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―― 第一章 ――
【十三】初日の学食
しおりを挟む「きゃぁあああ!」
「政宗会長!!」
「透様!」
「明日葉様本当にお帰りになられたのね!」
「あれが新しい調律委員会の――」
「ところであの平凡は?」
「平凡……ちょっと好みかも」
「わかる」
学食に入ると、本日も凄い数の声が降りかかってきたため、榛名はひっそりと手袋のボタン部分を操作して、ボリュームを下げた。一体何故学食に入ると完成が上がるのかは、まだ榛名はよく分かっていない。
「ほら、高橋くん。名前書いてぇ」
宮花が用紙を渡すと、高橋が死んだ魚のような目をしてそれを受け取った。
「明日葉ちゃんも俺の紙に名前書く?」
それから宮花が明日葉を見ると、明日葉が微笑した。
「ありがとうございます。そうさせて頂けると嬉しいです」
明日葉の微笑は本当に可憐であり、音量を下げている状況でも周囲の視線が明日葉につきささった事は榛名にも理解できた。ただ榛名はそれよりも、この状況からするに二階席で食べるようだと判断していた。なので、世界各国の料理について脳裏に思い浮かべる。果たしてなにを食べようか。
「ほら、ぼけっと立ってんじゃねぇよ。行くぞ」
すると政宗に促されたため、榛名は慌てて歩きはじめた。
用紙を提出するボックスのところには、本日担当の調律委員の生徒がいたため、先輩達に会釈をすることは忘れなかった。
二階席はほとんどガラガラだったので、奥の窓際の前に五人で向かう。丸い大きなテーブルだ。政宗の隣に榛名は座り、政宗の逆隣が明日葉、そして宮花、宮花と榛名の間が高橋だ。
「なにを食べる?」
政宗に問いかけられた榛名は、顔を向ける。
「おすすめはあるか?」
まだ蕎麦しか食べていないため、烏丸先輩以外のおすすめの品も気になって、榛名は問いかける。
「ん。俺はサーモンといくら丼が好きだ。これは外れない」
「そうか。じゃあそれにする」
「……お、おう。いやでも、いつでも食べられるし、お前が好みを言えば、俺がチョイスしてやらないこともないぞ?」
「そうか? そうだな……といっても俺はあまり外食はしてこなかったから、どういうメニューがあるか分からなくてな」
榛名が唸っていると、政宗が言う。
「洋食と和食はどちらが好きだ?」
「どちらも好きだ」
「今日の気分は?」
「今はサーモンといくら丼を選ぶ程度には和食だ」
「海鮮天ぷら御膳も美味いぞ」
「なんだそれは、美味しそうだな」
二人がそんなやりとりをしていると、宮花が目を丸くした。
「やっぱり仲は良さそうだね」
するとハッとしたように顔を上げた政宗が唇を震わせる。
「べ、別に! だ、誰がこんな奴!」
「宮花。政宗は気を遣ってくれているんだろう、俺が病み上がりだから。ただの親切心で別に親しいわけではない」
榛名なりには政宗を援護したつもりでそう述べる。すると政宗がぷいっと顔を背けた。少々不機嫌そうに見える。
「透こそ高橋と親しそうじゃねぇか」
「うん! 俺ぇ、高橋くんとは気が合う気がしててさぁ」
「……、……」
高橋が凄く嫌そうな顔のままで小さく頷いた。眼鏡をかけているのだが、その奥の瞳が泣きそうにしか見えない。
そんな様子を見つつ、一人会話に入っていない明日葉を、榛名は見た。
「明日葉は、英国に留学して、交換留学でまた戻ってきたと聞いた。やはり日本の味は恋しくなるか? なにを頼む?」
榛名が話を振ると、花が舞うような微笑を明日葉が浮かべた。
「うん。それじゃあ僕がサーモンといくら丼にしてみようかな。ありがとう」
「そうか。では俺はそれを見て、次回それを頼むか検討する」
政宗を挟んでそうやりとりをしていると、少しして給仕の職員が注文を取りに訪れた。五人がそれぞれ注文すると、すぐに下がっていく。
それから五人で雑談をしていた。主に窓から見える桜が綺麗だと榛名が話し、明日葉が微笑しながら頷いていた。政宗は至極どうでも良さそうに腕を組んでおり、宮花は終始高橋にのみ話しかけていた。
こうして料理が届くと、海鮮天ぷら御膳は非常に豪華だった。海鮮丼と天丼のセットである。量はそれなりにあるが、榛名は食べ応えがありそうで見ただけで頬が蕩けそうになった。
「うん、美味いな」
いただきますと手を合わせてから榛名は満面の笑みを政宗に向けた。すると政宗が、うっとなにか呻いたような顔をした後、目を閉じて顔を背ける。
「お前のその急に素直になるのなんなんだよ本当」
「美味しい者は素直に賞賛してなにが悪いんだ。紹介感謝する」
その後榛名は食事に集中した。すると明日葉が政宗に話しかけ始めた。
「政宗様」
「あ?」
「その……今週末の新入生歓迎会への同伴者はもうお決まりですか?」
「お前には関係ないだろ」
ぴしゃりと政宗が言うと、明日葉が沈黙した。その空気には、思わず榛名の意識も食事から逸れた。そしてちらりと明日葉を見る。
「留学から戻ってまだ親しい相手が見つからずパートナーを探しているという話だとすれば、政宗の言い方は冷たすぎないか?」
そして思わずそう言うと、政宗が不機嫌そうに眉を顰めた。
「あ?」
「は、榛名様、いいのです。僕が不躾だったから……」
明日葉が困ったように眉根を下げ、小さな声を出す。それを一瞥してから、榛名は腕を組んだ。
「宮花、お前は決まってるのか?」
「俺ぇ? お誘いはいっぱいあるけど、高橋くんを口説こうかなって思ってるよ」
「高橋は嫌そうにしているし、明日葉と出たらどうだ?」
「……嫌そうって、榛名委員長本当のことすぎるけどさぁ。うーん。俺はぁ、明日葉ちゃんと出てもいいよぉ」
心花がそう言うと、明日葉が顔を向けて微笑した。
「僕は心に決めた方がおりますので、その方に断られたら仕方ないものとします。ありがとうございます」
それを聞いて、榛名は余計な事を言ってしまったと思った。
「榛名様は誰とご同伴なさるのですか?」
「俺はその日は会場内の見回りがあるから、調律委員の者と行動を共にする」
「まさか烏丸じゃねぇだろうな?」
すると政宗が不機嫌そうな声を放った。
「? その可能性はかなり高い。なにせ来年からは烏丸先輩がいないから、俺一人で指揮をしなければならなくなるそうでな。俺は今年の内に教わっておかなければならないことが多いんだ」
「……へぇ。まぁ、腕章してるんならいくらかはマシか」
ぼそりと政宗はそう言ってから、明日葉を見た。
「俺も心に決めた相手と以外は、夜会や催しは基本的に同伴しないつもりだ。気が合うな」
きっぱりと政宗が言うと、明日葉が悲しげに笑った。
榛名には、明日葉が政宗に振られたように見えたが、勘違いかも知れないので、その後はまた食に集中することに決めた。
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