて移動した先、榛名からすると山の中に位置していた。盆地を丸々学園都市にしてあるらしい。パンフレットにはそう表記されていた。
「もし試験に落ちた場合、俺には別の選択肢というのが与えられるんですか?」
「そうだね。魔法学園の存在という記憶は消去させもらった上で、さて、どこに売り飛ばすことになるやら」
「売り飛ばす?」
「ああ、別段犯罪的な意味合いではないよ。優秀な魔法使いの血は多くの者が求めるから、必要とする別の魔法使いの伴侶となってもらったり、恐らく君はピアニッシモであるから、適切な供給源になってもらうという意味合いだ」
眞田はそう言うと、長い脚を組み直した。
「ピアニッシモ? 音楽記号ですか?」
「同じ名前だが、意味は違う。それらは、魔法学園でも改めて学ぶ知識であるから、今私から話をする必要は無いだろう。ああ、それと、スマートフォンを預からせてもらうよ」
「カンニング対策ですか?」
「いいや。魔力に触れると精密な電子機器は例外なく故障するんだ。学園内部もその関連で、魔法庁の許可の元、全てがオフラインとなっている。たとえばインターネットといったものは使えない」
「魔法庁?」
「それも公的には存在しないとされる機関だが、教養科目の社会でいずれ習うよ」
そのようなやりとりをしながら、榛名はカルミネート魔法学園へと連れて行かれた。
坂道を上がっていくと、パンフレットで見た通りの城があった。
いくつもの塔が見える。
車を降り、歩きはじめた眞田と、その少し後ろを歩く、先程まで助手席にいた青年の背を見る。すると眞田が振り返った。
「ああ、彼は私の秘書の、高田信孝くんだ」
「はじめまして、榛名様」
「はじめまして、榛名です」
その後守衛らしき男性に眞田は声をかけ、城門を開けさせた。
こうして中へと入り、キョロキョロしそうになる心境を抑えて、榛名は眞田の後ろを進んでいった。案内されたのは、高い塔の一室だったが、外観に反し、中はオフィスビルの一室のような印象の部屋だった。
会場には十五人程度の受験生がいた。名札があったので、眞田達と別れて、榛名は自分の席につく。少しすると、筆記試験が始まった。
教養科目五教科に関しては、中学校までの知識で簡単に解答できた。
不安に思っていた魔法学という科目の試験内容を見た時、思わず榛名は目を疑った。いずれも祖父が書いた本に記してあった事柄で、暗記済みだったものだからだ。眞田が話していた通りだ。一門も、分からない問題は無かった。
「続いて、魔力量測定を行います。制御用の銀鎖を身につけている受験生は外して下さい」
その指示に、既に車内で外していたが、皆が箱の中に鎖を入れているので、ポケットから取り出し、榛名も同じようにした。試験は、球体に手で触れるというものだった。榛名が触れると、透明な硝子玉は、真っ黒に変わった。これがどのような結果なのかは、榛名には分からない。だが終わったらすぐに退出する様子だったので、榛名もそれに倣う。
「試験の結果は、即日で出るんだったな」
控え室に戻って、榛名は椅子に座る。受験生の数も少ないし、採点はすぐに終わりそうだと考えていた。
緊張していないわけではなかった。
これで今後の生活方針が、一つ決まるからだ。
時折時計を見ながら、榛名は待っていた。すると入り口に何度か職員が来て、座っている受験生の名前を呼び始めた。一人、また一人と出て行く。室内には、榛名を含めて、既に三人しかいない。合格者が出ていったのだとすれば、最悪の結果だ。それとも一人一人、合否を告げられているのか。
そこへ、眞田が入ってきた。高田を伴っている。
「さて諸君。合格おめでとう。今回の編入試験の合格者は君達三名だけだ。特に、全問正解かつ学内で一位タイの魔力量を叩き出した榛名くん。君は無事に、自分で選択する権利を手に入れた。後見人として鼻が高い」
それを聞いて、榛名は目を見開いた。
「次に、二位だった明日葉礼音くん。さすがは、英国校からの交換留学生だ。期待しているよ。三位の穂積七緒くん。君は本当にギリギリの結果ではあったが、合格は合格だ。誇りたまえ。さて三名とも、明日の寮分けまでは、こちらが用意した部屋に泊まってもらう。その間、学内は好きに散策してもらって結構だよ」
合格と聞いて、榛名の肩から力が抜けた。それから明日葉と呼ばれた茶色い髪の生徒を見れば、こちらは無表情だった。端整な顔立ちをしている。身長が低く華奢だ。もう一人の穂積という生徒は、橙色に染めた髪をしていて、若干つり目だ。素行不良を地で行くような外見だ。
このようにして、榛名の新生活は、無事に始まることとなった。
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