19 / 45
―― 本編 ――
【十九】動悸
しおりを挟む「おかしい? いいや、おかしくない。ただ、その……嬉しくて」
慌てたように青辻が口を開いた。それに驚いて、漸く槙永が顔を上げると、僅かに赤面している青辻の顔が、正面にあった。青辻は実に嬉しそうに視線を彷徨わせては、それから改めて槙永を見るという動作を繰り返し、唇では弧を描いている。
「本当に、嬉しい」
まさかこんな風に喜ばれるとは思わず、槙永は目を瞠った。すると、青辻が両手を槙永の肩に置いた。
「悪い。嬉しいんだ。あんまり、誰かに直接褒められる事が無くてな」
「え?」
「俺も本当に綺麗だと思ってるんだよ。そんな世界の片鱗を、少しでも良いから切り取る事が出来たらと、日々模索しているんだ。それが、伝わっていたというのが、何よりも嬉しい。分かる、俺も深水の自然が好きだし、自分の写真も好きだ。そうか……届いていたんだな、槙永くんの心に。有難う」
青辻の指に力がこもり、その後顔には満面の笑みが浮かんだ。思わず槙永は、その表情に見惚れた。ドクンと、胸の奥が高鳴った。一度それを自覚した直後、今度は鼓動が早鐘を打ち始めた事に気が付いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
61
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる