天涯孤独になった結果、魔法学園(全寮制男子校)に放り込まれた。

猫宮乾

文字の大きさ
2 / 14
―― 序章 ――

【二】外部編入試験

しおりを挟む




 三月二十日の早朝の事だった。
 中学校までの制服の上に茶色いコートを羽織り、緑色のチェックのマフラーを巻いて、榛名は家の前に立っていた。すると黒塗りの高級な国産車が停止し、後部座席から眞田が出てきた。

「さて、行こうか」
「はい」

 促されて後部座席に乗り込む。運転手と、助手席に一人青年が座っていた。

「榛名くん。君は体のどこかに鎖状のアクセサリーを身につけているはずだ」
「え? あ、はい。左足首に、祖父に身につけておくようにと言われて……」
「それは日常生活を送る上で、魔法をうっかり使ってしまわないために身につける事が義務化されている品だ。今回の入試においては、魔力の測定もある。外しておくように」

 眞田は明るい声で当然のように語るが、榛名は不審な思いでいっぱいだった。
 実はこのアクセサリーを身につけていると露見すると、小中学校では指導が入るとされて、祖父の命で榛名はプールの授業を受けた事がない。泳ぎは代わりに、祖父に市営のプールで教わった。古武術を教わるのと同じように、体力作りも祖父に教わったので、榛名は178cmまで伸びた身長に、よく引き締まった腰回りが若干細いものの相応に筋肉がある体をしている。よく、男らしいと言われてきた。だから人とは異なる目の色で、虐められたこともない。やり返すまでもなく、榛名が強いという噂は広まっていたし、誰も襲ってこなかった。

 こうして車が進んでいく。
 カルミネート魔法学園は、都心から高速に乗り半日ほどかけて移動した先、榛名からすると山の中に位置していた。盆地を丸々学園都市にしてあるらしい。パンフレットにはそう表記されていた。

「もし試験に落ちた場合、俺には別の選択肢というのが与えられるんですか?」
「そうだね。魔法学園の存在という記憶は消去させもらった上で、さて、どこに売り飛ばすことになるやら」
「売り飛ばす?」
「ああ、別段犯罪的な意味合いではないよ。優秀な魔法使いの血は多くの者が求めるから、必要とする別の魔法使いの伴侶となってもらったり、恐らく君はピアニッシモであるから、適切な供給源になってもらうという意味合いだ」

 眞田はそう言うと、長い脚を組み直した。

「ピアニッシモ? 音楽記号ですか?」
「同じ名前だが、意味は違う。それらは、魔法学園でも改めて学ぶ知識であるから、今私から話をする必要は無いだろう。ああ、それと、スマートフォンを預からせてもらうよ」
「カンニング対策ですか?」
「いいや。魔力に触れると精密な電子機器は例外なく故障するんだ。学園内部もその関連で、魔法庁の許可の元、全てがオフラインとなっている。たとえばインターネットといったものは使えない」
「魔法庁?」
「それも公的には存在しないとされる機関だが、教養科目の社会でいずれ習うよ」

 そのようなやりとりをしながら、榛名はカルミネート魔法学園へと連れて行かれた。
 坂道を上がっていくと、パンフレットで見た通りの城があった。
 いくつもの塔が見える。
 車を降り、歩きはじめた眞田と、その少し後ろを歩く、先程まで助手席にいた青年の背を見る。すると眞田が振り返った。

「ああ、彼は私の秘書の、高田信孝たかだのぶたかくんだ」
「はじめまして、榛名様」
「はじめまして、榛名です」

 その後守衛らしき男性に眞田は声をかけ、城門を開けさせた。
 こうして中へと入り、キョロキョロしそうになる心境を抑えて、榛名は眞田の後ろを進んでいった。案内されたのは、高い塔の一室だったが、外観に反し、中はオフィスビルの一室のような印象の部屋だった。

 会場には十五人程度の受験生がいた。名札があったので、眞田達と別れて、榛名は自分の席につく。少しすると、筆記試験が始まった。

 教養科目五教科に関しては、中学校までの知識で簡単に解答できた。
 不安に思っていた魔法学という科目の試験内容を見た時、思わず榛名は目を疑った。いずれも祖父が書いた本に記してあった事柄で、暗記済みだったものだからだ。眞田が話していた通りだ。一門も、分からない問題は無かった。

「続いて、魔力量測定を行います。制御用の銀鎖を身につけている受験生は外して下さい」

 その指示に、既に車内で外していたが、皆が箱の中に鎖を入れているので、ポケットから取り出し、榛名も同じようにした。試験は、球体に手で触れるというものだった。榛名が触れると、透明な硝子玉は、真っ黒に変わった。これがどのような結果なのかは、榛名には分からない。だが終わったらすぐに退出する様子だったので、榛名もそれに倣う。

「試験の結果は、即日で出るんだったな」

 控え室に戻って、榛名は椅子に座る。受験生の数も少ないし、採点はすぐに終わりそうだと考えていた。

 緊張していないわけではなかった。
 これで今後の生活方針が、一つ決まるからだ。
 時折時計を見ながら、榛名は待っていた。すると入り口に何度か職員が来て、座っている受験生の名前を呼び始めた。一人、また一人と出て行く。室内には、榛名を含めて、既に三人しかいない。合格者が出ていったのだとすれば、最悪の結果だ。それとも一人一人、合否を告げられているのか。

 そこへ、眞田が入ってきた。高田を伴っている。

「さて諸君。合格おめでとう。今回の編入試験の合格者は君達三名だけだ。特に、全問正解かつ学内で一位タイの魔力量を叩き出した榛名くん。君は無事に、自分で選択する権利を手に入れた。後見人として鼻が高い」

 それを聞いて、榛名は目を見開いた。

「次に、二位だった明日葉礼音あすはれおんくん。さすがは、英国校からの交換留学生だ。期待しているよ。三位の穂積七緒ほづみななおくん。君は本当にギリギリの結果ではあったが、合格は合格だ。誇りたまえ。さて三名とも、明日の寮分けまでは、こちらが用意した部屋に泊まってもらう。その間、学内は好きに散策してもらって結構だよ」

 合格と聞いて、榛名の肩から力が抜けた。それから明日葉と呼ばれた茶色い髪の生徒を見れば、こちらは無表情だった。端整な顔立ちをしている。身長が低く華奢だ。もう一人の穂積という生徒は、橙色に染めた髪をしていて、若干つり目だ。素行不良を地で行くような外見だ。

 このようにして、榛名の新生活は、無事に始まることとなった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

処理中です...